第四幕 第四場
黄瀬エミと公園で別れたあと家路につき、いまおれは自分が住んでいるマンションにやってきたところだ。するとマンション前に、またしても見覚えのある車が停まっていた。あの車の持ち主は青木ソウスケだ。
おれがその車に歩み寄ると、運転席の窓ガラスがさがる。そこにいたのは、やはり青木だった。
「何をしている?」おれは言った。
「このあいだのつづきだよ」青木は落ち着いた態度で眼鏡をくいっと持ちあげる。「また話がしたいんだ」
「……ああ、わかったよ」
おれは車のドアを開いて、助手席に乗り込もうとした。だが何やら気配を感じて振り返る。だがそこにはだれもいない。おれは気のせいだと思い、車に乗り込んだ。
「このまえは悪かったな」おれはあやまる。「話の途中で帰ったりして。いろいろありすぎて混乱していたんだ」
「いいんだ気にするなよ。おれのほうこそ悪かったよ。記憶障害を負ったおまえに気遣いもせずに、いろいろと話こんでしまった。そのせいでおまえが混乱するのも無理ないよ」
「でもそのおかげで、わかったこともある。白石のこととか、あいつの夢についてとかな」おれはそこでひと呼吸間を置く。「あれから考えたんだ、もしほんとうにあの宝石が本物で、白石の夢を叶えられるのなら、それを見つけてそうしたいと思っている。でもおまえがトラブルをおそれて、警察に——」
「そうしなよ黒川」青木がおれのことばをさえぎる。「おまえがそうしたいと思っているなら、そうするべきだよ。白石のためにも、その夢を叶えてあげなよ」
そのことばに、おれは不信感を覚えてしまう。前回とは明らかに態度がちがう。いったいどういうことだ?
「……どうしたんだ青木」おれはつとめて冷静さを装う。「このあいだとは、言っていることがちがうじゃないか」
「あー、このあいだのことか」青木は笑った。「あのときはぶざまな醜態をさらしてしまったな。あれは忘れてくれよ。あれからぼくも考え直したんだよ。あの金と宝石の持ち主なんてもういないさ。だから白石の推理どおり、あそこに車ごと不法投棄されていたんだ。だからあの金と宝石をどう使おうが、だれの迷惑にもならないさ。そうだろ黒川?」
「ほんとうにそう思っているのか?」
「もちろんだよ」青木はうなずいた。「もしもあの金が銀行強盗か何かの盗品だったとしたら、その番号を警察は控えているはずだ。だがあれから何度もお金を使ったが、警察が動いている様子はない。だからあのお金は白石の推理どおりに、いち個人が隠しておいた、へそくりだと見るべきだよ。だからその宝石もおまえが好きにすればいい」
「……そうだな」
「けどまあ、あの宝石が本物であるとはかぎらないし、案外偽物なのかもしれないぜ」
「たしかにその可能性はあるのかもな」
「だとしても、それでもいいんじゃないか。完成できないよりも、たとえ偽物であったとしても、一応形になるほうがましだろ」青木はそこで声の調子を落とす。「それで黒川、おまえたちはどこにあの宝石を、ルビーを隠したんだ?」
探りを入れられているな、とおれは感じた。それもあからさまに。そのためおれは警戒心が高まる。
「……それが残念だけど思い出せないんだ」おれはさもくやしそうに言う。「もしかしたら、おれは知らないのかもしれない。白石のやつ、相当警戒していたし、おれにも教えていない可能性だってある。だからこの先、あの宝石が見つかるかどうかはわからない」
「そうか、それは残念だ」青木はため息をついた。「けどおまえがこれからも探すというのなら、ぼくは協力するよ。もちろん犯人であるキャットマン探しにもね」
「ずいぶんと協力的だな青木。あんなに無理せず、警察にまかせろと言っていたのに」
「だってぼくたちは仲間を殺されたんだぞ」青木はけわしい顔つきになる。「あのちんけな通り魔強盗犯に」
「ちんけな通り魔強盗犯?」おれは眉をひそめる。「それはどういう意味だよ青木」
「だってそうだろ。これまでやつは愉快犯的な通り魔強盗をして、金品を奪っていた。そのやり方は幼稚で被害者を傷つけたとしても、軽少ですんだ。おそらくは本気で人を襲って殺す気のない、臆病な小心者のはず。だからおまえたちのときは、まちがって白石を殺してしまい、びびってるんだ。その後、犯行をいっさいおこなわなくなったのがその証拠だよ。いまごろどこかに隠れておびえているに、ちがいない。だから見つけてやろうぜ」
まちがって殺した? それはありえない、とおれは思った。あのときのあいつの行動は、明らかに殺意に満ちていた。
「だから黒川。ぼくはおまえに協力するよ」
おれは青木のそのことばに対して、不信感を募らせた。




