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思うてたんと、だいぶ違う

我が家に到着すると、すでに通達がきていたらしく、あっという間に応接室へと通された。


なぜか私とユーリの二人きり。

なぜか私の隣にユーリが座っている。

なぜかいつもの三倍の値段のする茶葉で淹れた紅茶が出されている。


「……」


ユーリは平然と茶を飲み、すでにその様子は何でも屋にいるときと変わりないユルさに戻っていた。


私は混乱する頭で、とにかく事の次第を尋ねる。


「ゆ、勇者って?恩賞と聖剣で魔王はどうして何でも屋なのかしら」


聞きたいことが多すぎる。

ごちゃまぜになった質問に、ユーリは苦笑いでひとつずつ答えてくれた。


「5年前だったか、俺は勤務中にこっちに有無を言わせず召喚された。足元が黒くなって引きずりこまれて、気づいたら城にいた」


そ、それって誘拐なんじゃ……。私は蒼い顔でユーリを見つめる。


「言葉が通じたのは幸いだったが、やれ勇者だの魔王だのあいつらは勝手なことばかり言って。俺はとにかく、さっさとやつらの要求を叶えてやってそれで帰ろうと思っていた」


少し悲しそうにするユーリに、だいたい話の続きは予想がついた。帰れなかったのだと。


私はじわりと涙が滲む。ユーリは長い指で私の涙を拭ってくれた。


「ひどいっ……死ぬ思いで苦労して、魔王を倒したのに帰れなかったなんて」


なんていう悲劇!想像だけで泣けてきたわ!

でもユーリは言いにくそうに、少し間を開けて話し出した。


「あ、魔王はすぐに倒せた。コレで撃って一発だったから苦労してない」


「え?」


ユーリが腰に下げていた黒い塊を右手に持ち、中心にある輪っかのような部分に人差し指をひっかけてみせる。


「俺はえっと、こっちでいう警ら隊みたいな、兵士っていった方がわかるかな。これは俺の世界では銃っていう武器だ。コレで魔王はすぐ倒せた」


へ?魔王ってそんなすぐに倒せるの?私は涙が引っ込んで、目をパチパチさせてしまう。


「こっちの世界は魔法があるからな。魔王も化学兵器や薬物には免疫がなかったってわけだ。アホほど強力な眠り薬を作ってもらって、夜中に魔王城に忍び込んで、寝ているところをヤッた。卑怯といわれようが、命のやり取りはしょせん一度限りの真剣勝負だ。自由にさせてもらう」


「へ、うへぇぇぇ……」


あら、おかしな悲鳴が漏れたわ。


「人数も騎士をぞろぞろ連れて行くなんてありえないから、(こいつ)を整備できる機械師だけを連れて二人で行った。だから恩賞も賞金も二人で半分ずつ。めちゃくちゃ儲かった……!」


勇者様が金の話をしている。これまた予想外!


「金は分割払いにしてもらったから、毎月定期的に収入は入るよ。エマに苦労はさせないだろう。

あぁ、それで、恩賞だと押し付けられそうになった王女との婚姻は拒否したんだ」


えええ!?そんなことが……。


「王女様って確か……第三王子にそっくりなあの王女様よね?」


私の言葉に、ユーリは苦い顔をした。


「あぁ、命懸けでがんばった結果がコレかよって正直思ったさ」


あら、これだけは私の予想が的中ね。てっきり、人間同士の諍いが嫌で勇者様は旅立ったんだと思ってたけれど……。


「それで逃げ出して何でも屋を?」


私の言葉に、ユーリがきょとんとした顔をする。


「逃げてない逃げてない!自由に放浪する時間が欲しいって言って街で暮らしてただけだ。

魔王がすぐ倒せたから、難しいことがやりたくなってね」


えらい言われようだな魔王……。


「人のゴタゴタが一番難しいからな」


「えええ……でもよく陛下が許してくださったわね」


「陛下は、恩賞は保留にすると言ってくれた。もらわなくてもいいかと思ったんだが……五年も経ってから欲しいものができた」


「あ……まさか恩賞で私を!?」


どうしよう!?貴重な恩賞を使わせてしまったわ!

