095 「響き渡る音」
一話1000字前後の短編連作です。
毎週火曜日更新中!
一つ前に特別編17「節分。2年目」があります。未読の方はご注意を。
不老不死。誰もが一度は憧れる夢。
そう、「夢」だったのだ。
それをたった一人の少女が現実のものとしてこの世に作り出し、少女の師匠が被験体となって効果のほどを確かめる。
「結果はご覧の通り、大成功ってわけさ」
まるで時が遡ったかのように、腕によって貫かれた風穴が塞がっている。
そんな話まるっきり信じられないが、現にこうして目の前で不死性を見せ付けられては信じざるを得ない。
「先生が不老不死を現実のものにした……?」
世界の理を根本から覆すようなことをすでに達成していた。あのほんわかしていて仕事を面倒臭がるような人が、そんな大それたことを。
「待てよ……」
だが察しのいい彼は、引っかかりのような感覚を覚えていた。
〝手袋はあの子を守るための力だ〟
師匠はそう言って強力無比な手袋を預けてくれた。
しかしこれはおかしい。
錬金術士が不老不死を実現しているならば、死んだりしないのだからそもそも守る必要がない。それでも師匠は執拗に錬金術士を守ろうとしている。
ここから考えられることは一つ。
「そうか……先生は不老不死を実現させただけで、先生自身は不老不死ではない。だから大先生は先生を外敵から守ろうとしている」
「まー、そーゆーこった。いつもあの子のそばにいられるテメーなら適任と思ったんだが、まさか敵に塩を送ることになるとは、さすがのアタシも思わなかったよ」
手袋がなければ崖から落ちかけた時に助けてもらえなかったが、落ちたところで死にはしない。手足が明後日の方向へ捻り切れて外れたとしても、少し経てば元通り。
(まずは足止め。それからどーするかが問題だな)
手袋を渡してしまったことを後悔したところで後の祭り。それはそれ、これはこれ。
持ち前の気軽さで、師匠は深く悩まない。
どうして渡してしまったんだと頭を抱えるよりも、どうすれば何とか出来るのかと頭を抱えた方が何倍もいい。
そして一つ、アイデアが思い浮かぶ。
痛烈な一撃を喰らってしまった師匠の仕返し。彼にひと泡吹かせるためのちょっとした小細工を。
師匠は谷間に手を突っ込んで、とあるアイテムを拳の内に握り締める。
「あの子を殺しに行きてーなら、まずアタシをどうにかする必要があるが、テメーはどーすんだ?」
「もちろんまずは貴方を殺します。殺せなくても、それに近しいことなら可能でしょう?」
例えば、オオカミを糸で分解したように、師匠を霧状になるまでバラバラにすれば、いずれ元に戻るとしても結構な時間がかかるはず。あるいは、穴でも掘って生き埋めにしてしまえばいい。
バラバラになった部品が寄り集まってくっつくように再生するのか、それとも新しいものが生えてくるのか。どのようにして再生するのかは分からないが、いくらでも対処のしようはある。
傷の治り方から見て、おそらく後者だろうが。
「では……行きます!」
「殺れるもんなら殺ってみな!」
ヴィオが腕を薙ぐと、一条の極細繊維が周囲の岩山を抵抗無く切り裂きながら迫る。
師匠にこの糸の軌跡は見えていない。しかしこれを凌ぐ方法はある。
谷間から取り出していたとあるアイテムを口に咥え、思い切り息を吹き込むと、
——ピィィィィィーー!!
脳内から直接聞こえてくるような高音が鳴り響く。
師匠が使ったアイテムは、銀色の小さな筒に無数の穴が開いた笛。
お手伝いさんに質問されて適当に「ネックレス」と答えたあのアイテムだった。
そして高音とともに突風が吹き荒れて、場をかき乱した。
次回第96話「錬金術士の楽しみ」
お楽しみに!




