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012 「わたがめ」

一話一話が1000〜2000字程度の短編連作となっております。一話読むのに三分もあれば充分くらいの文量ですので、何かの休憩などにチラッと読んで落ち着いて頂ければそれだけで書いた意義があるというものです。

週に一話投稿出来ればいいなぁと思ってます。

 そよ風でゆらゆらと、吊るされた洗濯物が揺れる。


「これでよしっと」


 洗濯物を干し終えて、後は乾くのを待つのみ。

 本来ならばこの時点で家の中に入り、錬金術士の仕事の手伝いをしたり、それについて教えてもらったりしている。

 だが、今回に限っては少し状況が違う。

 錬金術士がなんらかの準備をすると言って、邪魔になるからお手伝いさんを追い出したのだ。だから、むやみに家に戻る訳にもいかない。邪魔をする目的であれば戻っても良いだろうが、そんな趣味は無いし何か大事な作業をしていて失敗でもされたらどうなるか分からない。

 錬金術の失敗は常に危険を伴うのだ。


「どうすればいいかな」


 家に入れるようになるまで何をすればいいのかで悩む。

 錬金術の材料を集めておくとか、ランニングでもして体力をつけておくとか、むしろ昼寝をするとか。


「そんなに――」

「うわ⁈」

「――悩むくらいならこっちにきてお喋りをしようよ」


 先程、洗濯をしていた川の方から聞き覚えのある声が突然聞こえてきた。

 いつも急に声を掛けてくるからお手伝いさんはビックリしてしまう。

 今のところビックリした確率100%を誇っている。


「わたがめ様……驚かさないでくださいよ」


 川を覗いてみると、ピンク色のふわふわした甲羅を纏った亀がそこにいた。ふわふわしている時点で甲羅の役目を果たしているのかどうか疑問だし、そのふわふわは水を吸って重くなったりしないのかという心配もあるがその点に関しては問題ないらしい。


「わたがめは驚かさないと生きていけない体質なんだ」

「そんな体質があってたまるか!」

「じゃあ、わたがめには驚かせる素質があるんだよ」

「驚かされる身にもなってください……」

「そして君には驚く素質がある」

「そんな素質いらねぇー!」

「だから互いに惹かれ合うんだよ。驚く側と驚かせる側でね!」


 ドヤァ……。

 わたがめは渾身の〝やってやったぜ!〟みたいな顔をみせる。いぬねこと同様、そんな顔をしているのか不明だが、言葉の感じからしてきっと感覚的にはそれで合っているはず。


「わたがめ様はそんな所で何をやってるんですか?」


 大した反応も見せずにお手伝いさんは聞いた。どうしても最初は驚いてしまうが、その後の会話は間違いなく慣れたもので、お陰さまでスルーという素晴らしい技術を身につけていた。


「うん。わたがめは特にする事がなかった。だから君を驚かせたんだよ?」


 と、言う事らしい。

 お手伝いさんはビックリして聞き逃していたが、わたがめは最初に言っていた。

 お喋りをしようと。

 お互いに暇なら時間を共有しようじゃないかと声を掛けてきた訳だ。


「それはさておき。わたがめは君とのお喋りをご所望だよ? どうする?」

「好きにしてください」


 わたがめが現れると必ず話に付き合わされる。ただ聞くだけならまだしも反応を求められるので困ったものだが、こう何度も話に付き合っていると相手をするコツみたいなものが分かってくる。


「ありがとう。では、わたがめはこんな話題を持ち出すよ」


 お手伝いさんとわたがめの、会話劇が幕を開けた。

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