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特別編11 「十五夜」

「先生見てくださいよ。月がすごく綺麗ですよ!」


 少しばかり肌寒い風をアトリエに取り込みながら、お手伝いさんは窓を開けて空を見上げた。


「お手伝い君……月はそんなに珍しいものじゃないよ? 毎晩輝いてるよ? いつも見てるよね?」


 彼の行動に怪訝な表情を浮かべる「先生」と呼ばれた彼女は錬金術士。

 今も今とて依頼されたアイテムの錬金をしている真っ最中であるにも関わらず、そのお手伝いである彼がはしゃぐとは珍しい光景だった。


「そうですけど、今日の月は何だかいつもより綺麗に見えます」


 そう言って錬金術士の方へ振り返る彼の目は、夜空に輝く月よりも輝いて見える。

 月に対して何か特別な思い入れがあるわけでもなく、ただ綺麗だと思ったから、その気持ちを共有したくなっただけ。


「ふむ……そういえば、どこかの地ではちょうど今頃の季節に〝お供え物をして月を眺める〟という風習があるらしいね」


 お手伝いさんの気持ちに応えるようにして聞こえてきた声は、犬にも猫にも見える動物、いぬねこが発したもの。落ち着いた口調とその博識さから、錬金術士のパートナーを務めている。


「へぇ……何か納得です! いつも見てる月なのに、いつもと違うように見える」

「どれどれ……?」


 錬金術士もいったん仕事の手を止めて、お手伝いさんといぬねこが空を見上げる窓に歩み寄り、同じようにしてみた。


「わぁ……! すご〜い! きれ〜い!!」


 そしてお手伝いさん以上のリアクションで、感嘆の声を上げた。

 空全体を真っ黒に染め上げる漆黒のカーテンに散りばめられた、宝石のようにキラキラと瞬く星たち。そしてカーテンに大きな穴が開いたように煌めいて主張する月の光が地上へと降り注ぐ。


 空を彩る優しい光に包まれて、二人と一匹は自然と笑みが浮かぶ。


「こんなに綺麗な月なら、眺める風習があるのも頷けますね」

「だね〜」


 うっとりした様子で相槌を打つ錬金術士。

 そんな彼らの横から、いぬねこがコホンと小さく咳払いをして、口を開く。


「せっかくだし、お供え物を作ってみてはどうだい? お団子を15個供えるのが一般的のようだよ」

「お団子!? お団子食べた〜い!」

「先生……お供え物ですから、食べちゃダメです。でもお団子ならちょうどよく材料揃ってるし、作れるかも……」


 食べ物の事となると子供のようにはしゃぎだす彼女に優しく諭しつつ、倉庫に保管されている材料にお団子が作れそうなものが一通り揃っていることを思い出す。


「…………ん?」


 そして物欲しげな瞳でお手伝いさんを見つめる彼女。

 言わんとしていることを察し、ため息をひとつ。


「……ちゃんと食べる用に余分に作りますから」

「やった〜! お手伝い君分かってるぅ! よぉし、さっさと残ってる仕事終わらせちゃうよ〜!」


 腕まくりをして、気合も十分に錬金釜をかき混ぜ始める。

 ……月より団子な錬金術士だった。

月見団子の他にも、ススキを飾るそうですね。お団子の数も15個だったり13個だったり12個だったりと様々。ススキを飾るのは稲穂に似てるからで、実際に稲穂を飾るところもあったりと、色々あるそうです。

こうやって豊作祈願をするのだとか。

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