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MC ~死に行く運命の子供たち~  作者: 直井 倖之進
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プロローグ

      

                 プロローグ


 今から十五年前。七月下旬のことだった。

 夏休みが始まったばかりのこの日、全国各地で当時十四、五歳の中学生五名が一斉に失踪した。

 失踪者は全て男子。どの生徒も、スポーツ競技での全国大会優勝経験者やオリンピック候補生、若しくは、全国学力テストでトップレベルの成績にある者たちばかりであった。

 将来有望な少年たちが突然行方不明になったこの事件を、マスコミは、“中学生一斉失踪事件”として報じようと動き出した。

 しかし、その日のニュースは勿論、三面記事の片隅にさえ、それが取り上げられることはなかった。

 国の警察行政を管理している国家公安委員会が、事件に関する一切の報道を禁じたからである。

 国家公安委員会は禁止した理由を、「失踪した子供たちの安全のため」と説明したが、報道関係者にしてみれば、それは到底納得できる話ではなかった。当然、断固抗議した。

 だが、相手は国家公安委員会だ。無駄な抵抗なのは明らかだった。

 結果、国のオーソリティーに逆らってまで報道しようとする機関は現れなかった。

 三日後。ニュースや記事にならなかった“中学生一斉失踪事件”は、実にあっさりと解決した。

 鹿児島県の枕崎港で、行方不明になっていた中学生五名、全員が発見されたのである。

 子供たちはすぐに救急車で病院へと搬送され、精密検査を受けた。健康上に問題がないことが確認されると、次は警察からの事情聴取があった。僅か五分程度の簡単な聴取だった。そして、五人は、その日の内にそれぞれの親元へと帰されたのである。

 各家庭の保護者は、帰宅した我が子に、「三日間、何をしていたのか?」、「どこにいたのか?」など矢継ぎ早に質問したが、皆、申し合わせたかのように、「覚えていない」、「忘れた」と答えた。

 親の心配を他所に子供たちは、次の日から普通に生活を始めた。夏休みの宿題や部活動、習い事など、いつもと変わらぬ日常に戻ったのである。二学期に入ってからもそれは同じだった。毎日元気に学校へと通う我が子の姿を見て少なからず安心を覚えた彼らの保護者は、「あの三日間のことは、息子が自分から話してくれるようになるまで待とう」と決めた。

 こうして“中学生一斉失踪事件”は、国民の大部分がその発生すら知ることなく、静かに幕を閉じたのである。

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