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EVOLVERSE FANTASY  作者: 交差化 道也
対章1
22/22

お待たせしました、対一章終了です。今回は難産でした……

 どうやって帰って来たのか、よく覚えていない。気が付けば俺はもう《鋼岩ハガネイワの門》をくぐり、《ハトルグリームス》の商業街に帰って来ていた。まだ夕焼けを鑑賞するには少し早い、そのくらいの刻限だ。

 ロキとの《接続》は、いつの間にか切れていた。心の中で、本当にありがとう、と感謝を述べてから、俺は死亡カウントをリセットするため鋼岩の門近くの《記憶石》から一度久々のログアウトをし、《向こう》で興奮と混乱の収まらない8時間を過ごしてから再ログインした。普段なら広場や大通りで旨そうな匂いを漂わせる屋台やメシ屋にふらふらと引き寄せられてしまうのだが、今日はあまりにも予想外なことが起こりすぎていて、何よりもまずねぐらに帰りたいという思いが優先されていた。


 ドタドタと腐り落ちそうな階段を登り、乱暴にバターン! とドアを開けると、そこには座ってコーヒーをすするハラルドの姿があった。俺の顔を認めて、口を開く。

「おお、お帰りソーウィル。随分と早かったじゃないか」

 とりあえずどう切り出せばいいのか分からなかった俺は、いつも通りに答える。

「早く帰ってこいって、ハラルドが言ったんだろ?」

「うんうん、ファーストコンタクトから五00時間記念プレゼントってね。でも結局プレゼントは、残念なことにチャラになっちゃったじゃないか」

「ハラルドの気まぐれでチャラになったんだよ!」

「ああ、そうだっけ? 覚えてないよ」

「お~ま~え~は~~~~!」

 全くいつもの、人を喰った調子のハラルドにそろそろ本気で殴りかかろうとしていた俺は、数瞬迷った後、拳を下げた。

「ソーウィル?」

 なんと切り出せばいいのだろう? そもそも信じてもらえるかだって分からないのに。

 俺は自分の中で言葉がまとまっていくのを待った。ハラルドも何かを察してくれたようで、それ以上は何も言わずにうなずくと、またコーヒーのマグに口をつけた。

「…………今日、ハラルドに話した予定通り、フィオスに、ランドハウンドを狩りに行ったんだ。その午後、昼飯終わって、またスポットに戻ろうとしたら……ハラルドと初めて出会った《あの日》に、俺を殺そうとしていた奴が現れて……」

 ハラルドは眉をピクリと持ち上げるとマグを簡素な机に置いた。

「《メモリー・ルーター》のカノ、って名乗ったあいつは、また俺を殺そうとして……いや、実際2回殺された」

「メモリー・ルーター? 彼女はそう言ったのかい?」

「うん、間違いなく」

 ハラルドの表情が険しいものに変わった。両手を組んで肘を膝に乗せ、何事か呟く。いつものハラルドらしくない不明瞭な喋り方で発せられた言葉は、『……シン、やはり君は…………』と言っているように聞こえた。

 明らかに俺に向けた言葉ではなかったが故に、俺はそれに反応を返さずに続けた。

「それで、そのカノって奴はとても俺なんかじゃ歯が立たない強さで。……ははは、改めてあのときあいつを追い払ったハラルドを尊敬するよ」

「それで? 確かに、あのときの彼女なら君くらい簡単に殺すだろう。でも、死んだら君はこのハトルグリームスの《記憶石》に飛ばされるはずだ。リライブをかけようにも、見た目彼女は純粋な剣士じゃないか」

「アイテムだったんだ。リライブ・ランプって名前で……」

 それを聞いたハラルドの顔がさらに険しくなる。ハラルドらしくなく拳をきつく握る。奴の唇が、また『シン』と動くのが見えた。しかしその表情もすぐに元に戻り、続きを促す。

「なるほど、君は為す術無くなぶり殺されたはずだ。でも、君がこうして帰って来たということは、君がカノを撃退するか、または逃亡に成功したってことだ。前者は論外として、後者だってそうとうな奇跡だろう? 一体何があったんだい?」

