第11話 兄と妹
妹に腕を掴まれ、とりあえず街中をブラブラして情報を集めていくことにした瑜磨。勿論、宣伝とやらもするが彼にとっては宣伝は二の次。『悲劇』が何より忌ますべき第一優先なのだ。
「ねぇ、あれ!すっごく可愛いよ!」
「わ~!本当に可愛らしいですね。未依ちゃんに似合いそうですよ?」
「いやいや、僕なんかより梦羽のほうが。」
そんな女の子らしい会話が聞こえ、口広角を上に上げ小さく笑みを浮かべる。
なんと女の子らしいのだろうか、可愛らしい物を見つけると嬉しそうに話す未依にこれまた軽やかに笑う梦羽。その二人からは和やかな空気が溢れていて微笑ましく感じる。
……そんな二人に目を奪われたと言っても過言でない奴はたくさんいて。
「おい、見ろよあの二人。別嬪だな。」
「俺、黒の着物着てる子が好きだな。」
「俺は白の方だ。」
と、明らかに汚らわしい事を考えてニヤニヤする輩がいた。
その輩は2人の肩を叩き、先程まで盛り上がっていた小物を取り上げた。
「これ、ほしいの?俺らともっと楽しいところ行けばこんなのよりいいのたくさ~んあげちゃうよ?」
……明らかに汚らわしいことを考えていると瑜磨は感じた。気配を一旦消して彼の腕を掴んでいた妹の手を離させ、手を繋ぐ。
繋がれた彼女は兄が何をする気なのかを何となく察し、隣の少女の手を掴む。梦羽は何故そんなことをするのかわからず首をかしげていた。
しかしその動作も次の一言で理解した。
「それはいいね。けど残念だけど僕はお兄さん達よりかっこいい人に着いていかないとなんだ。だからごめんね?」
クスリと笑い、未依は梦羽の腕を引っ張る。
「だからサヨナラ、お兄さん。」
声をかけた男達は未依の肩を掴み、「そんな奴、居ないじゃないか。」と呟く。
その男達の肩を後ろから叩く1つの影に誘われるように後ろを振り向けばあまりにも美しい彼にぽっかりと口を広げた。
「そう、彼女達は俺の連れです。これから大事な用があるんで。手ェ、出さないでくれますか?」
ニッコリと太陽のように笑う彼に周りにいた女子供はうっとりとした声を上げた。しかし、彼女達は知らない。笑うからこそ恐いと感じている男達のことを。
「な、なんだとぉ!?別にいいじゃねぇか!!借りるくらいはっ!」
笑みだけで腰を抜かしてしまっている男達の中で声が裏返りながらも噛みつく輩が1人。瑜磨は冷や汗をかきながら膝小僧が笑っている彼に哀れみの視線を向けた。
「なら、貴方はそのみずほらしい格好で彼女達と歩くんですか?美しくて可愛らしい2人と、この街を?貴方の服が目立ってしまいますね。」
クスクスと笑い声がそこら中に溢れていく。しかし誰1人声を上げて笑おうとする者はおらず、男は顔を赤くする。
「お、覚えておきやがれっ!!」
負け犬がなんとやら。よく言う台詞を吐き捨てて、仲間と共に何処かへと歩き出す。そんな彼らを見て何か思い出したように話す瑜磨。
「そうそう。今着ているこの着物はこの先にある“時雨刻”という服屋に売ってるから。どうせならそこでかっこよくなっておいで。」
一斉に抑えていた声を出して笑い出す周りにいた野次馬たち。いてもたっても居られなくなった男達は走っていった。
しばらくして“時雨刻”にいた姿を見かけられる男達だった。
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「大丈夫か?」
男達が去ったことを確認した瑜磨は2人に声をかける。
「うん、大丈夫。お兄ちゃん今の台詞よかったよ?なんかイケメンだったから惚れちゃうくらい。」
「……と言ってるくせに笑ってねぇか、お前。」
