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阿修羅姫 まかり通る  作者: 鈴片ひかり
第四章 凶変の章
21/45

21 日米合同退魔演習

挿絵(By みてみん)

 翌日、米軍関係者との演習打合せに向かった宗像。


 近隣の別荘を臨時で借り上げそこに駐留しているらしい。


 出迎えてくれたのはアフリカ系アメリカ人のダリス・J・エマーソン伍長だった。


 聞けば両親が在日米軍の軍人だったそうで、日本語が堪能のため通訳も兼務しているという。


「いやあ助かります。梵字なら読めるんだけどな」


 影海がにこやかにダリス伍長と握手をしている。


「日本から本国に帰るときは本当に悲しくて泣きじゃくったものですよ。まあ友達との別れと同じくらいジャパニーズアニメから距離が離れるのが辛くてね」


 人のよさそうな笑みを浮かべるダリス伍長は身長が190cm近くあり、ネコ科の猛獣を想起させるようなしなやかで見事な体格をしている。


 こいつらと演習することになるのかと、米軍側の身体的優位性はかなりのものだと思い至った。


 ダリス伍長は人懐っこいくりっとした目をしており、宗像に会えて光栄だと丸顔がさらに丸くなっており笑みを隠しきれていない。


 それが彼の印象を良くしてはいるが、後方でそれを眺める隊員たちは一様にギラついた目と殺気を隠そうともしていなかった。


<< Darys, don't be afraid of occult mania. (ダリス、そのオカルトオタク共に愛想振りまいてんじゃねえぞ)>>

<< I'll show you the difference in ability tomorrow, so be prepared. (明日は実力の違いを見せつけてやるから、覚悟しておけ)>>


 なるほど、やはり敵意を隠そうともしていない。


 こういう場合は英語が通じないと思ってもらっていたほうが色々都合がいい。


 ダリスは板挟みになって辛そうな顔をしているので逆に心配になっていると、奥から指揮官らしき50代の白人男性が現れた。


「ミスター宗像、お会いできて光栄だ。私は対フォースドメイン部隊 CFU 指揮官 ウェズリー・ウィーバー大佐だ」


「初めましてウェズリー大佐。MDS代表の宗像征士と申します。今回は演習にご指名いただき光栄です」


 礼儀正しい挨拶にダリルはほっとし、隊員たちはじっとりとした視線をぶつけ、ウェズリーは握手を求めた。


 そのごつく鍛え上げられた手はただの階級だけの飾りではない実力が感じられる。


 ダリスを中心に明日の演習内容の打ち合わせに入った。



 自衛隊演習場内の廃校を借り切り、CFUが子供たちを守りながら脱出ポイントまで向かうという内容だった。


 MDSの担う役割は呪術系を使ってかく乱し子供役の人形を拉致もしくは破壊すること。


 嫌な演習だと思った。



 勝利条件は人形の奪取または破壊。もしくは、隊員全員の殺害判定。これはマーキング用の呪符を貼りつけられたということで認定されるという。


 制限時間は一時間で直接的な肉弾戦はなし、CFUはペイント弾を使用。MDS側は銃器の使用はなしといった流れであった。


「宗像さん、大丈夫ですか? 銃器なしっていうのはフェアとは言えない。僕から抗議してもう一回演習内容を」


「ダリス伍長、問題ないよその条件で構わないさ。重要なのは勝ち負けじゃないだろ? CFUが本国で多くの人たちを救えるノウハウや技術を身に着けること でいいんだよな?」


