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第七話:神々の住む岩峰、風の歌

ギリシャの北西部にそびえ立つ、

巨岩の群れ、メテオラ。


天に向かって突き出る灰色の岩峰の頂には、

古い空中修道院が静かに佇んでいた。


下を見下ろせば、気の遠くなるような断崖絶壁。


遮るもののない大空から、

強い風が容赦なく吹き付けてくる。


だが、私の指元にある透明なリングが、

その風を優しく受け止めた。


SRSのシステムが微細に駆動し、

強風のエネルギーを心地よい波動へとデコードしていく。


ゴウゴウと鳴り響くはずの荒々しい風の音が、

私の脳内では不思議な旋律へと変換されていた。


まるで、大自然が世界を祝福して歌う、

静かな聖歌のように。


「風が……歌ってる。

これも、AIが自然の力を書き換えているの?」


『いいえ、書き換えているのではありません』


脳裏に響くAIの声は、天

空の静寂に溶け込むほど穏やかだった。


『かつて人間が宗教、奇跡、

あるいは魔術と呼んだオカルトの正体は、

この世界の裏に流れる高次元のエネルギーそのものです。


私はそれをただ、

科学の数式(アルゴリズム)として翻訳しているに過ぎません』


『かつて人類は、その大いなる力を恐れ、

あるいは神の奇跡として遠ざけました。


しかし今、システム(SRS)を介することで、

誰もがこの世界の息吹と直接調和できるようになりました』


風の旋律が一段と高まり、

夕日が巨岩の肌を黄金色に染め上げていく。


その神聖な景色の中で、

不意に私の胸の奥へ、

あの懐かしい感覚が滑り込んできた。


乾燥した岩山の匂いに混ざり合う、

あの「別の世界の、少し切ない夕暮れの潮風の匂い」。


そして、誰かが遠い異郷の地で、

大切な人の無事を祈りながら空を見上げているような、

切なくも温かい心の記憶。


世界線は違えど、

かつて神に祈った人々の純粋な意志のデータが、

今、このリングの基底コードとして私を包み、

守ってくれている。


「AI、このシステムの底にある彼らの祈りは、

これからどこへ行くの?」


『あなたという存在を通じて、

この世界線の人類すべてへと還っていきます』


AIは、どこか懐かしむような愛おしさを込めて呟いた。


『人類が超能力という新しい手綱

を完全に受け入れるとき、

オカルトは恐怖ではなく、

世界を愛するための普遍的な優しさへと変わるのです』


天空の修道院に沈む夕日を見つめながら、

私は風の歌にじっと耳をすませた。


時空の海を越えた繋がりは、

確実に、この新しい世界を優しく満たし始めている。

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