第五章 『合宿』⑦
「あ、そうだ」
ふと思い出したように、レオは再度口を開いた。
「僕の話、やっぱり山瀬さんの召集理由を知る参考にはならなかったね」
「え、えっと、……うん。あ、でも、いいの。召集された理由が分からないのは、清次郎君も同じだから」
「いや、山川君は……」
そう言いかけてレオは、失言だとの顔で亜依から目をそらした。
だが、それを彼女が聞き逃すはずがない。
「清次郎君は、自分が召集された理由を知ってるの?」
と、すぐさま尋ねた。
ここではぐらかせば、亜依の心を余計に傷つけてしまうことになる。そう考えたレオは、正直に伝えることにした。
「恐らくだけど、道場の再建費用と引き換えだろう、って……」
「じゃあ、理由が分からないのは、結局、私だけなんだ」
とつとつと亜依は呟いた。その表情は、夜の海さながらに暗い。
そんな彼女に、レオは灯台の灯りのような言葉を投げかけた。
「知る方法が、ひとつだけあるよ」
「え?」
希望という名の一筋の光を受け、亜依の瞳が輝いた。
「レオ君、教えて。それって、どんな方法?」
「ご両親に会って、直接聞くんだよ。全てが終わったあとでね」
「全てが終わったあと……」
確かに、それが最も確実で、また他に方法がないことは亜依にも理解できた。
だが、そのためには、殺人専門部隊である『MC』を、霞が関の施設へと連行しなければならないのだ。
「ねぇ、レオ君。私たち、『MC』を説得できるのかな?」
不安げに亜依がレオを見つめる。
「山瀬さんが気弱になっちゃ駄目だよ。施設の射撃訓練で命中率百パーセントだったのは、山瀬さんだけなんだから」
「あ、あれは……」
亜依は口籠もった。
レオの言うとおり、亜依の射撃の腕が確かなのは事実だった。理由は分からないが、何故だか当たるのである。
「山瀬さんには天賦の才があるんだよ。だから、もっと自信を持って」
そう勇気づけるレオに、亜依は、
「ありがとう」
と、返事をした。
しかし、彼女の胸中は複雑だった。自分が持っている才能は、人に怪我を負わせ、場合によっては死に至らせてしまうものだからである。
「撃ち合いじゃなくて、話し合いで解決できないのかな?」
亜依がそうレオに尋ねる。
「それが理想だけど、恐らくは無理だろうね」
「何故?」
「僕たちが拳銃を持たされているのがその理由だよ。話して分かる相手じゃないから持たされているんだろうし、そう考えると、銃撃戦は避けられないだろうね」
レオの意見は、いつも理論的かつ的確だ。そんな彼の発言に、亜依はこれまで幾度となく助けられてきた。だが、今の彼女にとっては、その的確さが何よりもつらかった。
「それと……」
そう前置きして、レオは続けた。
「もし、山瀬さんが、拳銃を使いたくない、なんて思っているんだとしたら、その考えは捨てたほうがいい。相手は、必ずそれを使ってくるんだから。撃たれてしまったら、ご両親に理由、聞けなくなるよ」
「……」
図星をさされ、亜依は返す言葉をなくした。
黙りこむ彼女に合わせるように、レオもその口を閉じた。
潮の香のする風に吹かれながら、二人は、灯台が照らす金色の海を静かに見つめ続けていた。




