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MC ~死に行く運命の子供たち~  作者: 直井 倖之進
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第三章 『全員集合』③

「く、黒崎!」

 男の姿を両眼に捉えるや否や、恭也がその目を大きく見開く。まるでお化けでも見たかのような驚きようだ。

 一方、黒崎は、

「恭也。お前の声、廊下まで響きよったぞ」

 と、普段と変わらぬ口調で彼に声をかけた。

「な、何で、黒崎が、ここに?」

 震える口を無理にこじ開け、恭也は、それだけを何とか絞り出した。

「何で、とか聞かれても困る。俺は昨日で教師ば辞めた。そして、今ここにおる。それだけの話たい。……ん? ちょっと待てよ。俺が辞めたとば知らんかったということは、まさか、お前、昨日も学校をサボったとや?」

「いや、それは……」

 担任の退職のことはメールで知っていたのだが、学校をサボっていたのは事実だ。腕を組んでこちらを睨む黒崎を前に、恭也は思わず口籠もった。

 ところが、いつもならばここから説教への流れとなるのだが、今日は違った。

「まぁ、よかたい。それより、お前、何か聞きたかったとやなかや?」

 そう黒崎は尋ねる。

 運よく話題が変わったことに安堵しつつ恭也は、

「そ、そうたい。忘れるところやった。そこの女の人から渡されたとばってん、これ、何?」

 と、手に持っている紙を突き出した。

 すると、黒崎は、態とらしく小さく笑って告げた。

「一番上にちゃんと書いてあったやろうもん。お前、そげんな簡単な漢字も読めんとや? それは、“しぼうとどけ”っち読むとたい。もっと勉強せぇ」

 その態度が癪に障った恭也は、語気を荒げた。

「いや、そうじゃなか! 俺が聞きたかとは、“どうして、俺の死亡届がここにあって、それにお袋がサインばしとるとか?”ということたい!」

 その途端、黒崎の顔から笑みが消えた。

「その理由を、聞きたかとや?」

「あぁ」

 僅かな緊張を隠し、恭也は頷いた。

「話してもよかけど、後悔するばい」

 澪と同じことを黒崎が言う。

 恭也も、

「構わんけん、言え!」

 と、同じ返事をした。

「分かった、教えちゃろう」

 黒崎は、澪が持っていたファイルを受け取ると、それをぱらぱらと捲り始めた。

「それじゃあ、話すばい。……えーと、竹田恭也。お前、俺が知らんところで色いろやっとったなぁ。飲酒に喫煙、傷害に万引き、深夜徘徊などでの補導が、計二十六回。まったく、俺が警察署にお前を引き取りに行った回数の倍以上やないか」

「……」

 返す言葉なく、恭也は黙った。

「そんなお前を真っ当な人間にしたいというのが、お袋さんがサインをした理由たい。国から派遣された者が、お子さんを連れて行きたいっち言ったら、お袋さんは、それで息子が変わるのなら喜んでっち答えたげな。死ぬかも知れない。そう話しても、その気持ちに揺らぎはなかったってたい。まぁ、今まで適当に生きてきた罰ということやな」

「……」

 恭也は、拳を握り締めて俯いた。

 そこに、

「ぼ、僕は? 僕、彼に比べたらそんなに悪い事していませんよ」

 必死な形相で豊が訴える。

「小柳豊、か。お前も、理由を聞きたかとや?」

 「うん、うん」と、彼は何度も頷いた。

 黒崎は、再びファイルに目を落とした。

「豊。お前の家は、定食屋やな?」

「はい、そうです」

「その定食屋、上手くいってなかったってたい。借金が膨れて二千万。お前は、親から二千万円で売られて、今ここにおる」

「に、二千万? たったそれだけで……」

 豊も恭也と同じくうな垂れた。

 次に口を開いたのは千鶴だった。

「じゃあ、ウチは? ウチの家は代々続く財閥やから、お金なら捨てるほど……」

「早坂千鶴。お前は、一億円たい」

 ファイルを見たまま黒崎は言った。

「一億? い、一億かぁ……。まぁ、二千万よりはましやね」

 動揺を隠すように、千鶴が豊に目をやる。

「失礼だな!」

 顔を真っ赤にして豊は怒鳴った。

 ところが、

「いや、違うぞ」

 黒崎は首を横に振った。

「違う? 違うって、どういう意味?」

 千鶴が戸惑う。

「豊とは理由が違うっちいう意味たい。お前の祖父である早坂銀一郎氏が、国に一億円を支払って、お前をここに預けたげな」

「じいちゃんが? な、何で?」

「早坂家で最も出来の悪い千鶴に、世の中の厳しさを教えてやってくれ。そう銀一郎氏自らが頼みにきたっち書いてある」

「は? う、……嘘やろ?」

 千鶴は、「……嘘やろ?」の“ろ”の口のまま固まってしまった。

「マイナス一億円の女、早坂千鶴」

 小馬鹿にしたように豊が呟く。

「うっさいわ、……アホ」

 何とか言い返した彼女だったが、最早、その声に覇気はなくなっていた。

「さて、と。他の三人は、理由を知らんままでよかや?」

 黒崎は、亜依とレオと清次郎をひとりずつ順番に見た。

 三人の誰も返事をすることはなかったが、黒崎は「分かった」と言うように頷き、

「まぁ、世の中には、知らんほうが幸せなこともある。そうことたい」

 と、ファイルを閉じてこの話を終わらせた。

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