第35話 兄弟と幼なじみの話
啓斗がギターを弾いている。僕の部屋で。
「いや、自分の部屋行きなよ。」
「兄ちゃんの部屋の方が落ち着いて練習出来るんだよ。」
「そうですか…Troopsの曲?」
「そうだよ。次の日新曲。」
「新曲に啓斗の曲が入るのか。なんか感慨深いな。」
「一昨日のライブどうだった?」
「良かったよ。Lilyが良かった。」
「ほんと!?あれ僕が作曲したんだよ!」
「そうなんだ…いい曲だったよ。」
「ありがとう!…あ、学校行かなきゃ、」
「学校って今自由登校でしょ?進学先の決まってる啓斗は行かなくていいんじゃない?」
「先に決まってる子たちとトランプするの!」
「…そっか」
制服を着て啓斗は学校に向かった。
「さーて、」
窓を開け、部屋の空気を入れ替えて、リビングに向かう。茶トラのりんちゃんが寄ってきた。
「おはよう。ご飯食べた?」
「にゃ」
短く応えるりんちゃん。これじゃあご飯をあげたのかわからない。とりあえず用意するか。
自動給餌器をセットすると、とことこと、こちらに来た。餌あげてないな。
「はい、どうぞ」
「にゃー」
りんちゃんの横に水を設置して、自分の食事を用意…してあった。
「朝ごはんと昼ごはんは自分で作るからいいよって言ったのに…」
3枚のパンケーキに2枚のベーコン。僕はそれをチンして、メープルシロップをたっぷり掛けて、牛乳を入れる。
テレビを見ながらそれらを胃に流し込む。ごちそうさまでした。
あんな事件があったが、父さんの処方とおばさんのカウンセリングで、だいぶ精神的に落ち着いてきた。たまにフラッシュバックする時はあるが、その時は頓服を飲んで波が過ぎるのを待つ。
「今日は何しようかな、あ、大悟今日休みだって言ってたな。誘ってみようかな」
大悟にLINEを送る。秒で返信が返ってきた。
「俺も暇してたんだよ。すぐ支度して隼人の家行くわ。」
歯磨きをしていると、大悟がやってきた。早い。
「おはよう、中で待ってて。」
「にゃー」
「お、りんちゃん。元気かー?」
「にゃ」
「そっか元気か。良かった。」
「ごめんね、急に誘って。」
「いいよ。俺も暇だったし。」
身支度を終え、大悟の元へ行く。
「隼人、半袖でいいのか?」
「暑いし、傷も気にして無いしね。」
「どこ行こうか。」
「ラウンドワンでも行く?」
「そうだね、久しぶりにボーリングやりたいな」
「じゃあ行くか」
「りんちゃんいい子で待っててね。」
頭を軽く撫でた。「にゃあ!」と鳴いて僕の手に頭を擦り付ける。行ってらっしゃいの合図だ。
「じゃあ行こうか。」
「そうだね、ん、理玖も暇らしいぞ。」
「じゃあ理玖も誘おうか。」
駅前で落ち合うことになった。まだ少し人混みは苦手だ。あらかじめ頓服を飲む。
「大丈夫か?」
「ありがとう、大丈夫だよ。」
「そっか。じゃあ行こうか。」
エレベーターを降りると、ちょうど母さんに会った。
「あらやだ、隼人じゃない。大悟くんまで。」
「ちょっと遊んでくるね。」
「お金足りる?」
「ありがとう、大丈夫だよ。行ってきます。」
駅に着くと、理玖がいた。
「早いな」
「久しぶりに会えるって思ったらいてもたってもいられなくなってな。隼人大丈夫か?災難だったな。」
「うん。今は父さんの薬でなんとか、ね。」
「良かった、無事で。」
うんうんと頷く理玖。とりあえずラウンドワンに向かって歩いていると、急にお腹が空いてきた。
「ねぇどこかでお昼ご飯食べない?お腹空いてきちゃった。」
「そうだな、久しぶりにサイゼでも行こうか。」
「いいね、行こう。」
サイゼの価格設定はおかしい。鶏肉のグリルとピザだけで1000円弱で食べられるんだから。
野菜ときのこのピザを摘んでいると鶏肉のグリルが運ばれてきた。
「いただきます。」
お互いに近況報告をし合う。ラウンドワンでは出来ないからね。
「物理化学が難しすぎる。あんなの人間がやることじゃない」
「理玖、物理化学得意だったのにね。」
「あんなの東大生がやることだよ。」
「俺は今医学総論が中心だな。隼人、復学したら教えてやるからな。」
「ありがとう。そろそろ行く?」
「そうだな。」
3人で3000円行かないんだから、価格設定がおかしい。いつも思う。
ラウンドワンで6時間楽しんだ後、理玖と別れた。さて、これから何をするか。
「とりあえず歩くか。」
駅前を散歩していると、意外と面白いものがあった。特にドンキホーテ。かれこれ2時間はいただろうか。帰路に着着く。
「今日は楽しかったねぇ。」
「そうだねぇ。明日から頑張れそうだよ。」
「良かった。また遊ぼうね。」
「…そうだな。」
その日は満月だった。周りに誰もいない道。満月の光が僕たちだけを照らしていた。




