第一幕 第十二場
自分が住んでいるマンションに帰ったおれは、ソファーに腰掛けると、ビデオカメラを手にする。そして液晶ディスプレ画面を開いて、動画ファイルを再生する。
白石ヒカリとの思い出を、動画で次々と振り返りながら、おれは悲しみを募らせる。それと同時に、悲しいのは自分だけじゃないということも思い返した。
「つらいのはおれだけじゃない……」
ここ数日立て続けに、大学時代のサークル仲間と出会ったことで、そのことを知った。それはみんなにとって当然の感情だ。だがしかし、事件の当事者であるおれは、自分が白石を救えなかった負い目でそのことに気づけなかった。考えもすらなかった。
「それはそうだよな。サークル仲間が殺されたんだ。みんなだってつらいに決まっている」
ならばどうすればいいのか?
……その答えはわかっている。おれは連続通り魔強盗であるやつの、キャットマンの顔を思い出し、犯人を捕まえることだ。そうしないかぎり、白石は浮かばれない。
おれはビデオカメラを止めると、両手で頭を抱える。
「頼むよおれ」おれは自分自身に問いかける。「頼むから思い出してくれ。お願いだから。そうしないと白石のかたきがとれない」
だが脳裏には何も思い浮かんでこない。
「しっかりしろよ!」おれは頭を抱えながら立ちあがる。「おれが思い出さなきゃ、だれが思い出すんだよ」
おれは部屋の壁に向かうと、そこへ手をつく。そして壁をめがけて頭を打ち付けた。
「思い出せ!」
だがやはり、何も頭には思い浮かばない。
「思い出せよ、思い出せ、思い出せ、思い出せ!」
そう叫びながら激しく何度も頭をぶつけるも、なんの効果もない。ただ額に鈍い痛みが蓄積されるだけだ。やがてそこから、血が流れ出し、それが目にはいり、おれは頭をぶつけるのをやめる。
手で血をぬぐうと、手のひらに視線を落とした。そこには黒い血がべったりとついている。白石ヒカリという存在を失ったこの世界では、色は失われてしまった。光がなければ色は知覚できない、と言った白石のことばが皮肉に思えてしまう。
「ちくしょう、ちくしょう……」
おれはくやしさのあまり、涙をこぼしはじめる。