第三章 『全員集合』①
第三章 『全員集合』
「ここやね。やっと見つけたばい」
施設内の会議室前でそう呟いたのは、恭也だった。
「人をこげんなところに置き去りにして案内もせんとか、まったく困ったもんばい」
そう愚痴を溢すと、彼は会議室のドアを開けた。
室内には、既に五人の先客がいた。十個の目が一斉に彼へと向けられる。
「ど、どうも」
恭也は、誰にともなく会釈した。
「なぁ、自分も変な紙でここに呼ばれたん?」
挨拶もそこそこに椅子を出し、そこに座るよう促しながら尋ねたのは、関西弁の女の子だった。
「自分も、って、え? じゃあ、皆、黒スーツの奴らに連れてこられたとね?」
腰をかけた恭也が五人を見回すと、皆、一様に頷いた。
「うん。でな、亜依ちゃんに聞いてんけど、その紙、召集令状って言うんやて。あ、亜依ちゃんはこの子で、ウチは千鶴。早坂千鶴。よろしくー」
千鶴は、左隣に座ったボブショートの女の子と自分を紹介した。
「あぁ、よろしく。俺は竹田恭也。それで、その召集令状っち何ね?」
恭也は千鶴に聞いたが、答えたのは亜依だった。
「昔、戦争に行く人に届いた手紙のこと。“赤紙”とも呼ぶんだよ」
「へぇ、よう知っとるねぇ」
恭也が感心すると、亜依は照れたように頭を掻いた。
そこに、
「褒めてる場合じゃないよ! 僕たち、戦争に行くことになるかも知れないんだよ!」
そう話を遮る苛立った声が。それは、眼鏡をかけた背の低い男の子だった。
そちらへとちらりと目をやり、恭也は言った。
「何ね、小学生もおるとね?」
「僕、中二なんだけど」
「え? 中二? その身長で?」
恭也が小馬鹿にしたような態度を取る。
眼鏡をかけた男の子は、その顔を睨み据えて怒鳴った。
「背丈は関係ないだろ! 人を見た目でしか判断できないなんて、……ガキだね」
「何てや?」
恭也が椅子から立ち上がる。
その時、低い声が室内に響いた。
「おめたち、煩ぇぞ」
声の主は、恭也よりも遥かに大柄な男だった。
「何や? おっさんも連れてこられたとや?」
腕を組んでこちらを見ている男に恭也が視線を移すと、
「オラ、おっさんじゃねぇ! まだ、十五だじゃ!」
先ほどより荒い声が返ってきた。どうやら老け顔であることを気にしていたらしい。
一触即発の事態を見かねたように、ここで千鶴が割りこんだ。
「まぁまぁ、恭ちゃんも清ちゃんも喧嘩せんとこ」
「きょ、恭ちゃん?」
そんな呼ばれ方をしたことのない恭也は、頓狂な声をあげた。
「そう。恭也やから恭ちゃんで、清次郎やから清ちゃん。眼鏡の子は豊で、あっちの彼が、レオ君」
千鶴は、それぞれを指差して見せた。
「何で僕は呼び捨てで、レオはレオ君なんだよ?」
豊が膨れ面になる。
しかし、千鶴は、それをまったく気にせずに答えた。
「だって、豊は学年ひとつ下やん。それにレオ君、めっちゃ男前やねんもん」
彼女は、部屋の隅にいるレオをちらりと見た。
だが、レオは、我関せずといった様子で足を組み、瞳を閉じている。
「確かに学年はひとつ下だけど、歳は一緒じゃん」
独りぶつぶつ呟いている豊を無視し、千鶴は、
「なぁ、亜依ちゃん。レオ君、男前やんなぁ」
と、隣の彼女に同意を求めた。
「う、うん」
亜依は曖昧に答えた。
「何や、ノリ悪いなぁ。ひょっとして亜依ちゃん、彼氏おるん?」
「彼氏」その言葉で、昨日の七夕祭りでの出来事を思い出す。亜依は、悲し気に首を振った。
「ううん、いないよ」
その後、特に話すこともなくなり、会議室は静寂に包まれた。
全員が大きな不安を抱えていたが、それを口にする者はおらず、「逃げ出したい」と思いながらも、それを行動に移す者もいなかった。




