第三幕 第十四場
アリスに自分が住むマンションへと送ってもらい、それから部屋へとはいったとき、タイミングよくスマートフォンが着信音を発した。手にとって画面を見ると、知らない番号が表示されている。
「だれだこの番号?」
おれは不審に思いながらも、電話に出ることにした。
「もしもし黒川か」それは男の声だ。「おれだ金森ヒデノリだ」
「金森先輩」おれは言った。「よく知ってましたね、おれの番号」
「ああ、エミから聞いた」
「黄瀬からですか。それでわざわざどうしたんですか?」
「あいつとはどういう関係だ、おまえ?」
おれは疑問符を浮かべる。「あいつってだれのことですか?」
「灰田アカリのことだ」
「灰田アカリ?」おれは首をかしげる。「だれですかそれ?」
「とぼけるな、キャンプ場でいっしょだったろ」金森の語気が鋭くなる。「おまえたちふたり。どういう関係なんだ」
「……ああ、なるほど」アリスのことか、とおれは察する。「どういう関係と言われても、それを説明するのは、ちょっとややっこしいので……なんと言えばいいのかな」
「いいかよく聞け黒川。灰田とは深くかかわるな。あいつは人殺しだぞ」
「人殺し?」それを聞いて、おれは苦笑する声を漏らす。「さすがにそれは冗談でしょう?」
「冗談なもんか!」金森が怒鳴り声をあげる。「おれにはタクヤという名前の弟がいたが、あの女に殺されたんだよ」
タクヤという名前に聞き覚えがある。アリスの寝言だ。「信じられません。もしそれがほんとうなら彼女はいまごろ刑務所に——」
「自殺に追い込まれたんだよ!」金森は興奮した口調だ。「直接は手をくだしていない。だがなあの女のせいで弟は首を吊って死んだ。これは事実だ。だからやつとはかかわるな黒川」
おれは困惑する。「どうして……彼女がそんなことを?」
「それはおれが知りたいよ。あいつは弟とつき合っていたかと思えば、こっぴどく振って傷つけたんだ。それも自殺するぐらいに弟を追いつめて、殺したんだよ。だからおまえも気をつけるんだ。灰田アカリとは、これ以上かかわり合いになるな」
そう言って電話が切られた。けれど会話の内容が頭を離れない。
「……アリス」おれはつぶやいた。「きみは何をしたんだ?」
おれはしばしのあいだ、呆然と立ち尽くしていた。