076 「アタシのパンツが」
一話1000字前後の短編連作です。
毎週火曜日更新中!
一つ前に特別編11「十五夜」がありますので、未読の方は気を付けてね。
足場の悪い山道を延々と歩く。師匠の頭上に輝く光の球体だけを頼りに、姿の見えなくなってしまったいぬねこを探す。
「もしも怪我をして動けなくなってしまっていたら、見つけるのも難しくないですかね?」
「仮にも犬と猫の混ざりもんだからな、その可能性は考えられねーが、ありえねー話でもねーしな……そればっかりは向こうさんになんとかしてもらうしかねー」
心配してるんだかしていないんだか判断のつかない事を言いながら、ズカズカと先へ歩いていく師匠。
寒風がお手伝いさんの肌を突き刺すように吹き抜ける中で、師匠は平然と歩く。
(どうしてあんな薄着で平気なんだ……)
肌の露出が多めで、薄着どころか下着や水着といっても差し支えないほど。人間にそこまで寒さの耐性など無いし、これもまた何かしらの錬金術によって作られたアイテムが作用しているのかもしれない。
「そうそう、ちょーどいいからテメーに聞いておきてーことがある」
唐突に口を開く師匠。
歩は緩めず、何気なく聞いてきたのでたいした話題でもないだろう。
「なんですか?」
「弟子に拾われる前の記憶は無いって言ってたな」
「ええ、はい……」
「全く何も覚えてねーのか? 自分の名前は覚えていたよーに、何気なく覚えていたことは他にねーか?」
師匠がどうしてそんなことを気にしているのか分からないが、お手伝いさんは確かに助けてもらう以前の記憶を覚えていない。自分でも密かに思い出そうと努力はしているが、効果のほどは見られない。
「そーか……」
「どうしてそんなことを?」
「いや、なーんか引っかってな……」
師匠は何かを思い出そうと自分の額を突くが、なかなか出てこなくて機嫌が下降中らしい。どんどん眉間にシワが寄っているのが見てとれる。
お手伝いさんとしてもこれ以上師匠の機嫌を損ねるのは避けたいところなので、適当に話題をそらすことにした。とりあえず気になっている事を聞いてみよう。
「だ、大先生は寒くないんですか? その格好は……」
「あん? さみーよ」
「あぁ……って寒いんかい!?」
いかにも余裕そうな表情で淡々と言うものだから一瞬分からなくて、思わず全力で突っ込んでしまった。
そして勢い余って取っ掛かりに足を取られ、すっ転んでしまう。
「うわっぷ!?」
「ったくおいおい……そんなザマだと先が思いやられるぜ……」
やれやれと、大袈裟に嘆息する師匠。
しかしこの何気ない失敗が奇跡を呼び寄せた。
地面に頬をすりつけるようにしたまま動かないお手伝いさん。
「……大先生。この位置からなら見えますよ」
「ほほぉぅ? 確かにその位置ならよく見えるだろうなぁ……アタシのパンツが」
決してそんなつもりはなかったのだが、言われてようやく視線が地面から上へとスライドし、前に立っていた師匠のスラリとした長い脚があった事に気付く。
「あいや、違います違います! そうじゃなくて、これです!」
見ないように努めながら、偶然発見したいぬねこの足跡を指差す。
うっすらと残っている程度で、覗き込むようにしなければ決して気付けなかっただろう。おまけに進行方向が同じようなので、師匠が足跡を踏み潰している。
「この足跡を追っていけばいぬねこちゃんに辿り着けるかもしれません」
二人は奇跡的に発見した貴重な証拠を頼りに、いぬねこの捜索を続ける。
師匠に顔面を蹴り飛ばされたという事は、言うまでもなかった。
次回第77話「真っ逆さま」
お楽しみに!
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