第12話 幻影
なんかめちゃくちゃ(?)になった気がします……。
この話で展開が少しずつ変わっていきます!
「む~か~つ~く~!!」
突如街中に響いた凛とした大きな声は街人を振り返らせるのには効果的だった。艶っぽい女性はクスクスと軽やかに笑い、また白髪の腰の曲がったお爺さんは「元気だね~。」と微笑ましく見ていた。
「み……未依ちゃん……。落ち着いて……ね?」
そんな視線に頬を赤くし、小さな声でつんつんと着物の裾を引っ張る梦羽。彼女の行動に「だって……。」とぼやく。
「お兄ちゃんが僕を馬鹿にしてきたんだ。このくらいはいいと思うんだけどっ!」
言い終わる頃には梦羽とはまた違った意味合いでペンキで塗ったほどの、真っ赤な色の顔をしていた。綺麗に結われた髪は兄から離れて歩いていたときに人にぶつかったり、追いかけてくる兄から逃げるため走ったりしてほどけていた。
カラン……と普段履き慣れていない下駄が音を出す。冷やかしや好奇の目で見ていた者は何時からか見とれているような視線に変わる。
「……何か見られてる?」
「っぽいですね。そもそもそうなったのは未依ちゃんのせいですからね!」
髪が崩れたとはいえ美しい顔立ちの未依。もしも近くを鼻筋が通って凛々しい瞳を持つ美しい少女が通ればどうなるだろう。しかもナイスボディだったら尚更視線を奪われることは間違いないと梦羽は思った。
「ううん、梦羽のせいじゃないかな?」
梦羽の髪も未依と同じ理由でほどけていた。普段は年齢より幼い印象を持つ彼女だが、今の姿は別人のようだ。
普段縛られている髪は下ろされ化粧をしているからだろうか、未依からしてみれば大人っぽく感じられた。
「そうですか?……そう言って貰えるとうれしいです♪」
ニコッと花が咲き綻んだように笑う梦羽。
____違う。やっぱり可愛いだった。
先程までの自身の考えを改めて隣にいる彼女を抱き締めた。
「ふぇっ!?どうしたのですか、まさか具合が!?」
「ううん、大丈夫。」
「ほら。」と白い歯を出して笑う未依にホッとし、梦羽は頬を緩ませた。
「さてと、回ろっか!」
満足したらしい未依はきょとんとする梦羽にそう声をかける。
「え、いいですけど……。」
いいよどみ、気まずそうに視線を逸らす。
「どうしたのさ。」
「ゆ……瑜磨くんと「やだ。」え?」
仲直りしてほしい、と言う前にキッパリ遮られてしまうと梦羽は瞬きをする。
____なんで言いたいことがわかったんだろう。……って即答してるよぅ……。
「……どうしてそんなこと言うの?」
いつもはハキハキとして惹き付けるような柔らかい声はどこかへ行ってしまい、今は低く震えているように感じられる。
「だって、あんな酷いことを言われたんだ!」
いつもとは違う声に内心驚きながらも兄に対する怒りをぶつける彼女をじっと見つめる。
「いつも酷いよ、お兄ちゃんは。何をしても『駄目だ。』、何かをしようとすれば『俺がやる』?僕はもう子供じゃないッ!!」
声をあらげ、梦羽の肩を強く掴む。
女子とは思えないほど強く掴まれ、梦羽は顔をしかめる。それに気づかない未依はますます力を加え、思い出したくない事を思い出してしまう。
「何でッ!何で僕は守られてばっかなんだ!!“あの時”も、僕はお兄ちゃんに守られて!お兄ちゃんの髪が黒くなっちゃったのだって、人を殺させちゃったのだって、全部僕がっ!!」
「!もしかして、『悲劇』の……。」
未依は覚えていないはずの『悲劇』をもいい放つと涙を浮かべ、苦しそうに眉を潜め、梦羽に自分が犯した過ちを未依自身へ刻むように泣き出した。
「……。」
梦羽は未依の言葉を聞くしか出来なかった。今彼女に何か言えばもっと自分を責めてしまうと感じたからだ。
