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阿修羅姫 まかり通る  作者: 鈴片ひかり
第三章 漁火の章
16/45

16 漁火

レイカに付き纏うストーカー共に対し、退魔師 宗像はどのような報復を行うのか?

父親としての自覚が出てきた復讐の退魔師と天使のようなレイカの物語を御覧ください。


 覚悟を決めた征士は、レイカに男装を止めてもらい白のワンピース姿で登校した日に作戦を決行した。


 今まで抑えていた衝動が刺激された10人は黙っていることなどできるはずもなく、通行人を装い声をかけようとした時点で式蜘蛛を使い身柄を拘束。


 すぐに借りてきた大型バンへ放り込んでいく。陰陽術を使った姿隠しの術と式蜘蛛を組み合わせればこれぐらいなら造作もないことだ。


 宗像は冷静にしかし、怒りに狂いながらも一人、また一人と拘束していく。


 レイカは同級生に嫌がらせをされたのだろうか、スカートが何かで汚れてしまったのをひどく気にしており公園の水道で必死に洗おうとしていた。

 涙をこらえながら。


 胸が張り裂けそうだ、あの子の思いが流れ込んでくるようだった。くそったれが、レイカは何も悪くない……なぜあの子がいじめに苦しまなければいけないのか。悪いのは奴らだ! その怒りが限界に近づこうとしている。


