第五章 『合宿』③
一方、島の探索をしている四人は、東部、楠久浜付近にいた。居住者がいたころは、集落だった場所である。船着き場の近くだとはいえ、浜は急斜面の下、こちらは上に位置する。
昔は、浜からこの集落まで二百段近い階段が続いていたのだが、現在ではそれはなくなり、崖のような斜面だけが残っている。
そのため、もし、浜から上陸したとしても、ここまで上がってくるのは容易なことではないだろう。
四人の見回す範囲には、コンクリート造りの建物三棟と朽ち果てた鉄塔が散らばって建っている。建物は、灯台の傍のものより小さく、小学校の体育倉庫ぐらいの大きさだった。
三棟の建物を注意深く見て回ったあと、豊が言った。
「結局、何もなかったね」
「うん。でも、これからも警戒は必要だと思うよ」
険しい表情でそう返事をしたのは、レオだった。
「え? 何でや?」
豊の隣で恭也が不思議そうな顔をする。
「理由は幾つもあるよ。例えば、僕たちの拠点となるあの建物に、食料が置いてあっただろう?」
「あぁ、あった」
「どんな物があった?」
レオの問いに、恭也は首を横に振って答えた。
「そげんことまでは覚えとらんばい。ちょっと見ただけやもん」
すると、
「オラ、覚えてるじゃ」
突然、清次郎が声をあげた。
「び、びっくりした。いきなり喋り出すなや、おっさん」
半ば恒例化している恭也の悪態を無視し、清次郎は積んであった備蓄食料の種類を列挙し始めた。
「乾パンに干し肉、魚の干物。あとは、レトルト食品だ」
「うん。僕の記憶でもそうだ。では、何故そんな物ばかりなんだと思う?」
頷きながらレオは更にそう聞いた。
「それは、“あめる”からじゃ」
「“あめる”、って?」
豊が尋ねる。
「“あめる”が分がねか? “腐る”って意味だ」
“あめる”の意味はレオも分からなかったのだろう。彼は、清次郎の解説を聞いてから話を続けた。
「初めは僕もそう思ったよ。ガスや水道はあるのに、あの建物には冷蔵庫どころか、電気そのものがなかったからね。でも、そう考えると変なんだ」
「何が変なんや? はっきり言え」
気短な恭也が、少し苛々しながら先を促す。
「缶詰がないんだよ。レトルト食品は別にしても、乾物は湿気に弱いんだ。窓やドアがないあの建物に食品を置くなら、缶詰のほうが理に適っている。特に魚の干物は、食べる時に焼く手間も必要になるしね」
「何となくやが、理屈は分かった。ばってん、それとこれからも警戒が必要やというのと、どう関係があるとね?」
「確実な関連性があるのかは分からないよ」
「分からん、って……」
恭也は、軽く溜め息をついた。
「あ、違うんだ。僕が言いたいのは、それが、“意図的に作られた状況”なんじゃないか、ということなんだ」
「は? どういうことね?」
恭也には話が難しく、既に理解することを放棄していたが、一応聞いた。
「いいかい? 拠点となる建物はドアや窓が壊れていたのに、内装は綺麗に整えられていた。ガスや水道はあるのに、電気がなかった。乾物やレトルト食品はあるのに、缶詰がなかった。そして、島には僕たち以外誰もいないようなのに、銃が用意されていた。これらが、何かの目的のために初めから仕組まれていることなのだとしたら」
「なるほど。理由は幾つもあるって言っていたのはそういうことか。今後、仕組まれていることの中のどれが注意しないといけない材料になるのかは分からないけど、分からないからこそ、全てに気をつけないといけないってことだね」
頷きながら話をまとめたのは、豊だった。どうやら彼には、レオの考えが理解できたらしい。
また、それとともに、
「そうだな、警戒は怠れねぇな」
腕を組む清次郎も、難しい顔をして話に加わっている。
会話についていけていないのが自分だけなのだと察した恭也は、
「もうよか。早く別の場所に行こうや」
と、三人を残したまま不貞腐れた足取りで勝手に南へとその歩を進め始めた。
この後、南部の岩谷崎から西部の平瀬崎へと、島の海岸沿いの崖を時計回りに一周してみたが、別段、島に変わった様子はなかった。
そして、午後七時。四人は、拠点となる灯台近くの建物へと帰還したのだった。