 まだ溢れそうな思考が上手くまとまらないまま、俺は単語を絞り出すように答えた。

「エヴォルヴァースに初めて来る、前にさ……ハラルドは、なんか、変な夢を見た、記憶があるか?」

 ハラルドは即答した。

「うん。誰もいない場所で一人でさまよって、見つけた扉の向こうで……パートナーを名乗るヒトに、審査をされたね。君もだろう?」

 俺は何となくレベル1当時のハラルドを想像した。普段なら大笑いしていただろうが、とてもそんな気分になれずにまた言葉をヒネり出す作業に入る。

「俺の場合、パートナーは、《ロキ》って名前だった。そいつと対面したのは、その時きりだったんだけど……カノと戦ったとき、あいつの声が聞こえて……そこからは敵の、攻撃予測イメージが見えたり、こっちのパラメータが上がったり、投擲武器に凄い追加効果が発生したりして……なんとか逃げてきたんだ」

 ハラルドは驚いているような、同時に予想済みであるかのような不思議な顔をした。また一口コーヒーを飲もうとして、飲み干してしまっていたことに気付き、残念そうにマグを置く。一応こんがらがることなく説明を終えた俺は、急き込んで訊ねた。

「なあハラルド、なんなんだよあいつは?」

「それはロキのことかい? それともカノのことかい?」

「どっちも知りたいけど、まずはロキ」

「ふむ…………なんと言ったらいいかなあ……」



 両手を組み、語り出す。



「――あれはね、言わば《記憶》だよ」

「記憶?」

「面倒臭い話になるけど……物理学の、《インフレーション理論》って聞いたことあるかい?」

「土日も家に籠もってるしかなかった俺の、本で得た知識をナメるなよ。といっても知ったかに近い上っ面の知識だけど……

 早い話が、真なる空、と書く真空の中にも実はエネルギーがあって、宇宙の卵の要素みたいなモンの《古い真空》が新しい真空へと相転移するときのエネルギーで、ビッグバンなんかメじゃないくらいに爆発的に膨張、その後ようやく準備が整ってビッグバンが起きたっていう理論だろ。

 その理論じゃ、最初の段階で相転移が遅れて残った古い真空から、どんどん子宇宙、孫宇宙が生まれたって話だったか。宇宙が無限にあるってことだろ?」

「すごいねソーウィル。その通り、宇宙は無限に存在し、今も増え続けている、と考えられている。とりあえず、《無数の世界が存在する》ってことを頭に置いて話を進めさせてもらうよ」

 話がどう転んでいくのかさっぱり見当も付かないが、ここは流れを止めずにうなずく。

「ああ、エヴォルヴァースもあることだしな。世界の一つや二つ」

「君の中に眠っていたロキや、その他のこの世界のプレイヤーに宿る《パートナー》…………彼らは、僕らの宇宙よりもずっと昔に生まれた宇宙たちの住人さ。だがもちろん、彼らと僕らは出会うはずがなかった……僕ら人間に見ることが叶わない、《宇宙の外》で目を覚ました神さえいなければね」

 流れを止めない、と決めたのも忘れて俺はツッコんだ。

「ちょっと待てなんだその厨二心溢れる設定は。宇宙の外って意味わかんねーし。だいたいなんでそんなことをハラルドは知ってるんだよ?」

「君だってこのエヴォルヴァースっていう厨二過ぎる世界で日々駆け回ってる身じゃないか。いいから続けさせてくれ。

 ……それでその、《どの宇宙にも属していない》存在、っていうのは、いつからいたのか実はわからない。インフレーションの前には実時間も始まっていなかった訳だからね。時間の長さを考える必要もない虚時間の世界だ。でもまあ、かなり古くから在ったそいつには、ある性質があったんだ」