 残りの変質者共4名を一気に縛り上げ、呻き声と悪臭がたちこめる大型バンに放り込む。


 しばらく他の奴らの影を追ってみたが、今までにマークできた変質者たち全員が網羅されている。



 梛良夫妻にうまく片付きそうだと一報を入れ、宗像はそのまま東京湾のごみ埋め立て地へ向かった。


 伝手で手に入れた通行許可証を使い、埋め立て地の開けた広場に奴らを放り出す。


 ぐげぇ! とカエルがひしゃげたような声を発し奴らはゴミの地面に転がっていく。


「うちの娘に何をしようとしていた、言ってみろ」


 ガマガエルのような太った男が、震えながら小便をもらしている。


 他の9人も同様に恐怖で身動き一つとれていない。


 須弥山で苛酷な修業と退魔戦闘を繰り広げてきた宗像に睨まれれば、カエル以下のゴミクズ共が震えあがるのは当然と言えた。


「一回だけ聞いてやる、誤解で巻き込まれただけって奴がいたら言ってみろ」


 するとすぐに3,4人が誤解だとわめきたてた。


「そこのクソ眼鏡、お前は田中弘幸39歳、隣の駅近くで学習塾の講師をしていると……先月の13日から週に4日もレイカの下校をつけてコンビニに入り

浸っているのを多くの住人が目撃している」


「そ、それが誤解なんだ!」


「レイカの後を400mに渡って付け回していたな、しかも家には児童ポルノが山のように。てめえは黒だ」


「た、助けてくれええええ! な、何もしてないだろうが!」


「この周辺で強姦された中学生と小学校5年生の女の子の記憶にお前の姿がこびりついていたよ、気の毒に……二人ともどれだけ傷つき辛かったこと

だろう。他の連中も全員黒だ、真っ黒なんだよ! 調べはついてんだこの小児性愛者の強姦魔共め! しかもだ、おかしいと思ったらお前らホツレから

力もらってやがったな?」


 ここで大型バンの近くに停車した黒いセダンから、40代後半の黒コートの男と、女子高生のような少女が現れた。


「おいおいこいつは大量じゃないか宗像」


「時間通りだなつるぎ。俺の娘に手ぇ出すからだ」


「この人がマスターの言っていた宗像さん? 話に聞いてるより若くてかっこいいじゃん」


 変質者共は新たな登場人物にただ打ち震えるしかできない。当然であろう、弱い抵抗できない子供や少女たちを襲う真性のクズどもだ。


「君が結女むすびめなんだね」


「はい、だからこんなに獲物を捕まえてくれて感謝してるんですよ。それにレイカちゃんが私みたいな目に遭わなくて本当に良かった」


「ありがとう………」


瑞萌みずも、結びの法の準備が整うまで好きにどうぞ」


「りょ~か~い。私ってさ、お前らみたいな人間のクズ共に、ピアニスト目指してた指を全部切り落されて、凌辱され尽くし顔を焼かれてから四肢を切断さ

れてガソリンで焼かれたの、生きたままね」


「何言ってるんだ、指も手足も無事じゃないか、脅迫だ! ぐべっ!」


 宗像がそいつの顔を思い切り足で蹴りつけると、前歯が吹き飛び口と鼻から血が噴き出した。


「女には反論できるのか、ご立派な脳みそとプライドだな」


「ありがとう宗像さん、でも不思議よねぇ、なんで死んだ人間がここにいるの? ってお前らみたいなホツレやホツレモドキに殺された魂ってのはね、輪廻

の流れに戻れないのよ。恨みを返す相手が理の外にいるからよ」


 ぐっと顔を近づけた瑞萌という女子高生は、狂喜に満ちた表情で恍惚の滲む目の輝きを見せながらこう言ったのだ。


「輪廻の流れに戻れるぐらい恨みを晴らしておかないといけないのよ、だからさぁ公認公然の認められた復讐を今から存分に果たしてあげる! 安心し

て、殺したりはしないけど殺して欲しいと懇願するほどの地獄を見せてあげる!」


 瑞萌が発した言葉に、土蜘蛛の糸で拘束されたていた変質者たちが一斉に泣き叫び始めた。


「釼! 俺がやらせてもらうぞ、娘に手を出そうとした奴等だ容赦はしない」


「そう言うと思ったぜ。10人結びは疲れるからな、後処理を瑞萌に任せることにするよ」


「では行くぞ……すぅ~」


 深く呼吸をした宗像は両手を目の前に突き出し細かな呪言を唱え始めていく。黒く重たい鎖が空間から染み出すように奴らの手足、首胴体へ巻き付

いていく。



「天の理、地の理、天網恢恢疎にして漏らさず、因果応報、因果滅却、結べ因果よ!」



 一回り太い鎖が10人の変質者たちの心臓へと突き刺さっていく。呻きはするが血は出ていない。


因果と応報の環から外れたホツレ共が、ことわりの元へ結ばれた瞬間だった。


「ふぅ、さすがに10人結びはきついな」


「ですが見事に理へ、世界のルールへ奴等を引き戻しました」


「さあて、後は結女 瑞萌さんのお手並みを拝見しようじゃないか」


 因果の鎖に結ばれた変質者たちは、今までの罪が数兆倍になって襲い掛かる。しかも反動を強制的に受けさせるため、下手に死ぬことすらできず人

々に関心をもたれることすらない。


 ひたすら事務的にゴミとして処理されるだけの扱いとなる。病院を受診できたとしても、認識されず死にかけてようやく痛み止めを除いた処置がなされ

るらしい。


 地獄だろう。


 だがこいつらが自らの意志で犯した罪であるならば、当然の報いと言える。


 悪事を行っても気づかれることなく、己の欲望のままに多くの子供たちの未来と才能を奪ってきた奴等に一片の同情すら持ってはけない。


 いや、もちたくても持てなくなってしまうのがホツレの末路なのだ。


 瑞萌が車から取って来たのはゴミ袋で何重にも梱包された小型水槽のように見える。


「まあね、ここならそんな準備必要なかったかなぁって思うんだけど、一応これを呼び水にしようかしら」


「まったく瑞萌は丁寧な仕事をするね」


 釼が紫煙を吹かしながら、見学を決め込んでいる。


 瑞萌は奴等の中央へその水槽を置くと、ぱっと最後のビニールを外す。


 中を見た変質者たちの叫びはすさまじい。内部ではありとあらゆる蟲や毒虫が蠢き、這いずり回り外へ出ようともがいている。


「急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう!」


 瑞萌が手から発した符が空中で青白く燃え尽きると、周囲の地面から泥で出来た人形が姿を現す。


 泥ゴーレムとも言えるだろうか? 


