20 凪と兆し
「どうだ宗像! SOCOM経由で入手した SIG MG338 だぜ! 射程1700mのアサルトライフルってすげえだろ! 日本で持ってるのはうちらぐらいなもんだ」
( ※ SOCOM : アメリカ特殊作戦軍 つまりめっちゃ強い特殊部隊 )
KSSの北村が先の作戦で被害を抑えられたのは宗像の助言のおかげだということで、お礼がてらおもちゃを見せびらかせにきたという流れだ。
SIG MG338 はアサルトライフルにしては大型のタイプだが、ボディーアーマーの貫通性能や射程、サブレッサーを装備可能で静音性の高い任務でも使用できるという優れものだ。
「そうかそいつをくれるとは中々気が利くじゃないか北村」
「誰がやるか! だがお前から注文のあった例の 『 ブツ 』 持って来たぜ」
「ブツを小声で言うのは止めろ。うちにはまだ未成年がいんだぞ」
「だーっはっはっは! ちがいねえ、ほれ MP7 と M870 MCS は持ってきてやったぜ。それよりショットガン用のショットシェル呪紋弾は開発中だがいいのか?」
北村が部下のごついアメリカ人に運ばせた銃器ケースが事務所の入り口に積み上げられている。
「問題ない。既に祈祷済みの粗塩をベースにした近接用ソルトシェルと、Mgコーティングしたボールベアリングを使用したショットシェルを製造中だ」
この会話を頭に? を浮かべて聞いていたのが文と亜麻色だった。
事務所の椅子で報告書を書き終えた二人は、北村の子供のようなはしゃぎようを見物していたのだ。
「つまりね、おもちゃ持ってきたけどパーツ足りてる? こっちで自作して使えるようにする、ってこと」
「「なるほど!」」
雪乃の身も蓋もない解説に納得している二人だが、新式装備になりそうなMP7について文は気になっていた。
サブマシンガンの発展型として開発されたPDWという種類の MP7 は、小型で文でも扱えそうな雰囲気を漂わせていたからだ。
現行装備のACR ブッシュマスターは文の体格ではさすがに扱いきれないため、銃器はFive-seveNしか持たせてもらえない。
もちろん不満はないが、自分でも扱えそうな大きさのMP7にはやはり密かな憧れが湧き出していた。
もう一つのショットガンは大型でいかにも宗像が扱いそうなプロ仕様という威厳さえ漂っている。
「それとだ、お前からのアドバイスを元に霊異庁の装備課が試作したのを何個かかっぱらってきた。霊水を圧縮し水蒸気として放出する霊水スモークだ」
特殊部隊などが使う発煙筒型の携行しやすい大きさであり、一般市民を一時的に邪妖たちから守るにはかなり効果的な装備だろう。
譲ってくれるというので5個ほど素直に貰っておくことにした。後でパトリックに複製させておこう、むしろそのために情報を流したようなものだが。
北村は190cmを超える元自衛隊レンジャー部隊出身者で、妙に宗像が気に入りたまにこうして遊びにくる間柄だ。
霊異庁に毛嫌いというより、恐れられている宗像はこうして気さくに遊びにくる北村を邪見に追い返したりはしない。
「それで本題はなんなんだ? 条件次第じゃ受けてやる」
「もうちっと愛想よくできねえのかよ。まあいっか、話ってのは実はSOCOM経由でアメリカの対フォースドメイン部隊がお前らMDSと演習をしたいらしいんだ」
「演習? 断る」
「おい待てよ。向こうは演習とセットで特殊銃器の共同開発も打診してんだよ」
「どうせパトリックの奴を取り返したいんだろ? 俺たちにメリットはない断る」
「そういうと思って俺が切り札用意してなかったって思うのか? こいつを見てみろ」
北村はスマホを差し出すとそこには浜辺に佇む一人の男の姿があった。
「暗くて良くわからんな、なんだコレは?」
「元霊異庁 封魔局副局長の猪鹿倉だ」
「!? おい、本当か!?」
「目撃地点は茨城県の丸島温泉付近の浜辺だ。そして最近自衛隊が手に入れた演習場がある、といえば話が早いか?」
「できすぎな話だな」
ある事件の前後、姿を消した人物として宗像が密かに行方を追っていた。糺華との縁を繋いだ人物として放っておけないという思いがあるのも事実だ。
「ロケハンでスタッフが撮った写真に偶然映っていたんだよ」
「となれば偶然ではない必然だ、猪鹿倉さんはわざと撮らせたんだ。接触できれば42号作戦の情報を知ることができるはずだが、俺たちにとっては必要な情報となるか……夏恋! 頼みたいことがある」
「あいよー!」
元気な女子大生退魔師 久連山 夏恋がポニーテールを揺らしながら現れた。
「あら、北村さんじゃん」
「おう夏恋、またいい女になったじゃねえか」
「えっへん、どうだ女子大生巫女、ニーズありまくりっしょ!」
「MDS飽きたらうちにこいよ、給料は期待してくれていいぜ」
「それはないな、MDS居心地良すぎだし 文ちゃんと糺華ちゃんっていうおもちゃがあるから離れられないのさ」
「おい夏恋」
「おっと、隊長」
