020 「召し上がれ」
1話1話が1000字程度の短編連作となっております。1話に3分もあれば充分読める文量かと。
レベリングの休憩なんかにドゾ。
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「さ、食べて食べてー!」
錬金術士はカゴごとお手伝いさんの前に突き出して、この世の物とは思えない物質を「たべて」と言ってきた。
見た目はアレだが食べてみたら実は美味しいとか、そんな展開になる事すらもあり得ないと思えるほどに、錬金術士が作ったとされるソレは、アレだった……。
見てるだけで吐き気が込み上げてくるがお手伝いさんは必死に堪える。幸いな事に悪臭と呼べるような匂いは感じられず、むしろ匂いだけならば美味しそうなくらいの香りが漂ってきていた。
見た目は悪いを通り超して最悪だが、匂いについては悪くない。
現実から目を背けて、花の香りだけを楽しんでいたい。
「ほら」
促されて半ば無理矢理にカゴを手渡されたお手伝いさん。
助けを求めるようにいぬねこの方に視線を送るが、目を合わせてくれない。我関せずの態度を通すつもりのようだ。
「い……いた……いただ……き」
続きが言えない。言いたくない。
その言葉を言った瞬間、責任を持って食べなくてはいけなくなる。
ハッキリ言って食べたくない。これを食べるくらいならそこら辺に生えている雑草を食べた方がまだマシと声を高らかにしてこの場所からお城まで聞こえる音量で言ってもいいくらい。
チラリと、隣に座る錬金術士を見る。
早く食べてほしいのか、ウズウズしているように見える。その顔は期待の色でいっぱいだが、お手伝いさんのどんな反応を期待しているのか、表情だけではそこまでは読めない。
だがしかし錬金術士の事だ、マイナス方面の思考はまずあり得ない。つまりお手伝いさんが「美味しい」と言ってくれるのを期待しているんじゃなかろうか。
この期待を裏切る事は、お手伝いさんには出来なかった。
必要以上にたっぷりと息を吸って、
「いただきます……!」
覚悟とともに、ついにその言葉を発した。
「召し上がれ♪」
震えそうになる手を気合いと根性で押さえ、滝のように流れてくる嫌な汗も、どうやるのか自分自身が理解出来ないまま無意識のうちに押しとどめていた。
恐る恐る、まるでそれが本物の爆弾でもあるかのような慎重さで掴み上げる。
おにぎりの定番の形である三角形はどこにも存在せず、お手伝いさんが手に持ったソレは奇麗な球体だった。むしろここまで見事な球体に握る事の方が難しいと思えるほどに、ツルツルピカピカである。
(これ……お米はどこに行ったんだ⁈)
そう。文字通りそのおにぎりと呼ばれた物はツルツルピカピカだった。
靄も相変わらず発生し続けているが、そんなのが吹き出せそうな隙間はこれっぽっちも無い。つまり発生しているというよりは出現していると表現した方が正しいだろう。
(ええい! なるようになれ!)
再度覚悟を固め、より強固になった意志で、まずその一口を頬張った……。
子供の頃にツルツルピカピカの泥だんごを頑張って作った記憶がありますが、カゴの中に入っていたのはそんなやつです。グレードアップ版です。
次回第21話「走馬灯」
お楽しみに!




