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阿修羅姫 まかり通る  作者: 鈴片ひかり
第四章 凶変の章
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28 ドゥルジ・ナス

感想をいただけるというのがいかにありがたいことか、最近特に感じております。

読んでくれた人に、改めてありがとうございます。

 糺華の体温は低く微かに震えているようだった。元気が服を着て歩いているイメージが強いあの子のこんな姿など誰が想像できようか。


 既に緊急用の救出要請信号はスーツに仕込んだ発信機経由で送ってはいる。


 だが、この瘴気濃度では通信に影響が出ている可能性は高い。


< おやおや無敵で鳴らしたあのMDSの面々が随分しけた面してますねぇ >


 場内アナウンスに乗せた皮肉な言葉が競技場のような円形ホールに響きわたる。


< もう気付いているかとは思うがね、今回の作戦は全て罠。我々の仕組んだ壮大なショーであったのだよ宗像君 >


 とっくに気付いてはいたが、そうなると本隊は無事なのか?


< 我らは全てあのお方のために動くことが至極の幸せなのだよ。それを何度も邪魔し潰してくれた貴様らはここでミンチにすることに決めたのですよ >


 雪乃と騰蛇が視線を合わせお互いの位置を確認している。


<でもミンチじゃなくて全身の皮を剥いだ後に干物にしてから霊異庁へ送りつけるって案もあったなぁ、でも手間かかるしミンチでいいと思うんだ>


 騰蛇がイラつきながら体温の低下した糺華を温めてくれている。精神がリンクしているので影響を受けやすいが、こちらの意図したことに反応してくれるのが最高位式神の特筆すべき個性とも言える。


< さあおしゃべりしすぎていてもあれだからね、君たちとぜひ戦いたいという者を用意した。じゃあせっかくなのでミンチになって我らが母、ドゥルジ・ナスの生贄になってもらおうではないか >


 ドゥルジ・ナス…… だと!?


 ゾロアスターの伝承に登場する不浄と死体を愛する魔王だったはずだ。


 それほどの大物が背後にいる? はったりか? しかしなぜここでそんな情報を出す必要があるのだろう。


 可能性として考えられるのが、この時点で黒幕の存在をばらしても奴らの計画に何ら支障をきたさないということか!?


 宗像の怒りは爆発寸前ではあるが、その感情の高ぶりを抑え冷静に見降ろしている自分もまた存在した。


 ドゥルジ・ナスの魔王が背後にいるのであれば……


 繋がってしまう。


 このところ、いや数年以上にかけて感じていた不浄な死の穢れの気配。


 糺華ですら警戒していたほどの、” 死の穢れ ”  ドゥルジナスが欲して止まない不浄と腐敗の満ちた世界……



 自分たちをここで足止め、いや殲滅すれば脅威が無くなると思ったのか?


 だがそれだけでは説明がつかない。なぜこれほどまでに当局に察知されず好き放題ができた?


 その疑念を埋める候補の一つが” ホツレ ”だろう。ただの買収では説明できないことが多すぎる。



 最も単純で、最悪な予測が胸中で動悸のように確信へと変わっていく。


 ドゥルジナス 不浄と腐敗の魔王 が ” ホツレ ” の力を手に入れてしまった。



 こうなればもう人の手どうこうできる事態なのか? 神話や伝承の類の出来事とだろう。


 全身に震えが広がっていく。


 手の震えが大きくなってくる。


 だがこれは恐怖じゃない。


 そうなれば必ず出てくるはずだ。もう少しで奴に届く! ぶち殺せる!! 


 抑え切れぬ狂喜の震えが全身に広がっていく。


 ようやく辿り着いたぞ!


