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阿修羅姫 まかり通る  作者: 鈴片ひかり
第6章 阿修羅の章
41/45

40 激闘MDS

挿絵(By みてみん)

 糺華と棄獣共の戦いは既に人の目で追うのが困難なほどに速く、そして苛烈な段階へと至っている。


 人の動きを凌駕した糺華と、棄獣たちの暴虐な戦闘力が真正面からぶつかりあった。


 鳥頭ムカデの脚に生えた刃が糺華を追い詰め、犬蟲の無数の目が触手となって縛り上げようと唸りをあげた。


 周辺の配管や柵が爆発でもしたかのように裂け、千切れ飛んでいる。


 糺華は攻撃を避けるために、そして敵を殴りつけるために配管のパイプもぎ取り叩きつけていた。


 何度も頭部へパイルを撃ち込むが、新たな頭部が現れては再生し糺華を追いつていく。


 糺華の膂力で何度打ち抜き、蹴り飛ばしたか、本人も闘争本能のままに戦い抜き、丁度最後のパイルを蹴り飛ばして動けなくなった二匹の腹部を貫いて床へ縫い付けたところで、棄獣はその動きをようやく止める。


 そう、宗像がホツレを結んだため力を得ることが出来ずそのまま急速に腐り果てたのだ。



 さらに霊異庁周辺では、瘴気に惹かれ集まった邪妖や魑魅魍魎の襲撃を受け大混乱に陥っている。


 護衛として残ってくれたダリス伍長が仙葉、パトリック、林らを守るためにMG338を撃ちまくり見事に黒助を守り抜いていた。


 そして霊異庁職員を脱出させようとした影海と亜麻色、文らは幾度となく生者の臭いを嗅ぎつけた屍鬼や妖蟲共の襲撃を撃退しなんとか5階まで辿り着くことに成功している。


 逆側の階段へと向かう際に現れた大型の鬼、そう鬼と呼ぶにふさわしい威容と凶悪さを持った怨妖鬼。


 二本の角と口から突き出た牙、全長3mの巨躯と丸太のような腕。


 手にした金棒にこびりつく血の跡。


 悲鳴を発することなくへたりこみ、失禁する職員たちが溢れる中、3人は怯まなかった。


 文が印を結び、九字を詠唱していく。


「臨 兵 闘 者 皆 陣 烈 在 前……」


 文の念がさらに練りこまれ真言が続く


「オン キリキリ オン キリキリ オン キリウン キャクウン 不動金縛り」


 穏やかでありながら、強い念で縛り上げられた怨妖鬼はピタリと動きを止め、それでも足掻こうと震えていた。


「宗像隊長直伝! ナウマクサンマンダ ボダナン バヤベイ ソワカ! 風天神 真空斬り!」


 刃に纏った風の刃が怨妖鬼の腹部を切り裂いた。


 両断まではいかないが、聖なる風の刃で受けた傷がシュシュウと煙を放っている。


「ビルの中だからよ、火炎系は使えないと思ってもらっちゃ困るぜ。実は火だけが得意って訳じゃないんでね」


 影海がすっと錫杖をリノリウムの床へ突き立てる。


「ナウマク サンマンダ ボダナン ビジラ バナヤ ソワカ! 毘沙門天 破邪三叉戟!」


 影海の右手に神々しいまでに輝く破邪の三叉槍が現れ、音も無く放たれたそれは怨妖鬼の胸に突き刺さる。


 破邪の力でドロドロに溶かされ安堵するのも束の間、新たに現れた怨妖鬼3体が文たちの前に立ちはだかったのだ。



 ◇◇



 とぐろの中で締め付けられていた雪乃は、展開した氷壁によって辛うじて命を繋ぎとめていた。


 夏恋の水刃によって一つの頭を切り飛ばされた真喜志だったが、何度も毒液を吐き鱗を飛ばし夏恋を追い詰めていく。


 巫女服が切り裂かれ、朱色の袴がズタボロになったために脱ぎ捨てている。


 小麦色に焼けた健康的な脚が丸見えになったが、恥ずかしがる余裕すらなかった。


 こういう時のため下にはホットパンツを身に着けてはいたが、夏恋ほどの術者であっても水刃があの堅牢な鱗を突破するのは困難を極めた。


「雪乃おおおおおお! 無事でいるわよね!?」


「無事だけど、抜け出す隙がない!」


『このクソ蟲どもが! 黒眼ソルジュ様から頂いたこのホツレの力で東京を! 日本を支配してやるわああ!』


「まったく何度目的が変わってんのよ! ぶち殺すとかすり潰すとか支配とか、きもいしうざい!」


 と、挑発して隙を作ろとしてはみるものの夏恋の気力もそろそろ限界に近い。


 そして何よりも、行使するための水気が足りなくなってきている。


 手持ちのインパルス銃の水や補充用のペットボトル、そして周囲に漂う空気中の水分は雪乃が防壁を展開するための氷壁に使われてしまっている。


 だがそれは夏恋自身が雪乃の援護のために放ってもいた。


< 夏恋さん、屋上施設のセキュリティコード突破しました。水圧弁解放、いつでも放出できますよ >


「待ってっました」


 ようやく仙葉とパトリックに頼んでいたハッキング成功の知らせが届く。


 屋上貯水タンクの水を利用しようとしたが、施設が対術コーティングをされているためセキュリティ側から突破してもらうしかなかったのだ。


「雪乃ぉ! こういう時に悪いんだけど、1分ちょいあいつを止められるかな?」


「無茶言うわね! いいわやってやるわよ!」


『こしゃくな! 我を止められるなら止めてみるがいい! 東京中に瘴気をばらまき、死体で埋め尽くしドゥルジ・ナス様の復活への供物とするのだああああああ!』


 氷の中にその身を委ねる半妖の雪乙女は、全身の妖気を放出し白雪が如き髪になると周囲を一気に氷結させるのだった。


 とぐろを巻いた真喜志ごと、完全に氷漬けになってしまっている。


「仙葉さん、1分後に貯水タンク爆破」


< 了解です! >


 ”

 高天原に坐し坐して


 天と地に御働きを現し給う龍王は


 大宇宙根元の


 御祖の御使いにして 一切を産み一切を育て


 萬物を御支配あらせ給う


 ……


 ”