 もうかなり置いていかれつつある俺は、それでもなんとか喰らい付こうとした。

「ある性質ってのは?」

「《それぞれの宇宙にある万物の記憶を取り込む》ことだよ。《オートセーブ機能付き容量無限メモリーカード》とでも言えばいいのかな……僕らが感知できないそいつは、とにかく全世界のあらゆるデータを記録し続けたんだ。そしてあるとき、《それ》に自我が宿る。あらゆるデータをインストールされたロボットのようにね」

 俺は少し、気味悪いものを見るかのようにハラルドを見た。言っている言葉の意味は分かったのだが、奴の目は求める道を深く行き過ぎた探求者の目――そんなものを見たことはないが――のようだった。

「それで――どうなったんだよ」

「幼い子供はみんな、向上心と自分の力を試したいという思いが大きいだろう? その自我を持ったメモリーカード……僕は《ノーウェア》と呼んでいるけど、そいつも似たようなもんだったんだ。ノーウェアは、新たに生まれいづる世界に細工して、自分に蓄積された記憶からオリジナルの世界を構築したんだ。それが、僕らのパートナーが生まれた宇宙だ。初めて世界創造を実現したノーウェアは嬉しかっただろうね……どんなデータが流れ込んでくるか、楽しみにしていたはずだ。たった一つ、誤算があったんだけど」

「なんだよ?」

「単なる記憶デバイスだったころにはあった《自動記録》の力を失っていたんだ。ノーウェアは、自分が作った宇宙を観察することが、ついに出来なかった」

「……間抜けな話だな、それ」

「初めてのことには失敗がツキモノさ。知識の塊ともいえるノーウェアにも自身のデータはどこにも無かったからね。それで、初めての作品のデータを少しでも回収しようとしたノーウェアは僕らを利用することにしたんだよ」

「どういうことだよ?」

「僕らの宇宙は、ノーウェアが作った失敗作から生まれた《子宇宙》なんだよ。ノーウェアオリジナルの世界の要素を多少なりとも引き継いでいる。ならば、オリジナルのエッセンスを宿したモノから記憶を抽出すればいい。ごくごく一部ではあるが、自分が作った世界と、おまけに抽出対象の世界のデータも得られる。

 エヴォルヴァースは、ノーウェアが自我を得てから取り逃がし続けた処女作のデータを、欠片でも回収するために作った場所なんだ。3回死んだときのペナルティこそが、ノーウェアのデータ抽出作業だ」

 俺は半ば呆れながらも、少しだけ納得してしまっていた。科学的なメカニズムはともかく、話の流れは通っている。もともとこの世界にいる時点で、もう大概の不思議なことが受け入れられる頭になっていたようだ。

「僕らが宿すノーウェアオリジナルのデータが、ここではパートナーとして顕在化する。それが今日君が体感したことなんだ。パートナーの能力はデータの《再現率》によって異なり、再現率を高めるほど強力になることが多い。カノのような刺客にむざむざ殺されないためにも、ソーウィルもいつかパートナーの《再現率》を高めるときがくる」

「な、なるほど……」

 俺の中で眠るロキが、果たしてどのような力を持っているのだろう。あの恐ろしい力を持った剣士カノにも、何か強力な存在が宿っているのだろうか。

「あっ……そうだよ、カノって何者なんだ」

 俺がもう一つの質問を思い出して問うと、今度はすぐに答えが返ってくる。

「カノがどういうヒトなのかは分からないけど、メモリー・ルーターというギルドについては少しだけ説明できるよ」

「じゃあそれで」

「うん……《メモリー・ルーター》というギルドは、この世界で僕の友として攻略を続けていた《シン》というプレイヤーが立ち上げたであろうギルドなんだ。その方針はたぶん、《強力なノーウェアオリジナルを持つプレイヤーをPKする》ことだ」

「なんだよ、あろう、とか、たぶん、とかさ。ハラルドにしちゃえらく歯切れが悪いな」

「というのも、メモリー・ルーター活動の噂を初めて聞いたのが、シンと僕が決別したずっと後だったんだ」

「何があったんだ?」

「僕とシンは、共にソロ指向のハイレベルプレイヤーとしてこの世界を探索する仲間だったんだ。普通のプレイヤーには知り得ない、この世界の核心に近いようなことをずっと研究していた。さっき話した、この世界の成り立ちとかね。