「ブラックアイ!!」



「あははは! それって僕のことかな!?」


 すとんとホール中央に降り立ったのは、中学生ぐらいの日本人男子に見えた。


 だが目は全て黒眼であり、放つ殺気と瘴気と妖気が混じり合ったあの日を思い起こす感覚が臓腑に染みわたる。


 この瞬間を何千回、何万回、何千万回、シュミレートしただろう。


 あの日の黒眼だと識別すべき特徴がすべて異なるという結論を導き出していた。


「お前はあの時の黒眼野郎じゃねえな、もっと歳食った不愛想なのがいんだろう!?」


「僕以外の 黒眼こくがんを知っている? へぇやっぱりMDSは以前に僕たちと接触があったって話は本当だったんだねぇ」


「――ひまわり保育園を知ってるか?」


「はぁ? 何それ知るわけないっしょ」


「そうか、ならさっさとぶち殺してから結んでやる」


「あれぇ? 会話が成立してるぅ? 会話ってさこうキャッチボールぅーーって、いきなり襲ってこないでよぉ」


「騰蛇! あれがホツレだ! 俺の霊力から奴のイメージを拾い上げて焼き尽くせ!」


『おっと、こいつらがそうか! おもしれぇ!』


 雪乃は言われずとも糺華を守るために氷結結界を構築しているが、このままでは体温を低下させてしまうかもしれないというジレンマに囚われていた。


 出血も収まってはいるが流れた血の量が多すぎる。呼吸は安定してきてはいるものの、いまだ意識は目覚めない。


 その間も宗像とブラックアイの戦いは開幕からいきなり苛烈を極めていた。


「気功発勁! 破っ!」


 発勁と騰蛇の火炎がブラックアイを襲うが、するりとウナギのように攻撃を掻い潜り避けていく。


 雪乃もホツレが認識できるよう宗像のまじないを受けているため認識できてはいるが、どこかテレビの中の戦闘のような感覚に襲われてしまう。


 これほどまでにホツレのもたらす歪みが深いのだろうか。騰蛇と互いの位置を霊力リンクで把握しつつ隙を見つけては退魔術を放つ。


「オン ガルダヤ ソワカ!  降魔迦楼羅焔ごうまかるらえん!」


 宗像の発した降魔の炎がブラックアイを取り囲むように燃やし尽くそうとするが、奴は火炎に焼かれても平然と宗像へ襲い掛かる。


 蹴りから衝撃破を放ち、避けきれず壁に叩きつけられる宗像。


 すかさず騰蛇がフォローに入り火炎蛇で動きを止めるが、またもやするりと抜け出してしまう。


 皮膚は焼け爛れ髪も半分燃えてしまっているが、黒い眼は不敵に輝き口角が不気味なほどにせり上がっていた。


「あはははは! やっぱり人間にしてはそこそこやるねぇ! じゃこちらもドゥルジ・ナス様から授かった力を出すときが来たようだねぇ」


 甲高い少年のような声をしていた黒眼だったが、その体が徐々に膨れ上げり声質も低いモノへと変化していった。


 一時呼吸が止まるほどの衝撃を受けた宗像だが、さすが蓄積された経験を活かし胸を叩いて横隔膜を刺激するとすぐさま攻撃に転じていく。


「ナウマクサンマンダ ボダナン バヤベイ ソワカ! 風天神 烈風竜巻!」


 膨張を続ける黒眼巨人が風天神の刃で切り刻まれていくが、堅牢な皮膚を傷つけるにとどまった。


 すかさず騰蛇が術後の隙をフォローすべく火炎を放つも巨大になった手で弾き返されてしまう。


 その姿はやがて5mを超える巨人のような姿になり、顔面や手足には装甲のように硬質化した外殻が現れてしまう。


『宗像、随分楽し気な相手と戦わせてくれるじゃねえか!』


 騰蛇は炎で大剣を作り出すと怯みもせずに巨人と斬りかかっていく。


 宗像も援護で発勁を撃ち込むが、強化された外殻を打ち破るには至らない。

迦楼羅天は阿修羅王と同じ八部衆に属する仏神。

かるらてん と読みます。鳥の頭と人の体、そして翼を持つという姿をしています。

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