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035 「一方その頃」

一話一話が1000字程度の短編連作となっております。3分もあれば読めるかと。


毎週火曜日不定時に更新中!

「ひぃ……ふぅ……みぃ……」


 何かを数えているように聞こえるが、単に息が切れているだけである。

 錬金術士は槍を杖代わりに使って、先の見えない山道を延々と登り続けていた。

 どうして師匠は山頂なんかに家を建てて、そこに住み着いているのか理解出来ない。


「もぉー!」


 意味も無く大声を上げたくなってしまう。

 山なんかじゃなくてもっと過ごしやすい場所に建てれば良かったのに。そうすれば自分自身も過ごしやすいだろうし、錬金術士達も通いやすかった。


「お腹空いたー! 足パンパンー!」


 ワガママを言っても何の反応も返ってこない。あるとすれば風の吹き抜ける音だけ。

 武器の練金が何の問題もなく行えるならばこんな面倒な事をせずに済んだのにな、と思う。

 お手伝いさんは知らないが、錬金術士が武器を練金しようとすると、必ずと言っていいほどに違うものが出来上がってしまう。

 良くてもグレードダウンしたものが出来上がるのだ。

 例えば。

 剣を作ろうとしたらおたまが出来上がり、良くてもペーパーナイフが出来上がる。

 槍を作ろうとしたらフライ返しが出来上がり、良くても彫刻刀が出来上がる。

 ハンマーを作ろうとしたらフライパンが出来上がり、良くても肩たたきが出来上がる。

 何故か戦闘に関する物を作ると、生活に関するものが次々と誕生してしまうのが錬金術士の現状だ。

 これでは王様の要望に応える事は出来ないので、この状況をなんとか打破するため師匠に教えを請おうと頑張っている訳なのだが……。


「もー歩けないよー……」


 すでに諦めムードが漂っていた。

 こんな時いぬねこでもお手伝いさんでも居たならば、何とか上手い事言って歩かせたのだろうが、その二人は怪鳥に攫われてしまって、今の錬金術士は一人きり。発破をかける人が誰もいないとトコトン堕落してしまうのが錬金術士という女の子だった。


「よっと」


 手頃な岩を見つけて腰掛ける。

 何か食べる物ないかな、と自分のリュックの中身を漁ってみたがお手伝いさんが持っていってしまった事を思い出す。

 正しくは〝持っていかれた〟だろうか。


「そうでした……お手伝い君がいるから大丈夫って高を括ってたんだった」


 錬金術士のリュックには、例の暗黒物質が入っていたカゴが一つと、錬金術に必須のレシピ帳のみが入っていた。お手伝いさんのリュックとは正反対の内容だ。


「お手伝い君、肉じゃが食べてくれたかなー」


 怪鳥に襲われる前に、自分が攫われる事を悟ったお手伝いさんは食料を何とか確保してから攫われていった。

 というのが錬金術士の認識。

 なんとも馬鹿らしい考えだが、お手伝いさんの知らない所で気になる単語が。


〝肉じゃが〟


 お手伝いさんが持っていったカゴには、肉じゃがが入っていたらしいのだ。

 どうすれば肉じゃがが、まん丸ツルピカの暗黒物質に変わり果てるのか分からないが、錬金術士はそもそも〝肉じゃが〟がどんな料理なのか知っていたのだろうか。

 網かごに入れるような料理じゃない事は誰でも分かるはずだが。


「後で感想聞いてみよっと」


 暗黒物質の肉じゃがが今頃どうなっているのか、錬金術士は知る術もなかった。

次回第36話「頭痛」


お楽しみに!

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