表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/210

特別編9 「恋人の日」

 ふわふわの髪にふさふさの髪飾りを付け、ほわほわの白衣を纏った錬金術士が机を叩いて立ち上がり、突然の宣言。


「恋人ゴッコをしたいと思います!」


 いつものアトリエに響き渡る錬金術士のほんわかした叫び声に、お手伝いさんは「はい?」と聞き返す。

 いきなり意味不明なことを言い出すのは通常運転の証だが、また一段と困ったことを言い出したなと思うお手伝いさん。


「ところで、恋人ってどんなことをするのカナー?」

「分からないで言ったんですか……」


 そういう自分も恋人など作ったこともないので、どういうものなのかサッパリだが、何となくの想像くらいでいいのなら分からなくもない。


 ようは一緒に過ごせればいいのだ。


 買い物に行ったり、食事をしたり、他愛もない話題で盛り上がったり……。


(あれ? それって普段と変わらなくないか……?)


 たまにではあるが一緒に買い物には行くし、お手伝いさんは食事当番だし、こうして話もしている。

 ということは、錬金術士とお手伝いさんは〝恋人〟の条件を満たしていると言っていい。


「恋人ゴッコなどしなくても、君たちはそのままでも充分恋人のようなものだろう」


 犬にも猫にも見える動物、いぬねこも同じ考えに行き着いたようで、面倒くさそうに言う。


「そうなのー?」

「さ、さぁ……?」


 あまり自覚がないようで、お手伝いさんに聞いても微妙な反応ではぐらかすしかない。まさかここで「そうですね」なんて言って肯定したら、自意識過剰と思われてしまいそうで。


「じゃあいっか」

「いいんですか⁈」

「だってもう恋人みたいなもんなんでしょー? いぬねこちゃんが適当言うはずないし」

「もちろんさ。小生はい・つ・で・も・大真面目だよ」


 ニヤニヤとした含み笑いのニュアンスを込めたセリフを、視線とともにお手伝いさんへ送っているいぬねこ。


 何が言いたいんだこの動物は……!


「恋人らしいことをしたいと言うのであれば、お互いの写真を交換するというのはどうだい? 胸ポケットにお互いの写真を入れているとか、あるいはロケットに入れているとか、実にロマンチックで恋人らしいとは思わないかね? そういった風に、お互いの持ち物を共有することによって恋人は信頼関係を育むものなのだと、小生は思うよ」

「ナルホドー……」

「そこ納得しちゃうんですね先生……少しはいぬねこちゃんの言葉を疑うことも覚えたほうがいいですって」


 とは言いつつ、お手伝いさんも心の中では一理あるなと納得していた。恋人はそんなことをしているのか、と。

 幸いにもここはアトリエで、伝説の錬金術士が目の前にいる。


 カメラとかフィルムとかロケットとか、そういったアイテムには事欠かない。


「じゃあそれしよう! 私お手伝いくんの写真撮るから、お手伝いくんは私の写真撮ってー!」


 がさごそと白衣のポケットから取り出したのは即席で現像される高性能カメラ。


「なんか、やけに準備がいいですね……」

「そんなコトないよー? ささ、撮って撮って!」

「はいはい……」


 さっきから微妙にカタコトになっている気がしないでもなかったが、言う通りにしておかないといつまでたっても錬金術士のわがままは終わらない。


 お手伝いさんは言われるがままに錬金術士の写真を撮り、錬金術士もまたお手伝いさんの写真を撮った。


「……よし、これでお手伝いくんの写真ゲット……!」

「……? なにか言いました?」

「ううん、なんでもなーい!」


 錬金術士は嬉しそうに、お手伝いさんの優しい笑みの一瞬が切り取られた写真を大切そうにポケットにしまい込んだのだった。

一読いただきありがとうございます。


一話1000文字前後の短編連作です。本編は同じような感じで毎週火曜日に更新しております。


ブラジル・サンパウロ地方では、恋人同士が写真立てに写真を入れ交換しあう風習があるそうですよ。


それから再度告知で、6月14日(日)サンシャインクリエイションに参加します。オリジナル短編小説を出しますので、よかったら手に取ってみてくださいね!

初参加ではありますが、良い作品書けたと思ってますのでよろしくです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