「は、はい!! その通りであります!」


 だがダリスの不安は消えない。銃器無しのハンデはさすがに重すぎる、どこまでやれるのか疑問が残っていた。


 後ろのCFU隊員たちも銃無しという条件下のMDSを見て、嫌な笑いをしている者、イラついている者など様々である。


 宗像の心象としては、外部デビューとなる日米退魔演習で結果だけでも勝利というバッジが欲しいらしいことは伝わった。



 ◇◇



 旧丸島橋小学校 校舎


 演習開始と同時に職員室をベースとしたCFUが行動を開始した。


「衛星とのデータリンク確認、展開中ドローン各機からの画像データ受信良好」


「すぐに画像データの霊体構造解析を始めろ、いつまでも霊異庁のクソ共のご機嫌をうかがうのは今日で終わりだ!」


『『『 サーイエッサー! 』』』


「最優先撃破目標は密教呪術の使い手 ”影海” だ。ミドルレンジでの対応ができるこいつを正面からぶつけてくる確率が高いぞ!」


 CFUの総勢は15名。各員が窓に張り付き襲撃を警戒している。


 米軍が総力をあげて開発した霊体可視化装置  Spirit visualization device  通称 SVD を装備し警戒に余念がない。


 作戦開始は 2200 街灯もなく十六夜月の照らす月明りのみであり周囲は木々に囲まれている。


 廃校になって10年が経つ校舎は老朽化しているがまだ倒壊というレベルではない。


 開始から10分が過ぎても動きはなく、周囲の虫の声だけが響く暗闇でもさすがにCFU隊員たちは動じていない。


 当然ドローンや小型レーダーの反応すらなかった。


『ウェズリーだ。奴らがどう動こうが俺たちのシナリオ通りに進めるだけだ。次の――まで残り……』


 ここで通信が途切れた


 隊員たちは通信不良だと認識ししばらく動かなかったが、作戦深度ステージ2へ移行予定の時間になっても反応がないため各員がベースへ集まりつつあった。


 通信が切断されており技術的なトラブルであろうと職員室へ戻った時であった。


 通信担当とウェズリー大佐が川の字になって床で寝ているではないか。


「大佐!? っ!」


 一人、また一人と、意識を刈り取られウェズリー大佐の横に寝かされるCFU隊員が増え続ける。


 異常事態に個別の行動をしようと動き始めたダリス伍長と数名が、子供役のマネキン3体を抱え校舎から飛び出してきた。


「畜生どうなってやがる! あのファッキンオタク共はどんな魔法を使ってるんだ!? 分からねえ!」


「騒ぐな。あの宗像隊長の指揮だぞ、気を抜くな」


 ダリスが皆を鼓舞するが、その言葉を発した瞬間に彼の視界は天地が逆転し何かによって縛り上げられていた。


 やられたのかとダリスが空を見つめた時、演習終了の信号弾が夜空を照らしていた。



 ◇



 演習終了後。


 CFUの司令官らが演習結果にかなり落胆しているのが分かった。


 リアリストである彼らにとって、それは分析が甘く予想すらできないレベルでの差を見せつけられた形となったのだ。


「ミスター宗像、我々は十分に君たちと渡り合えるとの確信があった。だが結果はこうだ、視認することなく一方的な損害……完敗だ」


「いや違うな。それはあんたらの演習目的が対フォースドメインじゃなかったからだ」


「なっ!?」


「あまり日本人なめんなよ。今回の人員配置と衛星ドローンを使った作戦だが、あれは対フォースドメインではなく、対呪術者テロリスト対策だろう」


 青い顔になった司令官は副官からの助言に納得し素直に頭を下げる。


「いや恐れ入ったミスター宗像。CFUの別の顔が対サイキックや対退魔師などの呪術的能力者テロリスト対策なのだ」


「それを否定はしないし、準備するあんたらの覚悟はたいしたものだよ。だが俺たちを協力者ではなく潜在的な準テロリストとして扱ったことに、うちの隊員たちがかなり怒っていてな」


「申し訳ないことをした」


 CFUの隊員の12人が姿隠しの札で潜入した宗像と夏恋によって制圧された。式蜘蛛の呪符と金縛り符の同時使用である。


 外に逃げ出した3名を雪乃が発動した式蜘蛛符で縛り上げたのだ。


 しかも、本来得意とする術はまったく使わずに完敗を喫したことを知らされた司令官は、しばらく頭を抱えて立ち上がることすらできずにいた。


 彼らとしては派手な退魔術との中距離戦闘を想定していたため、影海が主戦力であろうと踏んでいたようなので、あえて彼を外し搦手から落すというなんとも宗像らしいねちっこいやり方だ。


 米軍には伏せていたが、演習であろうと「人相手に退魔法を向けてはいけない」という約束事すら知らなかったようだ。


 後日、霊異庁から呼び出しを受けた宗像は、米軍に恥をかかせたということで防衛省や外務省から厳重注意を受けた。


「何を勘違いしているお前ら?」


「君は国際問題になりかけた事態をどう認識しているんだ!? 自衛隊と米軍の合同演習に影響がでかねんのだぞ!?」


「さっそくアメリカ大使館から事実関係を確認したいとの連絡を受けている! 余計な仕事を増やしてくれましたね」


「まったく、官僚様は何を勘違いしているんだ」


「何故理解できない? まったく拝み屋共め、あんな暴挙を起こすとは」


「お前らが言っているのはアメリカ様のご機嫌を損ねないように適当にやって適当に負けてやれってことか?」


「そ、そんなことは言っていない」


「おい防衛省、アメリカ軍は演習で負けて根に持つような奴らか? 奴らは徹底的なまでにリアリストだぞ?」


「そ、それは……」


「演習の目的はあいつらが自国民を守る手段、能力を高めることにある。俺たちが接待演習で負けて犠牲者が減るなら喜んでそうするがな」


「くっ……!」


 防衛省の役人はまだ話が通じたが、外務省の役人は舌打ちと捨て台詞まで吐いて帰っていった。


 元々相手にする気はなかったが、あれでも適度に手は抜いている。


 もちろんあちらも理解していたが、その手を抜くとは、必要な最低限度の戦力投入という現場運用の指標を用いたに過ぎない。

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