未依は口元を右手で覆い、笑っていることを隠しているが、肩が小刻みに揺れていてバレバレだ。
「だって、お兄ちゃんがあんなことを言うなんて……。ブハッ!思い出しただけでまた笑える……!!あ~、お腹痛い……!!」
遂には大きな声を出し、腹を抱えて笑う未依。それに呆れながら隣にいた彼女へ視線を向ける。
「あ、ありがとうございます。」
此方は涙が出るほど笑っている妹とは違って頭を下げる。
「いや、大丈夫だ。それより怪我とかはしてないか?」
「僕には聞いてくれないんだ~。」
笑い過ぎてなのか前屈みの未依には「その様子なら大丈夫だ。」と言い放ち、苦笑いをする。
「宣伝……、出来たのでしょうか。大丈夫ですかね?」
うーん……と小さく唸る梦羽の頭の上に手を起き、クシャリと撫であげる。ハッとして顔を上げた彼女と視線が合う。
「大丈夫だろうさ。あの騒ぎのお陰できっとたくさんの客が行ってるだろうよ。」
瑜磨の言葉に顔を明るくし、今にも跳び跳ねそうになる彼女を頭に乗せた手で押さえる。自分より大きな手を退かそうと懸命に手を動かす梦羽は不満の声を出す。
「髪の毛、せっかく綺麗に纏めて貰ったのにぐしゃぐしゃになってしまいます……。しかも、身長縮んでしまいますっ!!」
恨めしそうに此方を見上げてくる彼女に何処かで見たことのある小さな子供が重なる。
驚きはしなかったが、ボーッとしていたらしく力を抜いていた。そうしたら、気づいたときには瑜磨の手は紫の髪の上ではなく、小さな柔らかい女の子の手に包まれていた。
「もう、これで瑜磨くんのせいで身長止まったらどうしてくれるんですかっ!」
頬を膨らませていく彼女に先程まで重なって見えていた女の子の顔はなく、気のせいだったかと瑜磨はひとりでに納得した。
「梦羽、こんなお兄ちゃん置いといて一緒に回ろ?」
笑い終わったらしい未依が梦羽の小さな体を包み込むように後ろから抱きつく。驚いた素振りを見せずに抱きつかれた少女は首から上だけを後ろへ向けた。
「はい、そうしましょうか♪」
未依は梦羽から放れ、手を繋ぐ。そのまま人混みへと向かう2人を止める瑜磨。
「お前ら……。ここに何をしに来たか覚えているか?」
「「うん。/はい。」」
「なら、言ってみろ?」
問いかけに躊躇うことなく頷く2人へ、それに対する詳しい答えの説明を求めた。するとどうだろうか、1人の少女が狼狽え始めたではないか。
「えっ……と、確か……宣伝?」
溜め息しか出てこない回答に呆れを通り越して凄いと思ってしまう自分は変だろうか。いや、これが当たり前の反応だ、と瑜磨は思った。
「それもあるが、俺達に最も大事なのは『悲劇』についての情報収集だ。」
「あ……。」
____明らかに忘れてたな……。
未依の反応に旅を始めて何度目かわからない溜め息をつく。彼女にとって『悲劇』はあまり自分に関係無いと考えているらしい。関係あると考えているのなら覚えているはずだからだ。
瑜磨にとって『悲劇』は彼のささやかだが幸せな生活を、妹の“記憶”を奪った憎むべきもの。忘れたくても忘れられないのは最早病気といっても可笑しくはない。
「……はぁ。未依が羨ましいな。」
ボソリと呟くとそれを聞いていた未依は自分に対する嫌味と取ってしまい、人混みへと歩き出した。
「お、おい!」
止めにかかる瑜磨に「どーせ私はお兄ちゃんより楽天的思考ですよ~だっ!」
ベッと舌を出して未依は梦羽を連れて行ってしまう。梦羽はオロオロと兄妹を交互に見るが妹に腕を引っ張られ、連れていかれた。
「……何故急に怒った?」
訳がわからなくなって戸惑う思考を深呼吸で一旦落ち着かせ、2人の後を追いかけた。




