【第二章】第十八話
「こんなバケモノはどこにもいないじゃん。そんなことより、さすがに逃げないとヤバいかもじゃん。」
『パオ~ン!』
実際の動物園ではあまり聞かれないゾウの声。耳鼻逆ゾウは、細長い両耳を左右に揺らしながら地響きを立てて疾走している。
思いのほか早い走りで、耳で森の中のエサを取りながら走るという器用さを見せている。耳鼻逆ゾウの牙の根元が、血が滲むように赤くなっている。
耳鼻逆ゾウに追いかけられる花子と木憂華。逃げながら、隣の木憂華に話しかける花子。
「あれはいったい何?ゾウみたいだけど、ちょっと違うし、何の動物なんだよ?」
「あれは生来のゾウではないじゃん。あとからメタモルフォーゼした可能性が強いじゃん。」
「メタモルフォーゼ?変質したってこと?」
「そうじゃん。進化してああなったにしては、あまりに不便なパーツになってる。前に耳があるのは、前方の探索五感の目と機能がダブるからじゃん。鼻が横にあるのは、体内の空調機である口の代替機関という位置付けを放棄することになり、生命維持に不都合となる。ゆえに、進化で得られた機能を後天的に変化させたと推察されるじゃん。」
「きゅうりさん、体はちっちゃいのに、スゴいねえ!」
「ちっちゃいは余計じゃん!ゾウは、おそらく歯周病ウイルスに冒されているじゃん。」
「動物も虫歯になるんだ?てか、歯周病ウイルスって、動物にも感染するんだ。」
「そういうことじゃん。あの赤くなった牙が証拠じゃん。」
「あれれ!」
走りながらバランスを崩す花子。
耳鼻逆ゾウが広い鼻を煽って、風を送ってきたのである。
「うっ!きゃああ!」
足を取られて、倒れた花子。耳鼻逆ゾウは走るのを止めて目を光らせた。右前足を大きく上げた。明らかに花子を踏み潰そうとしている。足の裏が見えた。花子の顔が闇のように暗くなった。
「うわあああ!」
『ズド~ン!』
『シュウウウ~。』
砂埃で花子の姿と耳鼻逆ゾウの足元が見えなくなった。
弱い風が吹いて砂塵が消えた。
耳鼻逆ゾウの足が花子の頭に触れる寸前で止まっていた。