 そんな研究と探索の日々を続けていた僕らはある時見つけてしまった。現実からエヴォルヴァースという精神世界への移動が可能なら、逆の道を開けるのではないか、とね。シンはエヴォルヴァースから現実への道を開くことで、僕らがこの世界で使える力を現実にも運ぶことが可能だと主張した。そのためには、ノーウェアがゲームオーバーになったプレイヤーからデータを抽出する際に、行き先をノーウェアではなく自分たちの管理下に来るようにして、そのデータ……魂をエネルギーに扉を開けばいい、と」

「よくわからないけど……《生け贄》、みたいな感じか?」

「そう。プレイヤーやパートナーの魂の力が強力なほど生け贄としての価値は高い。彼の主張は、自発的にPKを行って扉を開く糧にすることを示唆していた。僕は反対したよ、当然……。でも彼は、何かに取り憑かれたかのように扉を開こうとし、この世界で得た力を、現実で振るおうとした。それ故僕は彼と袂を別ったんだ……この世界の時間で2年くらい前の話さ」

 俺は少し自分の実感から遠い話を聞きながら、それでもそのシンというプレイヤーに対する憤りだけは感じていた。ゲームオーバーになったプレイヤーは、知識や動作以外の記憶は全て失うのだ。すなわち、それまでの自分がいなくなるということ。もっとダイレクトに、《死ぬ》、と言い換えてもいい。探求心が高じたのかどうか知らないが、幾人ものプレイヤーを殺しても叶える目標など許されるわけがない。

「《記憶の拾得者メモリー・ルーター》というギルドの噂を聞いてから、既に1年ほど経っている。この1年で突如エヴォルヴァースから姿を消したプレイヤーが、僕の調べた限りでは情報屋にも協力してもらって9人。話を聞く限り、蘇生を利用した連続PKでプレイヤーを破滅させ、プレイヤーの記憶もろともパートナーの力を奪い取っているんだろう。ここから推察されることはふたつ」

 指を立てて見せながら、ハラルドの話は続く。

「まず、既にシンはゲームオーバーになったプレイヤーとそのパートナーの魂を手に入れる方法を確立している。もう一つは、エヴォルヴァースから僕らの宇宙への扉を開くために必要なエネルギーはかなり多いということ。1年かけてPKを続けても足りないくらいに。……とにかく、カノはシンの部下としてPKを重ねているプレイヤーなんだろうね。質問はそれだけかい?」

「……あ、ああ。なんか、今日まで狩りと冒険をただ楽しんで来たのに、急にPKがどうのとかオリジナルがこうのって、正直付いていけないところはあるけどな」

 俺が苦笑して答えると、ハラルドはしたり顔でとんでもないことをのたまった。

「それじゃ、話も一段落ついたところで、《秘密特訓~メモリー・ルーターをぶっ潰せ! の巻~》を開始するとしようか!」

「は!?」

 俺が思わず顎を落として反応するが、ハラルドは全く気に止めずに喋り続ける。

「シンの勝手な研究で、犠牲者を増やすわけにはいかないだろう? 君にはメモリー・ルーターと戦えるくらい強くなってもらわないと」

「いや待てよ、確かに俺もカノたちを野放しにしておいていいとは思わないけど……そのシンって奴、ハラルドと同じくらい強いんだろ!? カノだって俺を瞬殺できるほど強いのに……それを簡単にあしらえるくらいにならなきゃ戦えないんだろ? 無理過ぎるよ」

「ロキに助けてもらうんだ。君がロキのサポートを受けたときに、カノは自分のパートナーの力を使わなかったんだろう? 恐らくカノに宿っているメモリーはあんまり戦闘向きじゃない。そして、僕が知る限りではシンもそうだ。僕一人でギルド相手に戦うのはなかなか無茶だけど、君のような戦闘向きのパートナーを持つプレイヤーを集めれば、十分に戦うことが可能だ」