「北村がある依頼を紹介してくれた。それを受けるべきか、占ってみてくれ」
「へいへいよー」
すると夏恋はすぐにシャワールームへと飛んでいく。一気に冷水をシャツにホットパンツというスタイルからかぶってしまう。
水との親和性の高いこの娘はこうして占いをする。
主に吉兆が分かるらしく、重要な依頼では夏恋の占いを参考にすることもある宗像だった。それだけ夏恋の占い能力が高いとも言えた。
10分ほどして濡れた髪をタオルで吹きながら夏恋が現れた。
「隊長、なんだか変な占い結果になったよ。吉でもあるし、不吉でもある、でも受けなければもっとひどい不幸がMDS全体を襲うみたいなイメージ」
「分かった受けよう北村。段取りと連絡を頼む」
「ほいきた、さっそく秘書から連絡させるぜ」
「それと北村さん、あの新型アサルトライフル あれうちらに貸さないと帰りに事故死するって見えたよ」
「おい、じょ、冗談でもそういうこと……まじなのか?」
北村自身も何か気になる依頼があると金を払ってでも夏恋に占ってもらうことがあったほどで、その能力を知っていたからこそ断腸の思いでSIG MG338の貸与を決めた。
夏恋はうれしそうに部下のアメリカ人から操作方法の指導を受けていた。
◇◇◇
演習場近くの宿に前日入りした宗像と影海、夏恋、雪乃の4人。
KSS秘書からの連絡によれば明日に米軍対フォースドメイン対策部隊との演習が予定されている。
あちらさんはかなりやる気らしいから揉んでやれと北村からの言伝らしい。
そして、例の件でスマホに連絡が入っている。
【 2300 丸島海岸 丸島海洋神社鳥居にて 】
猪鹿倉の件だろう。
失踪を聞き最初はショックを受けたが、すぐにあの件が絡んでると知り彼らしいと納得した。
あの件とは、霊異庁の犯した最悪の作戦 ” 第四種特定生物群由来遺伝子保有生物殲滅作戦 ” 通称 42号作戦。
雪乃の両親や一族はこの作戦で皆殺しにあった。
宗像や民間退魔会社もこの件を知ったのは実行に移された後のことであったため、手を打てなかったことが悔やまれる。
雪乃は養女となった後も、この作戦の立案者と首謀者を殺し一族の仇を討つことを誓っている。
復讐は何も生まないと、さすがに宗像は口にすることができなかった。
何より自分自身が復讐の鬼と化しているのだから。
気持ちは分かるし最大限協力してやりたい。
霊異庁は関係者を処分し作戦自体をなかったことにしたいらしいが、この作戦後から生き残った半妖からトップたちは常に狙われ続けるという宿命を背負ってしまったとも言える。
そのため雪乃は対半妖結界のため霊異庁本庁舎に入ることができないなど、奴らの醜い保身と我が身可愛さに愛想をつかして関係を断つ民間退魔会社も多いと聞く。
MDSが表面上だけでも霊異庁との関係が続いているのは、雪乃の了承も得た上でそのほうが情報を得られるという点に尽きる。
影海を連れて待ち合わせ場所に向かう。周囲に奇妙な気配はないが用心するにこしたことはない。
街灯の明かりが僅かに届き照らされている鳥居が、岩場に突き出たエリアに建造された神社の入り口だということを示していた。
「兄貴、時間ですが猪鹿倉のおっさんは来てるんでしょうかね」
「お前もまだまだだな、既に俺たちを待ってるよ」
そのやりとりが合図であったかのように、すっと人の姿が影から生えてきたかのように現れる。
「さすがだな宗像。糺華ちゃんは元気にしてるか?」
「ああ、元気すぎて困ってるぐらいだ」
「ほう、影海か。あいかわらずの禿げっぷりですぐに分かったぞ」
「うるせえ、現役時代から毛根ネタでいじりまくりやがって」
「がははは!ってまあそんな余裕もないんだがな、これまでの調査結果をこのUSBに入れてある」
夜闇の影がより猪鹿倉の皺を深く重く見せているためか、以前よりかなり老けたように思う。
「すぐに仙葉とパトリックに調査させる。それであんたはこれからどうするんだ? 良かったらうちで隊員たちを鍛えてやってくれると助かるんだが」
「ありがたい話だがな、まだ調べなければならないネタがたくさんあんだよ。それに止められなかった俺は雪乃ちゃんに合わせる顔がねえよ」
「あんたのせいじゃないだろう」
「あの組織にいた人間としての責任がある。それに……もう娘は」
猪鹿倉が必死になっているのは娘のことが関係している。
殲滅作戦を止められなかった猪鹿倉が内部調査を進めている間、小学生の娘が轢き逃げにあって亡くなっている。
猪鹿倉は一言も口にしないが、殲滅作戦に関わった人間の仕業だとしてその背後を追い続けていた。
「分かった。じゃあせめて情報代と調査費用、出させてくれ」
宗像はポケットから取り出した厚みのある封筒を無理やり猪鹿倉の手に握らせた。
「こんなもんいるかって以前の俺なら叩き返していたところだろうが、今はありがたくいただいておくぜ」
とジャケットの内ポケットに封筒をしまい込むと軽く手をあげた後、一瞬だけ寂しそうな余韻を背中に残しバイクで走り去った。