 海神を祭る神社の巫女として生まれた夏恋。


 その中でも清龍権現、またの名を善女龍王の加護を受けた水の乙女である。


 夏恋が放つ必殺の召喚術。


 善女龍王の力を持って破邪を為す。


 龍神祝詞が八大竜王からの加護を頂きこの地に龍神の顕現を誘う。


 だが雪乃の氷壁も限界にきていた。


 既に右腕は折れ、その痛みの中で真喜志ごと凍らせていくが、奴の瘴気が氷を伝わりもうすぐそこまで迫っている。



 は、早くして夏恋! もう、現界……



 氷に亀裂が走り一気にはじけ飛んだ。


『ぐはははは! 我にそのような氷など効かぬわ! 攻め手が尽きたのであれば容赦なく喰らってくれるっ!』


 地響きにも似た揺れが頭上から響く。


『ぬぅ!? 上で何が起こっておる!?』


「……大願を成就なさしめ給へと、恐み恐み白す! 善女龍王  聖天水龍陣!!」


 屋上から滝のように降り注ぐ貯水タンクからの水が、空中でうねる様に集まると水龍の姿となって真喜志を呑み込んだ。


『ぐぎゃあああああああああ!』


 蛇と龍。 


 あまりも格が違う相手だった。


 清浄な神気に溢れた水龍によって噛み砕かれ青い血が迸る。


 夏恋が駆け寄り雪乃を助け起こすが、頭部からの出血や右腕が腫れあがっている。


「雪乃ごめん!」


「気にしないで、奴をやれるならどんなことになっても構わない! ケルヴィンブレード!」


 うねりながら近くを横切った真喜志大蛇の胴体が雪乃によって両断される。


 その断末魔の悲鳴すら水龍に飲み込まれていく。圧倒的なまでに聖なる力に満ちる水によって真喜志は抵抗することが出来ずにいた。


「じゃあ最後の仕上げ行くわよ!」


「ええ聖天水龍陣! からのおおおおおおお!」


「「天魔氷結!」」


 龍のアギトが真喜志の頭に食らいついたところでそれは発動された。


 すっと龍神の神気が去った瞬間に、全力で放たれた雪乃の絶対零度に近い氷結によって天井に凍りごと貼り付けになった真喜志。


 空気中の水分が不足している状況では雪乃の氷結能力は十分に活かせないが、夏恋が誘った水龍の力に上乗せすることによって到達した聖なる氷塊に奴は飲み込まれてしまった。


 水と氷の使い手が最高レベルの連携術として訓練してきた日々が、また一つ結実するのだ。


 その苦悶の表情を動かすことすらできぬまま、水晶のように凍り付いている。


 倒れる雪乃を支え、最後の一発になったハンドガンを二人で構え手を添え合った。


「雪女一族の仇! 半妖たちの仇を今!」


「お父さんの仇! お前に殺された人々すべての仇を!!」


 二人の指が触れあい、力強く引かれたトリガー。そして、銃弾が放たれた。


 真喜志は何も発することが出来ぬまま粉々に砕かれ、夏恋の持つ清めの力によって浄化されていく。


 はっと思い出したように雪乃がポケットから取り出した呪符をその粉々の死体に張り付ける。


 すると……


 不可思議な霊圧の後に、施錠されていた扉が開き、奇妙な二人組が入って来たのだ。


 長身な黒いコートの男と、セーラー服を着た色っぽい少女である。


「なんとか間に合ったかなー? おっと粉々だよ」


「これじゃあ瑞萌の出番ねえな。って半妖のお嬢さん、君が俺たちを呼んだな?」


 傷だらけで膝を付いていた雪乃だが、なんとなく理解した。


「お父さんの知り合いの人たちね? 誰でもいいわ結んで? くれるのね」


「うん、康平がやってくれるからその間に手当をしてあげる」


 どこからか取り出した包帯と添え木、そしてハンカチを取り出し雪乃の右手を吊ってくれる。


「糺華ちゃんのお姉ちゃんでしょ? すごいねちゃんと仇を討てたんだね」


「あなたの正体は詮索しないでおくけど、ありがとう助かったわ」


 擦り傷は多少あった夏恋だが大怪我の類はないようだ。


