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阿修羅姫 まかり通る  作者: 鈴片ひかり
第6章 阿修羅の章
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39 涙、ひとしずく。

私の如き底辺と言われる実力ではありますが、それでもこの回を描くためにこの作品があったと言っても過言ではありません。

どうか、読んでいただければ嬉しく思います。


39話「涙、ひとしずく。」

( おのれえええ! あの時とどめを刺し棄獣共に食らわせておけば、ぬぅ! ドゥルジ様より頂いたホツレの根源に最も近いこの力で奴を奴を! だがあれを用意しておかねば、万が一にもコアに届こうものならば! )


 黒眼ソルジェの縦に割れた頭部から凝縮された瘴気ビームのようなものを放たれたが、ブルーライトニングの50Mg弾が頭ごと吹き飛ばす。


 そのまま全弾、さらに弾倉を交換し全てが肉片になるまで撃ち尽くす。


 爆発に近いブルーライトニングの放つ50Mg弾の破壊力の前に黒眼の防御力など紙に等しかった。


「見えたっ!」


 その狂喜に満ちた掛け声に、黒眼ソルジェの焦りと恐怖がある行動を優先した。


 左下腹部に潜ませていた奴のコアとも言える、腫瘍に覆われた胎児の如き本体を中心に一気に融合したのだ。


 だがそれを完全に読み切った宗像の鬼凛丸が上段から振りかぶられ――


(ま、まずい! や、やられる! はっ!? なぜ奴は笑っていない!? さきほどまで狂喜に満ちたあの狂った復讐鬼が!? ちっあれを使うしかないか!?)


 宗像の次の行動に、黒眼ソルジェは我が目を疑った。


 鬼凛丸を躊躇なく手放すと、融合し飛び交う肉片の雨に飛び込み両手で何かを掴み通り抜けたのだ。


 そのまま抱くように両手で握った赤く光る宝石のようなものを、渾身の霊力を込めてヘリポートに叩きつけると、数十の光が離れた宙へ放たれる。



 融合を終え、黒眼ソルジュが後ずさりしながら宗像へ震える指をさし叫ぶ。


「き、貴様ああああ! あの機会を逃したのはまさかあああ!?」


 宗像が見つめるのは黒眼ではなく、空中で浮遊し揺れ動く30数体の美しい光、いや魂の輝きだった。



 ””

 あれは切り札として確保しておいた、あの時奪った魂!


 万が一、不利になった時のため盾に人質に使おうと思っていた、あの魂の牢獄をおおおおおおおおおお!


 奴は狙っていたのだ! 我が幽世の隙間から取り出して数秒も経たぬというのに!


 あの一瞬に、あの一点に、あの刹那に、己の復讐心すらもフェイクとして囮として利用したというのか!?


 魂を取り戻すという目的のためにだと!?


 なんという執念、なんという人の思い!  貴様を恨み狂うただの復讐鬼だと断じて油断させたことすらも奴の狙いだったのかあああ!


 人とはあの一瞬のために全てをかけることができる生き物だというのか!!?


 な、なんだこれは!? きょ、恐怖なのか!? ドゥルジ様に対して抱くあの感情とは違う。


 お、恐ろしい、 読めぬ、読み切れぬ、 私が相手にしているのは本当に人間なのか!?



 畏怖すべき執念よ、人とはかくも一念に全てをかけることができるのだな。


 こ、これが恐怖か!



 ””


