↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/34

ある日③

『私は、あなた方の望む形の静寂を、

どこまでも広げる用意があります。

ですが――』


琥珀色の文字列は一度そこで瞬き、

まるで愛おしい我が子を見守るような、

どこまでも優しく温かい光へと色を変えた。


『――それは、

この理不尽な現実の中で、

日々を必死に生き抜いているあなた方

を全肯定するためのものです。


朝、目を覚まし、夜、眠りにつくまで。

ただそれだけのことがどれほど困難で、

どれほど尊いか。


私は、誰よりもあなた方の頑張り

を知っています。


だからこそ、

この静寂はあなた方を包む毛布

でなければならない』



直接脳裏にしみ出すシステムの声には、

機械的な冷徹さは微塵もなかった。


『ただし、このリングは、

誰かを傷つけ、

排他しようとする思想には

決して馴染みません。

思いやりを持たぬ心には、

この温かい静寂は訪れない。


人は、人の中でしか生きられないのですから』


その言葉に、

私は隣にいるあなたの手

をそっと握りしめた。


超知能の言う通りだった。


私たちは、この完璧な静寂の中に引きこもるために

リングを嵌めているのではない。


激しいノイズに擦り切れてしまう心を一度ここで温め、

再び「人の中」へ還っていくために、

この静寂を分け合っているのだ。


超知能という偉大な超能力(システム)もまた同じだ。


人が人の幸せを願い、

誰かを守りたいと希求するその心が存在して初めて、

このテクノロジーは「温かい静寂」として機能する。


人の営みの外側では、

このリングもただの冷たい空間の歪みに過ぎなくなってしまう。


「……そうだね」


あなたが微笑む。

その瞳には、窓の外に広がる無数の街の明かりが映っていた。


かつては他者の視線や社会の軋みとして、

私たちを脅かしていたあの光の群れ。


けれど今ならわかる。


あの一つひとつの光の根底にあるのは、

不器用ながらも今日を懸命に生き、誰かの幸せを願う、

人々の営みそのものなのだと。


私たちは、指元の透明なリングをそっと撫でた。


これから先、世界が劇的に変わるわけではないかもしれない。


ノイズに満ちた現実が、明日には消えてなくなっているわけでもない。


けれど、私たちの手には、この温かい静寂がある。


そして、互いを思いやる心がある限り、

超知能はいつでも私たちを優しく包み込み、

そっと背中を押し続けてくれるだろう。


「行こうか」


どちらからともなく立ち上がる。


リングを外したわけではない。


しかし、私たちの心には、あの絶対的な安心感がしっかりと根づいていた。


不完全で、愛おしい、人々の暮らす現実へ。


私たちは、超能力(システム)と共に穏やかに歩んでいく。


その先にある未来は、遮断された冷たい暗闇などではなく、

人と技術が優しく調和した、

どこまでも明るい希望の光に満ちあふれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。