「天網恢恢疎にして漏らさず! 結べ因果よ 結実せよ応報よ!」


 じゃらりと無数の黒い鎖が粉々になった奴の体に染み込んでいく。


 小さな鎖から太い鎖まで。


 悲鳴や断末摩が聞こえなかったが、二人は成し遂げたのだ。


 一つ、また一つと、黒い鎖が奴の破片と共に姿を消していく。


 全ての鎖が消え去った時、二人は抱き合って泣いた。


 よしよしと、瑞萌が二人を抱きしめている。


 その時だった。


 ヘリポートで宗像が黒眼を倒し、結んだ感覚が皆の霊的器官に伝わった。


「宗像さんやったんだね」


「保険で来てみりゃてめえ一人で片付けやがった。まったく大したもんだ、まあ真喜志という大物を結ぶことができたからよしとする」


「挨拶していかないの?」


「男の顔なんぞ見たくねえ、帰るぞ瑞萌」


「はーい、じゃあね夏恋さん雪乃さん」


 バイバイと軽く手を振り軽やかに立ち去る二人を背に、夏恋と雪乃は手を握り合い再び沸き起こる押し殺していた思い出の奔流に飲み込まれ涙した。


 その二人がなんとか屋上へ辿り着いた時、糺華が必死に宗像の手当をしていたのだった。


 思わず怪我の痛みを忘れて走り出した雪乃は、ぼろ雑巾のように傷つき倒れた宗像の姿に悲鳴のような泣き声を発し、傷の手当に乗り出した。


「ひどい!」


「お姉ちゃん! 太ももを縛って止血して!」


「う、うん分かった!」


 夏恋も止血に乗り出すが、出血が激しくこのままでは命に関わる。


 それは突然に訪れた。頭上から照らされライトは、まるで天からの光条のようであった。



『かれーん! 助っ人に来てやったぜえええええ!? ってもう終わってるのか? いや宗像の野郎が重体だすぐに着陸しろ!』



 自衛隊のUH60J 通称ロクマルが緊急着陸を果たし、夏恋、雪乃、糺華によって守られていた宗像に自衛隊の医官が駆け寄り応急手当に入る。


「こいつはひどいな、宗像の野郎をここまで追い詰める敵ってのはいったいなんなんだ!?」


 KSSの北村が米軍経由の依頼で支援に訪れていた。知恵を出し怪我人の救急搬送だと自衛隊に出動依頼として調整した形だった。


 北村としては宗像への借りを作りたかったのだろう。


 緊急輸血と止血により様態の安定した宗像が意識を取り戻す。


「どうして目が覚めてお前の顔を真っ先に見なきゃいけないんだ北村」


「おいおいその言い草はなんだよ! せっかく救援に来てやったのによ!」


 KSSの隊員が周辺の警戒と護衛についてくれているのは素直にありがたかったが、何よりも娘たちが心配な宗像はすぐに3人の頭を撫でた。


「糺華、怪我はないか? 大丈夫か? 雪乃、手伝ってやれなくてすまない。そんな怪我をごめんな」


「おとうさん気にしないで、あのね夏恋と二人でね仇、う、うてたの……」


「隊長、雪乃と二人で倒せたんだ、あいつを真喜志を!」


「よくやった夏恋、雪乃。情けない隊長ですまんな。肝心な時に一人にさせちまった」


「パパこそ、やっと黒眼を倒したんだよね。すごいよ、パパは私の誇り!」


 糺華がわんわんと泣き出すと、つられて夏恋と雪乃も宗像に抱きつき嗚咽を始める。


 辛かっただろう。


 年頃の乙女が普段は強がって見せても、復讐の道を歩く辛さは何より自分自身が苦しみ抜いていたから。


「いい娘、持ったじゃねえか……むなかたよぉ」


 北村までもがなぜかもらい泣きしている始末。


 輸血と止血、それに投薬が効き顔色がやや戻りかけている。


 発見当初は土気色をして死体と間違われても仕方がない状態だったことを考えればと、雪乃は未だ泣き止まず抱きついている。

物語りはまだ続きますよ。

ラストスパートです、糺華と宗像、そしてMDSをぜひ見守ってください。

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