第五章 『合宿』②
十分後。
「じゃあ、話し合ったことをまとめるよ」
一度五人を見回してから、レオは続けた。
「今回、僕たちに与えられた任務は、“『MC』の潜伏先が判明するまで、この臥蛇島で生活すること”なんだけど、それにどんな意味があるのかは不明。でも、現在、この島の周辺が船舶進入禁止になっている事実と、収納ボックスの中に人数分の“これ”があったのを総合して考えれば、この島で何かが起きることは明白」
“これ”と呼んでレオが取り出したのは、施設内で六人が毎日使用してきた拳銃、“ニューナンブM60”だった。
「そこで、これからなんだけど、先ずは、この島の地形を把握することから始めてみようと思うんだ。ただし、何があるのか分からないから、探索に行くのは女の子を除く四人だけで。いいかな? 早坂さん、山瀬さん」
レオが二人へと目を向ける。
この問いかけ、いつもの千鶴ならば、「レオ君について行く」と言い出したであろう。
ところが、この時の彼女は、
「うん。そうしてもらえると助かるわ。さっき少し見てんけど、ここ、シャワーがついてるみたいやねん。四人が外に出てる間に使わせてもらうわ」
と、意外とあっさり留守番を承知した。
また、それにつられるように亜依も小さく頷いた。
「よし。そうと決まったら、暗くなる前に戻れるようすぐに出発しよう」
レオに促され、恭也、豊、清次郎が拳銃を携えて立ち上がった。
「レオ君、早く帰ってきてな。ウチ、お夕飯の準備して待ってるわ」
笑顔で手を振る千鶴に見送られながら、四人は建物をあとにした。
「……さて、と」
四人がいなくなったのを見届けると、千鶴は、徐に亜依へと視線をやった。何故だろうか、その目は怒っているようにも見える。
「な、何?」
僅かな動揺を隠し、亜依が尋ねる。
すると、小さく溜め息をつき、千鶴は言った。
「何、って、こっちが聞きたいわ。今朝、ウチらが道場を出たあと、恭ちゃんと何があったん?」
「いいえ、別に、何も……」
言葉を濁す亜依。
だが、千鶴は更に追及した。
「やったら、施設を出てから今まで、二人の会話がないんはどうしてなん?」
「会話がないのは、清次郎君も同じでしょう?」
「清ちゃんは、元もと口数が少ない人やから心配ない。でも、亜依ちゃんは違う。そうやろ?」
「……」
亜依は黙って俯いた。
「なぁ、亜依ちゃん。『MC』の怖さ、澪さんから聞いたやろ? 下手すると、全員殺されてしまうかも知れんのやで。せやから、その可能性をできるだけ削るためにも、今はお互いが信じ合い、助け合わなあかん。せやのに、二人はぎくしゃくしてる。気になるのは当然やん」
「そう、だよね」
亜依は、申し訳なさそうに小柄な身を一層縮めた。
「ウチ、他人事にあれこれ口出しするの、ほんまは嫌いやねん。せやけど、不協和音があるせいで『MC』に殺されるなんてもっと嫌や。亜依ちゃんもそうやろ? やから、話してみて。六人の誰も欠けることなく、生きて帰るためにも」
千鶴の必死な訴えが通じたのか、漸く亜依はその重い口を開いた。
「あ、あのね……」
彼女は、七夕祭りでの出来事と道場であったことを千鶴に話した。
そして、
「ねぇ、千鶴ちゃん。私、怖いのかも知れない。人を好きになって、またその人に裏切られるのが、怖いのかも」
その目に涙を浮かべる。
そこに、千鶴はきっぱりと告げた。
「亜依ちゃんは、ずるいわ」
「え?」
「だってそうやろ? 亜依ちゃんは、まだ恭ちゃんのこと信じてへんやん」
「だから、それは裏切られるのが……」
「そんなもんは言い訳や。裏切られるのを怖がるんは、その人を信じたあとなんちゃうん? 七夕の彼氏と恭ちゃんは、まったく違う人なんやで。信じてくれてへん人を守ろうとして殺されたんじゃ、恭ちゃんも浮かばれへんやろ?」
「恭也君は、死なない!」
亜依は、むきになって否定した。
それを見た千鶴は、「分かってる」と言うように頷き、
「ほら、やっぱり亜依ちゃん、恭ちゃんのこと好きなんやん」
と、微笑んだ。
単純な誘導訊問に引っかかってしまったのだと気づいた亜依は、真っ赤になって顔を伏せた。
「好きなんやったら、信じてあげなあかんやろ?」
千鶴が亜依の肩にそっと手を置く。
「うん」
亜依は頷いた。
「まぁ、万が一、亜依ちゃんを裏切るようなことをしたら、その時は、ウチが恭ちゃんに、真空飛び膝蹴りをお見舞いしたる」
そう言って千鶴が笑うと、亜依も、
「ありがとう、千鶴ちゃん」
と、笑顔になった。
「……あ、そうや。もうひとつの建物、見に行かへん?」
「うん。行ってみよう」
千鶴の提案に亜依も賛成し、二人は、向かいにある建物へと駆け出して行った。