ユーリはにっこり笑って頷いた。あわわわ、そこまでして助けてもらう義理はないのに。


「ユーリ!見返りはカルドーネ家全部で足りるかしら!?あああ、とんでもないことをさせてしまったわ!」


私が狼狽えていると、何がおかしいのか彼はクツクツと笑い出す。


「見返りはエマだけでいい」


「わ、私!?」


「とは言っても、俺が婿入りする形になるんだろうからどうしてもカルドーネ家をもらうような形になってしまう。それはすまなかった」


すまないと言われても……両親ともにあの第三王子を婿にするのは嫌だったろうし、勇者様が婿入りしてくれるなら大歓迎だと思うわ。



はっ!?しまった。私、ユーリに言ってないことが。


「エマ?」


黒い瞳が、私をじっと見つめる。


うわぁ~言うしかないか~。バレるもんね。うん、早いうちに言っちゃおう。

私は自分の頭に手をかけた。


「ユーリ、私、知らなかったから。まさか婚約破棄できるなんて知らなかったから……ごめんなさい!」


私が手を下ろすと、薄紫色の長い髪も一緒にずるっと床に落ちた。


「ええええええ!?エマ!?お前、髪っ……!」


うん、髪の毛が耳元まで短くなっちゃったのよね。貴族令嬢にとって髪は命の次に大切と言われている。それをばっさり切ったのだ。


もちろん、アリスによって切った髪はカツラにされたのだが。


ユーリは床に落ちたカツラを見て、そして私の顔を見てびっくりしている。

そうだろう、髪の短い女なんてどこ探してもいない。


「切っちゃったの」


この国で髪の短い女は罪人しかいない。


嫌われるかしら、と顔が強張った。婚約破棄って言われるかな。私はしゅんと俯いてしまう。


「ごめんなさい。こんな髪で、とても嫁にしてくれなんて言えないわ。ユーリがまともとは思えないけれど、罪人のような頭をしたしょうもない女はあなたには似合わないわ」


「おい、今ちょっと悪口を挟んだのな。そんなに反省してないだろ」


いや、そんなつもりはないんだけれど。しまった、本音が漏れたわ!

私はユーリの視線をそっと躱す。




しばらく黙っていると、ユーリがそっと私の髪に手を伸ばし、優しく毛先をつまんだ。


「あ~あ~。これ、結婚式までに伸びるか?まぁ、ベールとか飾りでごまかせるだろう」


え?


拒絶しないの?


あまりにリアクションが薄くて、私の方が驚いてしまう。


「エマ、俺のいた国には髪の短い女なんてごまんといたぞ。だから髪が短いくらいで幻滅したりしない」


なんですって!?そんな国があるの!?衝撃的なお知らせだわ!


「むしろあまり長くない方が俺は好きだな。肩くらいの長さが好みだ。だから手入れが面倒なら前みたいに伸ばさなくていい」


なんですって!?伸ばさなくていいなんてそんな寛容な言葉が出てくるなんて!

まるで別世界の人……って本当に別世界の人だったんだわ。


感動して涙目になっていると、突然にユーリが悪い顔で私の頬に触れて笑った。


「さぁ、見返りとしてエマをもらったわけだけれど……これからどうしようかな」


はい!?

何ですかこの手は。


「あ、それから。エマは俺のこと20歳くらいだと思ってるだろ。俺、25だから」


「ええええ!?全然見えない!」


目が飛び出すくらいに驚愕していると、その一瞬の隙に軽いキスをされてしまう。


「んなっ!?」


呆然とする私を見て、ユーリは楽しそうに笑った。


「命懸けでがんばった結果の恩賞だからな。存分にかわいがることにするよ」


「は、はぁ……?」


よくわからないけれど、ユーリはそこそこ私のことを気に入ってくれてるのかしら?




しょうもない女になろうとしたら、勇者の嫁になりました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エマは見た目に似合わず突拍子もない性格で、ユーリはそんなエマに振り回されながらもなんだかんだ世話を焼いている感じが面白かったです! 続編でも番外編でもいいので、2人のその後の話や2人の出会…
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