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阿修羅姫 まかり通る  作者: 鈴片ひかり
第二章 慟哭の日
13/45

13 宿命の遭逢

やっぱりパイルバンカーは浪漫です! 


 約束の5分前には18階封魔局に到着したものの、どう取り次いでもらおうか迷っている宗像は突如背後から豪快に声をかけられた。


「お前が宗像かぁ!」


 少なくとも悪意のある声ではなかった。粗暴さはあるものの、熱のこもった明るい声である。くるりと振り向くと自衛隊のような鍛えあげられた肉体をした50

代前半の角刈り頭がニコニコと白い歯を見せてきた


梛良なぎら 除霊事務所の宗像4等退魔師です」


「4等だぁ? その霊力でか? 判定担当官は全部首にすべきだな、単純な霊力だけでも1等認定していいレベルだと思うがな」


 この人は権威主義ではないタイプなのだろうか?


「恐縮です」


「細かいことはいい。ちとついてこい」


 奥の認証式エレベーターに乗り最上階へのボタンを押し込む猪鹿倉いがくら 副局長。


 梛良所長がリサーチしてくれた内容によれば、元退魔局という花形部署で指揮をとっていた英傑らしい。


 上層部と大喧嘩して任務放棄し、現場から封魔局へ追いやられたという話だが。


「宗像、お前の噂は聞いていたぞ。どこで修業したかも分からない若造が、次々と退魔局でさえ二の足を踏んでいた邪妖共をあっさり片付けているとな」


「その表情ですと、煙たがられて扱いに困っているというところでしょうか?」


「まったくバカどもだ。退魔師は実力こそが全て。そうでなければ犬死して誰を救うこともできん」


 きっと退魔局でのことを思い出しているのだろうか、湧き上がる険しい表情を無理やり押し殺しているように見えた。


 到着したエレベーターから近くの管理室へ案内された宗像。



 中には関係者が待ち構えており、猪鹿倉へ敬礼していた。


 着席を促され、ご丁寧にお茶まで出してくれる待遇。


 昨日の電話対応との違いに事態の深刻さが背中をぞわつかせている。そんな状況を察してか察してないのか、猪鹿倉は決意したかのように語り始めた。


「部外者のお前にこういうことを頼むのは筋違いというかな、もう行き詰って何にすがればいいかすらわからん! という状況なんだ」


 あの猪鹿倉がやけに気弱な態度だ。


 梛良には行くべきだと言われていたが、なんだか嫌な予感がこみ上げてくる。


 あのタイプが気弱になるなど、相当やばい案件としか思えない。その不安を加速させるような態度を猪鹿倉が取り始める。


「宗像が少し前に、座敷童子を救ったって話を耳にしてな、今回の件でお前しかいないって感じたんだよ。俺の直感だ」


 あれは二カ月ほど前、屋敷の地下に迷い込み土地の瘴気しょうき で傷ついていた座敷童子を保護し、安全な場所に連れて行ってやったことがあった。


 気の良い男の子で瘴気祓いを受け元気になった姿に安堵したものだ。


「座敷童子を宥め、しばらく一緒に遊んだっていうお前の資質に頼りたい案件があってな」


 呪いやけがれへの対応ではないようだが、想像もつかない流れになっている。


 実際のところ遊びたくてうずうずしていた座敷童子が気の毒だったので、一緒にサッカーやゲームをして遊んだだけだった。


「実は二週間ほど前に、井の頭公園に謎の隕石らしきモノが落下した」


「!? たしか井の頭公園内の喫茶店がガス爆発を起こしたって、ニュースサイトで見ましたけど」


「そいつはフェイクだ。事実は隕石というより空から落ちてきた6,7歳ごろの小さな女の子を保護したんだ」


 思わず声をあげてしまったが、驚くのも仕方なかろうといった様子で猪鹿倉は話を進めた。


 内容的には霊的現象や妖怪事案というよりも、宇宙人とかその変の匂いがする案件だからだ。


 ちなみにこの時点でいくつか発見されたUMA ( 未確認生物 ) はいたが、宇宙人に関してはまったく進展がない。


「周囲には小規模なクレータが出来ていたがその子は無事だった。通報のあった警察から異常なほどの霊力数値があるということで、封魔局が出張ったのはいいんだが……」


「その問題こそ俺が呼ばれた原因のようですね」


「封魔局の管理する特殊封印室を急いで改造し、その女の子を保護しようとしたんだが、凄まじいまでの力で封印室があっけなくぶち壊されてな、話が

通じないみたいで暴れ回って施設の壁やらならにやらを破壊しちまっている」


「えっと、いつからですか?」


「それが二週間続いている。もう霊異庁本庁舎の屋上隔離施設にこれ以上置いておいたら危険だということになってな、なんていうか子供の扱いがうま

そうな連中が全員ギブアップしたんで、お前さんに白羽の矢が立ったということだ」


 胸の奥にあった傷口がぱっくりと開いて血が噴き出しているのを感じる。


 就学から年長さん程度の年頃だろう。


 通常の発達をしていれば普通に会話はできるし、ある程度の我慢も身についている年頃だ。理由をきちんと伝えることで納得してくれることも多いはず。

 稀に我侭に育ちすぎるケースや発達障害が絡むとこの限りではないが、分析するにも情報が無さすぎる。


 まずは一度会ってみてくれと言われたが、施設を破壊するような相手はもはや一般的な子供と評して良いものなのか。


 不安と恐れと痛みを抱えながら、宗像は単身で辛うじて封印処理の役目を担っている凹んだ金属製扉をこじ開け中へと入っていく。


 実は胸の奥で引っ掛かっている事案が一つだけある。


 宇宙人の類ではなさそうだが、隕石……実際に岩は発見されておらず子供が降って来たようにしか見えなかったという話。

 ということは空、天、からか!?


 その子は部屋の隅に置かれたパイプベッドの上で布団をかぶりながら、じっとこちらを凝視しているようだった。


 部屋は100畳ほどの大きなな部屋だが、あの手この手でてなづけようとしたおもちゃの残骸や、絵本が散らばっている。


 なるほど、一方的にこちらからアプローチしたのか。


 そのとき、自分の心臓が抉られたような痛みが走る。少し引っ込み思案で恥ずかしがり屋の女の子のはにかんだ顔が脳裏に浮かぶ。


 積極的に話しかけると引いていき、気にかけて優しく話しかけても反応がなく大人しく扱いにくいタイプと思われていた子。


 だがある時に、何気なくその子が描いていた絵を見ながら、横で子供たちの好きなキャラクターの絵を練習がてら描いていたら……


 いつの間にか恥ずかしがり屋の美羽ちゃんが、膝の上にちょこんと乗って一緒に絵を描き始めたのだ。


 この子の反応を引き出せたことがうれしくてうれしくて、話を聞いてほしくて都築先輩を食事に誘った記憶が鮮血と共に胸が軋んだ。

 子供相手の仕事において重要スキルの一つが観察だ。


 何に興味があって何に無関心か、だけではなく体格や歩き方、おもちゃの扱い方からだけでも伝わるものは十分にある。


 どうして施設を壊したのかは理解できないが、この破壊行為も布団をかぶり不気味な視線をぶつけてくるこの子の発した表出手段の一つではあるのだ。



感想をいただきました。忌憚のご意見にうれしさが止まらず、モチベが爆上げになりました。

いただいた言葉は一文字一文字が宝物です。

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