「いや、そうは言っても結局俺たち2人じゃないか」

「ん? そんなことないよ、他にも声をかけてあるんだ。そろそろ来ると思うんだけど……」

「は!? 事前に声をかけてたって……ハラルドお前、今日俺が襲われてなかったら自分でメモリー・ルーターのことを説明するつもりだったのかよ! プレゼントってのも……」

「うん。君にさっさと帰って来てもらうためのウソ」

「キ――――――サ――――――マ――――――!」

 どうせ避けられるであろう右ストレートを奴の顔面に叩き込もうとして、その拳が打ち出される直前に、控えめなノックの音がボロ屋に響いた。

「あ、あの子たちだ……どうぞどうぞ!」

 ギィ、とボロボロの扉を開けて入って来たのは3人だった。

 先頭に、栗色の髪に赤ローブという姿の女。年は俺と大差無いか、少し年下に見える。勝ち気な目が、ハラルドはいいとして誰だろうコイツという風に俺を見ている。

 次に、黒髪に薄青系の軽装で腰に曲刀を差した男。こいつも俺と同い年だろう。顔が悪いわけではないのに、妙に怯えたような風情が台無しにしている。

 最後に、ちょっと驚くほどに幼い男の子。まだ小学校の低~中学年ではないだろうか。けがれを知らないような顔だちに、白系の布装備がよく似合っている。

 ハラルドが三人に言った。

「みんなよくきてくれたね、彼は君らの新しい仲間のソーウィルだよほらソーウィル、自己紹介」

 俺は思い切り反駁しようとしたのだが、目の前の白服の子供の目の光に耐えられずに立ち上がり、ぶっきらぼうに口を開いた。

「ハラルドのところで厄介になってる、ソーウィルです。ジョブはモンクですけれど、投擲も使ってます。よろしくお願いします」

 これだけ言い終えると、俺はさっと頭を下げて自己紹介の終わりを示した。ハラルドは残念そうに、「うーん、君ももうちょっと社交的になったら良いと思うんだけどねえ……ごめんよ、彼こういうクーデレなんだ」などとふざけたことを三人に吹聴していたが、なぜか水色の曲刀使いはそれを聞いてうつむいていた。

「それじゃ、今度はみんなが自己紹介する番だね」

 ハラルドの言葉と同時に、元気よくしゃべりだしたのは赤い魔法使いの女だった。

「はいはいはーい! 私から行きます! 《メイジ》のフレア、得意な属性は火属性。ハラルドさんには私たちが危ないところだったのを助けてもらったんです。あ、私たち三人はエヴォルヴァースに来て以来パーティーを組んでて。もう一つの宇宙とかメモリー・ルーターとか話は正直突然過ぎて信じられないところもあるけど、これからよろしくお願いします!」

 賑やか、と表現するのがぴったりのハイトーンの声が駆け抜けて、フレアは頭をびゅんっと下げた。どう見てもインドアの真逆を行く奴であることは間違いない。

「ムートくん、パス!」

 フレアに促されて、白服の少年が口を開いた。声変わりしていない子供特有の響きが漏れ出す。

「あ、あの、僕の名前はムートです。下手くそですけど、《魔法剣》を使ってます。よろしくおねがいします!」

 こどもっぽくはない丁寧な口調が少し意外だったが、まあ初対面ならこんなもんだろうと思い直す。打ち解ければすぐにお互い素の顔で話せるだろう。俺は笑顔で「よろしく」と挨拶を返した。

