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第2話・ある日、空から…

「あ〜あ、現実はくだらない。

 ある日......空から女の子が降ってきて、最強の力で世界を滅ぼせれば良いのに。」


 僕は生活に特に退屈も不満も無かった、ただ、少し嫌な事があると現実を嫌って妄想の世界を漂うんだ。別に誰でもやる、特別な事でも無いと思う。


 そして今、目の前には、理想のタイプを凌駕する天使さんが立ち、可愛い両手を揃えて『君の玉を見せて』だの『一緒に聖戦がしたい』と要求してくる。


「えっと……すみません……!つまり、僕が天使さんを呼んだから現れて、僕の玉を使って聖戦がしたいって、そういう事ですか?」


 天使さんはキョトン顔。


「そうだよ!全部合ってるの!すごいねー! あーあ、天使さんは早く、スゴミ君といーっぱい聖戦がしたいのになあ!」


 彼女は、両手を出したままメトロノームのように体を揺らす。その動きの可愛さがツボに入り、体温が上がっていく。


「だとしたら、僕たち初対面ですし、そういうのは 早いって言うか……!!」


 その一言に一瞬固まった後、突き出した手を戻し、人差し指をアゴに当てた。


「準備はバッチリなんだよ!天使さんは...君の天使さんだからね!」


「なにこれドッキリ?『 オタク君、誘惑してみた企画 』みたいなやつ? もしかして配信者さん?カメラとか居るの?」


 どうしても目の前の非現実を認めたくなかった。

 辺りをキョロキョロ見回すと、天使さんもそれに合わせてキョロキョロと真似をする様に動き出す。


「何それ何それ!スゴミ君はなんていうか……不思議な人だね!!」




 不思議なのはお前だろ!! ……心の中で全力のツッコミを入れる


「あの、ホント、僕もう帰ります、シャワーもするし。」


「うん、頑張って帰らないとね!スゴミ君の物語は始まったから、ちゃんと帰れるように、天使さんは応援するんだよ!!」


「物語ってなんですか、もしかして僕、頑張らないと帰れない程、ヤバイ事に巻き込まれてる感じですか?」


「 アルハちゃんから聞いてると思うよ!」


「アルハって誰っすか?知らないんっすよ、日本人?企業……?」


「アルハちゃんはねぇ!えーと、とっても可愛いんだよ!」


 全然、会話になってない。

 具体的な事を話してくれない。物語も玉も分からない。聖戦も天使の正体も分からない。


 ならば、僕は強行突破する……!




 ───圧倒的、決断をした。



「天使さん、分かりました、僕、帰ります。」


 問答無用。


 踵を返して振り返り、熱いアスファルトを蹴った。

 頭を落として、腕を伸ばして大股歩き、一本道を踏み出した。

 一歩、二歩……と、その瞬間、視界が暗くなり、柔らかい壁に当たって体が止まる。


 壁!? 道路の真ん中に!?


 頭を起こすと、目の前に彼女の赤い瞳があった、壁だと思ったものは、天使さんの豊満な胸だった。


「いつの間に!?」


 瞬間、後ろを振り向く。


 ……居ない。


 さっきまで背中の数メートル先に立っていた彼女が消えていた。

 それが音もなく瞬時に回り込んで、目の前にいたのだ。

 真っ白なまつ毛の、大好きな笑顔が目の前に迫り、背筋にゾクゾクと冷たいものが走る。


「いいよ、おいで!」


 無垢な顔のまま、両腕を広げた。

 さっきの一瞬の柔らかさが、頬に残っている。飛び込みたいが、しかし今は……恐怖が勝る。


「すみません、本当にマジで、 帰らせてください! 応援するんじゃなかったんすか!!


「うん!天使さんの応援はね、100人分だよ!」


 そう言うと、そっと両手で手を包み込み、胸元まで持ち上げてきた。

 きめ細かくスベスベの肌が触れる、白くて小さい指、男の手よりもしっとり冷たく、潤って柔らかい。


「落ち着きたいよね!ここじゃなくて、二人きりになっちゃおっか!ちょっと暗くて、特別な場所があるんだよ!」


 暗くて特別な場所……!? 手からじんわり感じる湿気に、ピンクな妄想が駆け巡る。


 ……だが。


「それどうせ、後で怖い人とか出てくるやつですよね!」


「安心して!天使さんは、スゴミ君だけの味方だよ!」


「 味方ならどいてくださいって言ってるんですよ!そもそも、天使さん天使さんって言ってますけど、名前じゃないですよね!あなた誰なんですか!」


 天使さんは握った手を口元まで持っていき、口を大きく空けて喜んだ。


「わああ!嬉しいな!スゴミ君は天使さんの事に興味があるんだね!」


 その反応は見とれてしまうほどだが、話が通じな過ぎてイライラしてきた。


「興味も何も、全部意味分からないから聞いてるんですよ! 話すなら説明が先です! まず…いきなり出てきましたよね! どこから現れたんすか!」


 その問いかけをした瞬間、体感温度がガクッと下がった。

 暑さを送り続けていた太陽が遮られ、二人を巨大な影が包んでいる。

 彼女はニッコリと人差し指を天に向けた。


「天使さんはね、あそこから来たんだよ!」


 指さした先に、空を埋める圧力が鎮座していた。黒い逆三角形の超巨大ピラミッドが空の果てまで続いている。その表面は黒く滑り、緑のラインが静脈のように発光して流動している。


「ある日、空から女の子が降ってきて、最強の力で世界を滅ぼせれば良いのに。」


 半分冗談、半分投げやり、そんなくだらない願いを叶えてくれるかのような、宇宙人の侵略映画のラストシーンのような、その広大な黒色、世界が滅んでしまいそうな現実が、網膜を容赦なく焼き焦がしていった。


「そんな、冗談っすよね…これって本当に…」


 天使さんは微笑んで、首を傾げる。


「天使さんと、一緒に行こうね!!」


 顔を落として赤い瞳を見つめる。この空の異常を目にして、僕の現実は完全に終わった。本当に帰れなくなったのかもしれないと、それを知った上で、天使さんが協力を宣言してるのでは無いかと、そう思った。

 

 唾を飲み込んだ。


「天使さんと……一緒に……?」


 僕はずっと、この現実と言う『地獄』から抜け出したかった。

 理想の世界は『 魔法少女・マジカルエンジェル 』愛と魔法とカワイイと、ちょっとのお色気の世界。


 そして願ったら、想像を超える美しさで、マジカルエンジェルの最推し、セイントハートそのものの姿で、天使さんは降臨してきた。


「僕は…...何になりたかったんすかね......」


 ただ漫然と生きてきた。生かされてきた。


 そうだ僕は……


 今の過不足の無い、悩みも、苦痛も無い


 特に何の不満も出てこない、この現実が






 ───とても、嫌いだったんだ。




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