__それに、そうなってしまったのは私のせいでもあるのだから。
ずっと言い続けた未依はやがて疲れたようで気を失う。閉じられた瞳から涙が頬や顎を伝い、着物へ染みを作った。悲しみによって出来た染みは着物の色を濃くさせた。
「あぁ……。せっかくの美しい着物姿なのに、勿体ないですよ?でも、私は貴女のその想いが羨ましいです。」
未依の肩を抱いて、上を見上げる。
清々しいほど青く澄みきった空は彼女の瞳のようだと梦羽は思った。
「……本当にそうなのかしら?」
不意に背後から聞こえる冷たい声。気づけば回りには人がいなく、青い空は真っ黒な空へと変わっていた。
「……。どうして、そんなことを言うの……?」
梦羽は掠れるような声で背後にいる女に声をかける。女はクスリと笑う。
「それは貴女が一番わかってるんじゃないの?『魔女』さん。」
「っ!」
ヒヤリと頬に氷のような冷たい感覚が背中を撫でられればその場にしゃがみこみ、未依を守るように抱きしめる。その姿に女は小さく笑い出す。
「そんなこと、貴女には資格がないのにね。」
ペンダントを握って後ろへ振り向くとそこに女はいなく、変わりにあるのは透明な氷のみ。冷気を放ち、氷に触れている地面が凍り付く。
「……!」
「せっかくワタシが来てあげたのだから、貴女の“……”をくれないかしら?」
何処からか聞こえてくる女の声。
「いや!」
__それをあげてしまったら私は……。それに、完全に……になってしまう。
ぎゅっ……と今だ目が覚めていない未依をより抱き締め、目を瞑る。
「そんなこと言わないで?『悲劇』が起きたのは貴女のせい。そんな貴女が罪滅ぼしできるのはこれくらいしかないのだから。それに……。」
「この子とお兄さんは貴女のせいで……。この体になってしまったのよ?」
女はクスクスと笑う。その笑い声はゆっくりと梦羽の心の中にある幼き頃体験した恐怖という名の思い出を浮かび上がらせる。
「い…や……。」
ガタガタと小さな肩が震え、その上に冷たい手のひらが置かれた。
「ほら、早く。」
梦羽は恐怖に呑み込まれていく中で安心できる低い声が聞こえた。
「あーぁ……邪魔が来ちゃった。またね、梦羽。」
「い、は…ゆ……!」
「未依、梦羽!」
「!!」
体を揺さぶられ、ハッと顔をあげる。視界に入ったのは心配そうに揺れれ、こちらを見つめる紅の瞳。
「ゆ…ま……くん?」
「ああ。……よかった、2人して道端で座り込んでいたから何事かと。」
困ったように笑う瑜磨の後ろには何事かと群がる人々と青い空。真っ黒な空ではなかった。
「あれ……?瑜磨くん……、女の人を見ませんでしたか?」
「女?どんな奴だ?」
「えっと…、む……。」
紫の髪の……、と言いそうになり、口を閉ざす。もしかしたら夢かも知れないし、自分が思い込みすぎたことによる幻想かもしれないと思う梦羽。何より自分の個人的なもので、瑜磨や未依をこれ以上巻き込みたくない。
「いえ、何でもありません!」
眉を潜め、眉間にシワを寄せつつも「そうか。なんかあれば相談しろよな?」と未依を抱き上げた。
瑜磨は未依を落ちないようにするとしゃがんだままの梦羽に声をかける。その言葉は小さい頃と同じ、優しさが含まれていて自然と心が跳ねた。
「はい!」
梦羽は立ち上がり、埃を払うと瑜磨の隣へ行った。
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「いつまでも……そうじゃないのにね?早く帰っておいで、あの森へ。」
女は小さな笑みを浮かべ、消えたのだった。
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