「じゃ、最後はフィンブル君だね」

 ハラルドの視線を受けて、曲刀使いが口を開こうとした。しかし、まともに口が動く前に、目を伏せたまま固まってしまう。

 どういうことだ、とハラルドの顔を見たが、ハラルドは笑顔で頷いただけだった。

 しばしの沈黙がボロ家に横たわった。

 「……フィンブルヴェトルです。長いので、フィンブルで。よろしく、お願いします」

 奴の口から出てきた声は、それはもう情けないほどにヘロヘロなものだった。途切れ途切れの口調は、決して考え考え言葉を選んで喋っているという風では全くなく、ただただつっかえた喋り方だった。こいつは一体、と思いながら、俺は調子を変えること無く会釈を返した。

 ネームプレートの交換が済んだところで、ハラルドが場を取りまとめる。

「さて、これで第一次《メモリー・ルーター討伐部隊》の結成だね? みんなには通り一遍のことは説明してあるけど、詳しい話や分かりやすい説明はまたの日にしよう。とりあえず、まずはみんなにエヴォルヴァース中堅プレイヤー程度の実力をつけてもらうよ」

「でも私たちはまだまだかけ出し、ミドルゾーンの人たちには遠く及ばないんですよ? この辺じゃいくら効率のいい狩りをしたって、既に走り出してるプレイヤーたちに追いつくのなんて無理じゃないですか?」

 フレアがごく当たり前の質問をした。そりゃそうだ、パートナーの力を借りたって、圧倒的なレベル差は厳然として在り続ける。ところがハラルドは、フレアの言葉など全く意に介さずに答えた。

「狩場がないなら、作ればいいんだよ」

「作るって、どういうことなんですか?」

 その真意をはかりかねる台詞に、今度はムートが質問する。だが今度もハラルドは、俺によく見せる何もかも見通した笑みを浮かべて言う。

「今に分かるよ。みんなが強くなるための狩場や練習メニューは、僕が用意する。詳しい予定はこのあとメッセージを飛ばすけど、フィンブル君以外はみんな同じことをしてもらうと思う」

「お、俺……ですか?」

 さっきから石のようにだまっていたフィンブルが、自分の名前を聞いて反応した。

「ああ、君は一段階進んだメニューを用意してある。というのも、フィンブル君はメモリーの再現率がみんなよりも一際高いところにいるからね」

 そのとき、俺の中に浮かんだ気持ちは、若干の驚きというかーー苛立ちというか。目の前に所在無さそうに立つ男がスタートの時点で俺に勝っているというのが少し不快だった。もっとも、初対面の相手にそんなことを考えるのは失礼であるし、人を見かけで判断すること自体が間違っている。俺は湧き起こってしまった気持ちをすぐに振り払うと、ハラルドの続きを聞いた。

「それじゃ、今日はここで解散しよう。三人には御足労お願いして済まなかったね」

「ハラルドさんは命の恩人ですもん、全然平気ですよ! あっ、ソーウィルもこれからよろしくね! 失礼します」

 フレアが言うと、ムート、そしてフィンブルも挨拶を述べて、ドアを開け階段を降りていき、後には俺とハラルドが残された。

「いきなり呼び捨てかよ、あいつ……」

「キャラネームなんだ、堅苦しいことは抜きでもいいじゃないか。明日からが大変なんだからさ。……そうだフィンブル、ログアウトしておいた方がいい」

「ん? ゲームオーバー防止のためなら、もうハトルグリームスに帰ったときにしたんだが」

「いや、レベリングが始まったら、多分一つの段階が終わるまであっちに帰れないから」

「それ、あいつらに言わなくてよかったのかよ……」

「それ言うとムート君なんか来なくなっちゃうかもだろう?」

「悪党だなお前……でも、俺は帰らなくていいんだ。あっちは好きじゃない」

 帰ったところで、やることなんてウチで本を読んだり、ゲームをしたりするくらいだ。この世界での戦いより刺激的なことなんか何も無い。

 だがハラルドはその後も強硬に現実世界への帰還を俺に主張し、ついに俺はこのボロ家にある記憶石ーーエヴォルヴァースの宿泊可能な施設には必ず一つ記憶石があるーーを操作し、現実世界へとログアウトした。


今後ここまでの話を大幅にシェイプアップして書き直します。

時々活動報告をご覧ください。

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