第五章 『合宿』⑬
「嫌や! ウチ、そんなん見たくもない。捨てて!」
「でも、捨てちゃうと足りなくなるんだよ」
部屋の隅にレオと亜依を除く四人は集まっていた。言い争いをしているのは、千鶴と豊だ。
そこにレオがやってくると、その到着を待ちかねていたように千鶴が相談を持ちかけた。
「なぁ、レオ君、“これ”どないしよ?」
千鶴の言う“これ”とは、ドーベルマンの返り血が付着した食料だった。
レオはさほど考える様子も見せずに答えた。
「捨ててしまおう」
「でも、そうすると、絶対に足りなくなるよ」
千鶴の隣で豊が困った顔をする。確かに、彼の言い分は正しかった。咬み荒らされた物は時間が短かったため少量ですんだのだが、返り血のついた食べ物まで処分してしまうとなると、残りは半分ほどになってしまうのである。
しかし、
「それでいいんだよ」
それが当然であるかのようにそうレオは言った。
「どうして?」
「僕たちは、気を抜きすぎていた。窓やドアが壊されていたことや、置かれている食料の不自然さに気づいていながら、みすみす犬をこの部屋まで立ち入らせてしまった。だから、もう一度全員の気持ちを引き締めるためにも、残り少ない食料を絶対に守る、という状況を作り出したほうがいいと思うんだ」
「……うーん」
まだ納得できていない顔をする豊に、今度は千鶴が提案した。
「じゃあ、こうしよう。豊のこれからの食事は、全部犬の血ぃがついたやつ。安心してええで、ちゃんと血ぃは洗い流したるから」
「えー? 僕だけが食べるの?」
「たくさん食べられるで。よかったなぁ」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
自分だけがそんな物を食べるのは嫌だったのだろう。ごねていた豊の態度が急変した。
「分かった、分かったよ。捨てるよ」
結局、返り血のついた食料は廃棄することになった。
この後、恭也とレオと清次郎は廃棄物を外へと運び出す係、豊と亜依と千鶴は室内の清掃と二手に分かれ、片づけ作業を行っていった。
その途中、
「あ! 分かった。そういうことか……」
はっとした様子で恭也が呟く。
「何が分かったの?」
そう尋ねてくる豊に、恭也は、自信に充ち溢れた顔で答えた。
「この建物に窓やドアがなかった理由たい。聞いて驚くなよ。それは、“犬を侵入しやすくさせるため”やったとたい」
「う、うん。えっと……、ごめん。知ってた。あと、ついでに言うなら、食料に缶詰がなかったのは、それが匂いを出さないからだね。犬たちは匂いを追ってこの建物に向かってきたみたいだから。それと、千鶴だけが襲われたのは、直前にビーフジャーキーを食べていたからだろうね。犬たちは、食べ物の匂いがするものを無差別に咬み荒らすよう、躾けられていたんだと思うよ」
自分が気づいたこと以上の解説をされてしまった恭也は、
「な、何や、豊も分かっとったとや? まぁ、簡単な推理やからな、うん」
と早口で言い、先ほどまでとは打って変わった寂しげな表情で片づけを再開した。
この日を始まりとして、五日目に五頭、七日目には七頭のドーベルマンが臥蛇島に投下されたが、警戒を怠っていない子供たちの前では敵ではなかった。パラシュートで降下中の犬を狙撃するという邪道だとも言える作戦で、自らの命と残された食べ物を守り切ったのである。
手慣れた様子で狙撃を行う子供たち。
しかし、その中で亜依だけは、犬を撃つことを最後まで拒み続けていた。




