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080 「毛皮があってよかった」

一話1000字前後の短編連作です。


毎週火曜日更新中!

 犬にも猫にも見える生物、いぬねこは物陰で小さくなっていた。

 数ある足場を飛び越えてようやく安定した地面へやってきたいぬねこはまず、一夜を明かせそうな洞窟を探していた。雨風凌いで朝まで耐えれば、アトリエまで戻れる自信があったからだ。


 その自信も、〝襲われなければ〟という前提だが。


「あぁ……毛皮があってよかった」


 寒さに身震いしつつも、天然の服の恩恵を最大限利用する。これがなければ今頃は凍えて、身を寄せる場所を見つける前に身動きが取れなくなっていたかもしれない。

 とにかく最大の危機を脱した今は、下手に動かず時が流れるのを待つのが最善と判断したいぬねこだが、どこからともなく聞こえてくる遠吠えのような音に不安と恐怖を煽られる。


 実際はただの風音だが。


「小生としたことが……まさかこんな失敗をしてしまうなんてね」


 後悔しても後の祭り。

 錬金材料の刑に処されるよりは遭難した方がマシだろうか。


「いや……バレたとしても交渉の余地はあるだろうし、彼女もまさか本気でそんなことを考えているなんてことはないだろう、きっと。たぶん。恐らく」


 と、自信がなくても前向きに考えないと頭がおかしくなりそうだった。


「それにあの子がかばってくれるだろうし、彼も頼りないところはあるが、いざという時はやる男だと小生は信じているぞ」


 現在どこにいるのかも分からないお手伝いさんと師匠の姿を想像しながら、せっかく黙っておいた情報をうっかりこぼしてしまっていないか心配になる。


「もし爆発のことを彼が喋ってしまったら小生は錬金術の材料……。きっとさぞいいアイテムに生まれ変わることだろう」


 悲壮感に包まれながらの呟きは、非常に現実味を帯びているというか、妙な説得力を感じさせる。


「いっその事、このまま逃げてしまえばこんなに恐怖する事も……いや、まだバレたと決まったわけではないし、いささか早計な考えか。どうやらこの状況にすくなからず動揺しているのも事実らしい。困ったものだ」


 あまり困っているようなニュアンスを感じさせないが、現実的に考えれば確かに絶体絶命の一歩手前な状況。

 困ったどころの話ではない。

 しかし少しでも楽天的に物事を考えなければ、正気を保てない。


「すでに正気ではないから楽天的に考えられるのかもしれないね……」


 冷静に自己分析を重ねながら、夜が明けるのをじっと待ち続けるいぬねこ。


「運動不足はともかく、こういう状況において多少の脂肪分はエネルギーになると聞いたな……ということは、脂肪分を体に蓄えつつ運動による身体強化が両立できれば素晴らしいかもしれないね」


 仮に生きて帰れたら本格的に研究してみようと心のメモに刻む。

 生きてアトリエに帰れても、それからまた死ぬ運命が待ったいると考えると諦めたくなってくる。

 二重の死線をどう潜り抜けるかで、いぬねこの思考は埋め尽くされる。


 そのまま、気付けば目をつむって眠りの世界へと落ちていった。

次回第81話「これも立派な錬金術だ」


お楽しみに!

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