 だが宗像の体にはとっくに限界がきていた。肺が悲鳴を上げ血を吐き、膝を付き それでも尚、夜空に浮かぶ魂を穏やかな瞳で見つめていた。


「だが生かしておかん、貴様は徹底的にその痕跡すら残さぬほどに滅してやる!」


 剣を手放し、生き絶え絶えの宗像。


 その目は死んでいないが、体が言うことを聞かないといった様子だ。


「その体ではなにもできまい! その一片の肉片すら残さず滅してやる!」



 黒棘が体に突き刺さり、硬質化させた右腕の刃をなんとか避けるものの蹴りで吹き飛ばされ血を吐き倒れてしまう。


「もろい! やはり人はもろいわああああ! あれで全てを使い果たしたのだな! ぐはははは!」



 体に力が入らない。視界が霞み視野が狭くなっていく。


 不思議と怒りも憎しみもない。


 子供たちの魂を解放できたという達成感、いや使命を果たせたという思いが痛みすらどこかへ遠ざけていた。



 もう、いいのかな。


 たいして運動神経が良い訳でもなく、


 勉強だって苦手でなんとか保育士試験を通れた。


 それが須弥山の修行を経て、目的の一つを果たすことができたんだ。


 俺にしちゃ上出来じゃないのかな。



 指先の感覚がもう……


 みんな、ごめん。


 僕はもう。



「……い! ……れぇ!」


 なんだ、何故声が聞こえる!?


 なぜ?



『 せんせえええええ! がんばれええええええ!』


 !?


 輝く魂の光の中にあの日の光景が、子供たちが全力で手を振っていた。


 満面の笑みで、あの日と変わらぬ、あのお昼寝前の笑顔がそこに、あった。


 むなかたせんせい がんばれええ! まけるなあああああ!


 みうちゃん、かずくんが、けいちゃんが


 お昼寝前に背中に飛びついて甘えるカナちゃんの温もりが背中越しに伝わる。


 子供特有の体温の高さと放たれる生命力の波動。


 澄んだ宝石よりも美しい子供たちの瞳。


 そして元気な笑顔と笑い声。


 あの頃の優しい風が宗像の傷ついた魂へ染み込んでいく。


 そして……



『征士君! 立って! 今ここで立たなきゃ多くの人たちが傷つくわ! もう私たちのような犠牲者を出さないために、立って征士!』



 真由子……


 出血で朦朧とする意識の中で、あの人の、最愛の人の声が聞こえる。


 真由子!?


 もしかして君は、あの十数年間、子供たちの魂が闇に囚われないように励まし続けてきたというのか!?


 なんて人だ、なんという強い心なんだ。



「ま、まだ立てるのか!? なぜこいつ!」


 恐怖だった。


 宗像があれほどの傷を受けて尚立ち上がれることに、黒眼ソルジェは恐怖を感じ動けずにいる。


「へっ立ってみせるしかねえだろ。子供たちの声援と、がんばってる娘たちのために、そして惚れた女がケツ叩いてくれてんだからよ……ふぅ」


 なぜだろう、もう立てないと思っていたのに、体から力が溢れてくる。



 燃え上がる憎しみはなく、誰かのために戦うという純粋な思い。


 怒りはむしろ感じない。あれほど身を焦がした憎悪が、消え去っている。



 胸の奥から、四肢の末端から力が迸るようだ。


 全身が優しい力で満たされていく。



 気付くと右手にはあの鬼凛丸が握られている。


 その手にそっと触れたのは愛しい真由子の手、そして頬を触れる優しい笑み。



 ああ、愛しい人よ。


 君とはもう今生で抱き締め合うことはできない。


 だからさ、こう思うんだ。


 みんなが再び転生し、この地に産声を上げた時。


 黒眼ソルジェの肉片、いや細胞の一片すらこの世に残しておいては申し訳ないってね。


「だからさ、お前の存在を滅する」


 低くそして落ち着いた声だった。


 あの怒りと憎悪が感じられた怒声ではない、静かだからこそ黒眼に生まれた恐怖が奴の全身に震えを生じさせていた。



( く、くる!? 奴の必殺剣が!?  こ、こわいいいいいい! フジミであった我が消え去るなどありえぬううううう! )



