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021 「走馬灯」

一話一話が1000字程度の短編連作です。一話読むのに3分も掛からないかと。歯磨きをしながらでもドゾ。


毎週火曜日不定時に更新中!

 ぱくっ。

 みたいな生易しい効果音で済んでくれたなら助かったが、錬金術士が作ってきたおにぎりはそこまで甘くなかった。


 ばりにゅもにゅごりがりばりくちゃ。


 あえて文字で表現するならこんな感じだろうか。

 ちなみにまだ咀嚼はしていない。本当に一口かじっただけである。


「どうどう? どうかなー⁈」


 じゃっかん興奮気味の錬金術士。

 お手伝いさんの顔はみるみるうちに赤くなり、白くなり、青くなり、紫になり、そしておにぎりから出現する靄と同じような色になる。

 飛びそうになる意識を、ギリギリと手を握りしめて食い込む爪の痛みで保つ。あえてその味については触れない。お手伝いさんの反応を見て察して欲しい。


 爪が食い込んだ掌から、じわりと血が滲む。


 しだいに頭から肩、肩から腕、腕から手へと微細ながら震えだしていく。

 一口でこれだ。もし咀嚼し、飲み下し、二口目へ。そして二個目、三個目と食べていったら、間違いなくお手伝いさんの命は天にお召しになるだろう。

 錬金術士が「召し上がれ」と言ったのはこういう意味だったのかなとか、どうでもいい事を考えながら十数年というまだまだ未来に希望のある人生に終止符が打たれようとしていた。


 そういえば、お世話になってから散々こき使われてきたけど、なんだかんだ言って悪くはなかった。初めて見る物も沢山あったし、自分にとって未知の文化である錬金術に触れる事が出来たんだ。まんざら悪い事ばかりでもなかったと思う。


 誰も作らないからと、始めた料理は想像以上に楽しくてハマってしまったし、お菓子やデザート作りまで挑戦したほどだ。どれも評判は良かったし、やってよかったと思ってる。


 どうせなら新しい郵便ちゃんにも食べてもらって、感想の一つでも欲しかったかなぁ……。


 洗濯は大変だったし、押し付けられる事もしばしばあったけど、その度にわたがめ様が登場してきて話をした。思い返してみればあの会話があったからこそ嫌な事を忘れられたのかも知れない。もう一度現れたらお礼を言っておくべきだろう。


 ……もう一度なんてあるのかなぁ。


 錬金術士の家にお世話になってからの薄れていた記憶が鮮明によみがえってゆく。

 先生と一緒に街へ買い物に行った。先生は微妙な段差につまずいて転んで、背負って家まで帰ったっけ。

 それから先生と一緒に森へキノコ狩りに行った。食材用のキノコと錬金術用のキノコが混ざっちゃって夕飯の時は大変な事になった。

 あとは先生と些細な事でケンカもした。飛び出して行った先生を追いかける事はせず、おいしいご飯を作って待った。お腹を空かせてその日のうちに帰ってきた先生とは、お互いにゴメンと謝る事はしないで「おかえりなさい」「ただいま」の一言で仲直りしたっけ。


 他にもたくさんある。たった3ヶ月だけど、こんなに思い出が出来ている。


 これからも作りたい。これまで通り作りたい。

 こんな所で……終われない!

 クワッ! と瞼の後ろ側へ彷徨っていた黒目を引き戻し、心の雄叫びを上げて一気に咀嚼し飲み込んだ。

 一口目からここまでで、ほんの5秒間の出来事。

 そのままの勢いで二口目に挑戦し、飲み込む。

 そしてあっという間に一個目を完食。二個目、三個目と勢いは衰える事を知らないように、その数を減らしていった。


「そんなに美味しかったんだ……!」


 嬉しそうに頬を赤らめる錬金術士の顔を見れて満足したのか、全6個のおにぎりと呼べないおにぎりを平らげたお手伝いさんは、仰向けにぶっ倒れた。

 いぬねこの「潔く死ぬ覚悟をしておいた方が良い」という発言を、半分冗談として受け止めていた事を後悔しながら、お手伝いさんの意識はそこで、プッツリと現実から途切れた……。

お手伝いさんはちゃんと生きてますのでご安心を。

一体どんな味がしたんでしょうか? 僕も分かりません(おい


次回22話「至福の時」


お楽しみに!

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