 そいつらの仕事がしやすいよう、手首と手足以外の土蜘蛛の糸を外してやる。すると瑞萌は爽やかな笑みでお礼を返してくれる。


 その笑顔だけみたら、普通のかわいい女子高生としか思えないだろう。


 だが泥ゴーレムたちは奴等の衣服を容赦なくはぎとり始めた。やめろと泣きわめき大小を漏らす者まで現れた。


 瑞萌はその様子を冷徹に見極めようとしている。


 全ての衣服が剥がれ、奴等の醜い肥え太った肉体が露にされた。


「じゃあ行きましょうか、さあ蟲さんたち、あなたたちのような高度で崇高な魂を持つ皆さんにお願いするのは気が引けて手をわずらわせるのも申し訳な

いけど」


 水槽の蓋が開かれ横倒しにされる。


「そこのゴミを差し上げますのでお好きになさってくださいな」


 小さな波だった。


 10人の変質者いや、強姦魔たちへゴキブリが周囲のゴミ山から仲間を引き連れ、ゲジゲジが、ムカデの群れが、名前も分からぬ蟲たちがまるで約束

でもしたかのように綺麗に10個の群れを作って襲い掛かった。


 手足に噛みつき、目鼻口、耳から内部へ侵入を果たそうとし、陰茎や肛門へと襲い掛かり、特に性器はかじられ食いちぎられ奴等の周囲には絶叫と

断末摩の悲鳴と血飛沫が飛び散った。


 因果の理が復元しようとする際の、執念のようなものを感じた瞬間に見えた。


 悪臭がひどかったものの、一陣の海風が全てを洗い流すように吹き飛ばしていく。




「奴等は死ぬのか? まあどうでもいいんだけどよ」


「安心して、殺すつもりはないから、まあ大分恨みポイントは減ったかも? 嘘嘘まだまだよ」


「これでレイカちゃんも安心して学校に通えるな」


「助かったよ二人とも。学校と友達の件がな、少し気がかりだが」


「世の男たちが宗像さんみたいな優しい人ばかりだったら、戦争も犯罪もホツレになる人さえ現れないのにね」


 買いかぶりだよと宗像は苦笑したが、瑞萌の目は少しだけ寂しそうな色が滲んでいた。




 蟲たちの行動は、何者かに操られているかのように緻密で狡猾で残忍だった。


 呼吸困難にならぬ程度に体の中へ入り込み、潤沢な脂肪を食い散らかされていく。


 既に意識を失った者もいるが、強制的に何かの意志であるかのように引き戻されている。


 人の可能性を奪うという行為はこれほどまでに報いを受けるものなのだ、天は見ている、天の網は決して悪事を見逃さぬ。


 釼は紫煙を吹かしながら淡々と話し始めた。


「今回の奴らはそういう気質を持ったクズが、たまたまホツレベクターから感染したと見るべきだろう」


「ホツレベクター!?」


「ああ、感染を広げる存在がいる。ホツレの中でも中級クラスだが自覚がなく悪人のホツレ気質を萌芽させる存在だ。スーパースプレッダーとも言えるかも

しれんな」


「どちらにしてもブラックアイを追うだけだ」


「その件だがな、瑞萌がご機嫌のようなので情報をサービスしておくぞ。インドから中東あたりの邪妖を見かけたらその線を追ってみろ」


「……ブラックアイと関係があるのか?」


「わからん、だが一つずつルートを潰すのも楽しいだろ?」




 別れ際に瑞萌がレイカちゃんによろしくと声をかけてきた。


 結女はいわばホツレが生み出した悲しい生者と死者の間にいる存在。


 血縁のある者たちの中で生まれることなく、現世の波間に消えていった肉体を拾い上げ、一時的に魂が定着できるように施した仮初の器。


 だがそれ故に枷や頚城がなく、ホツレや怪異に対し大きな順応をした存在であった。


 瑞萌は釼と数年もの間行動を共にしており、受けた憎しみが深ければ深いほどその余命は長く歳をとることもない。


 悪臭の残滓が残っていた大型バンに、消臭スプレーをまき散らした後、宗像は帰路へつく。


 様々な怒りがいまだくすぶってはいるが、忌まわしき事件は解決したと見て間違いないだろう。


 静子さんがレイカの好きなお寿司を出前で頼むと言ってくれていた。


 今日だけはいいかな、随分辛い思いをさせてしまい友達が離れていったことに深く傷ついてしまっている。


 なんだろう、いつしか本当の父親みたいな気分になってしまっているのがどうにも……


 見た目はそりゃあ天使のような、いやそれ以上のかわいさだが。


 かなりおバカだし、洋食じゃなくてかなり渋い食べ物が好きだったり。


 切り干し大根を目を輝かせておいしいと貪り食ったりしてるから、かなり変わり者なんだなと思う。


 好き嫌いはしないが、和菓子を好みどら焼きや”すあま”が好物らしい。


 辛い時間が多かった分、幸せな思いをさせてあげよう。


 そう考えながら梛良宅へもう少しで到着という時だった。何かが猛烈な力で抉り取られたような衝撃が宗像に感覚となって飛び込んでくる。


 !? 一瞬呻きそうになるが、この感覚は式が飛ばされて来た!? レイカ!!



 視界がぐらぐらと揺れ、自分の体がやけに曖昧に緩慢な動きになっている感覚に宗像は襲われていた。


 ハンドル操作を誤らずに済んだが、レイカが!? あの時の惨劇のようなことが起こってしまうのか!?


 あの子の天使のような笑顔が胸いっぱいに広がり、あの惨劇のお昼寝ルームがレイカの背後から迫るビジョンが宗像を襲う。


 何故こうも自身の動きが遅いのかと、苛立つほどに宗像の脳内では凄まじい量のアドレナリンが分泌されていた。


 恐らく父親としての自覚が、本能を呼び覚ましたかのように発動していたのかもしれない。


 大通りに大型バンを止めると、そのまま路地へ飛び込みこじんまりとした梛良宅へ駆け込んだ。


 静子さんの悲鳴とガラスの割れる音!? 畜生! 変質者を取り漏らしていたか!


 庭側にあるガラス戸が割られ何者かが入り込んでいた。



 怒りを爆発させながら宗像は叫ぶ。


「レイカアアアアア!」


 飛び込んだ先のリビングにはお寿司が無残にも転がり、ケーキや飲み物が乗っていたテーブルがひっくり返されている。


 なぜとは思わなかった。


 そうだ、目の前には家へ押し入った奴がにたりと不気味な笑顔で微笑んでいたのだから。




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