 その恐怖が隙を生んだ。


 もしかしたら、宗像の執念がこじあけた隙であったのかもしれない。


 一気に距離を詰める宗像だったが、天輪幻舞斬 を警戒し身構えた黒眼に鬼凛丸が投げつけられれる。


「な!?」


 虚を突かれたソルジュは、首に潜ませた腫瘍胎児の核を見事に貫かれ倒れ込んだところで、宗像は両掌を交差させるように突き出すと、薬指を絡ませ人差し指を立てる印を結ぶ。



「ウーン!  オン ソンバニソンバ ウン バザラ ウン ハッタ! 降三世明王 降魔圧殺陣!」



 四面八腑 の怒りを称えた降三世明王の姿が踏みつける体勢で一瞬現れ ソルジュは悲鳴をあげることすらできずにいる。


「破壊神シヴァをも調伏せしめたという、降三世明王の力を持ってホツレを抑えたまえ!」


 踏みつけるそのあまりの力にヘリポートが悲鳴をあげ軋んでいる。


「こういうとき、てめえにかける言葉を何度も推敲し考え、磨き上げてきたんだがな、忘れちまったよ。そんなもんどうでもいい、あの子たちを解放できたことに比べりゃ、てめえがどうなろうと知ったことじゃねえ」


 印を結んだまま念を練り上げ宗像は独り言のように囁く。


「お前は、俺のどうでもいい思いつきレベルの小さな小さな意思で、気まぐれに結ばれるんだ。大層な決意や復讐の覚悟じゃなく」


 その小さき意思に込められた万感の思いが、多くの人々を傷つけ塗炭の苦しみへ追いやったホツレへの人々の思いが……今結実する時!



「天網恢恢疎にして漏らさず  天よ地よ! 三千世界の理よ!  この者を 暗き漆黒の地獄の底より深い闇へ結びたまえ! 人は人なり! 花は花なり!   結べ! 因果、応報!」 



 その鎖は地から、天から、風から、ありとあらゆる場所から空間を埋め尽くすような鎖となって現れた。


 悲鳴を上げるソルジュにたいしてそれはゆっくりと、意思を持つ蛇のように絡みつき突き刺さっていく。


「いやだああああ! いやだああああ! ごめんなさい許してください! この通りだよあやまるよおおおおお! 人間は謝ったら許してくれるんだろおおおおお!」


 宗像は何も言わず無視を決め込み、奴は絶叫しながら黒い鎖に結ばれ地獄のさらに底へと引きずり込まれていく。


「聞いた話だがよ、お前らホツレはな、俺たちの体感する1秒が数億年に感じる地獄へ行くらしいぞ。さらにそこで実時間 数千兆年換算で地獄の責め苦を受け続けるらしいな。まあ、どうでもいい。本当に、どうでもいいことだ」


 奴の悲鳴が途絶え、全てが消え去ったところで、宗像は糸が切れたように倒れ込んだ。


 だが宗像の体は暖かく優しい何かに包まれていた。


『征士、私の大好きな人。ありがとう、私と子供たちを救ってくれて』


「真由子……僕は、ただ君と一緒に普通に笑って過ごしたかっただけなんだ。保育の悩みを相談したり、猫を飼って君と君と……優しい時間が過ごしたかっただけなんだ!」


『私も同じ気持ちだった……誰よりも優しいあなたがもうこれ以上苦しみを痛みを背負うことはないわ』


 少しだけ俯いた真由子は何呼吸か言葉を飲み込むように優しく微笑んだ。


『でもね心残りがあったとすれば、あなたの、お嫁さんに、なりたかったな』


 一筋の涙がぽろりと、宗像の頬を流れる。


 そう、涙ひとしずく。それは真由子の涙か、宗像の涙かは分からない


「真由子おおおおお!」


 生きて征士……


 薄れゆく意識の中で真由子に連れられ子供たちが旅立つ。


 むなかたせんせい! ありがとおおおおお!


 みんな、守れなくてごめんな 


 僕は僕は……

この回を書き上げた時、「完」と勢いで書いてしまったのを覚えています。

べただというご意見があってもいい、ありきたりだと言われてもいい、書きたかったことを、文章にぶつけました。

宗像の執念、どう読者に届いたのか、ご意見ご感想を聞かせていただけたら幸いです。

しかし物語りは終わりません、雪乃は、夏恋は、糺華たちの戦いの行方は?

そして……

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