【第二幕:敵意から狂喜へ。たった一言で少女の防壁をハッキングする】(挿絵あり)
彼は彼女の敵意を意に介さなかった。
いや、意に介する余裕さえなかったと言うべきか。
彼の視線は、彼女が体で庇っている巨大な手稿の上に一瞬だけ見えた一枚の図面に、完全に奪われていたのだ。
それは常軌を逸するほど複雑な魔法陣の構造図だった。
髪の毛よりも細い無数の魔力回路が、ほとんど自己矛盾とも言える超高密度のパターンで、幾重にも折り重なって絡み合っている。
まるで極限まで強制的に圧縮された、爆発寸前の星雲のようだった。
彼は前世のエンジニアが、致命的なバグだらけのコードを見た時と同じように。
ほとんど本能的に、無意識のうちに、専門的な困惑に満ちた独り言を呟いていた。
「……この密度じゃ、通常の魔力の『粒子』が通過できるわけがない。失敗作だと判定されるのも無理はないな……」
「魔力粒子」。
この言葉は、数世紀にわたって忘れ去られていた神聖な呪文のようだった。
そして、すべての埃まみれの錠前を開けることができる、唯一無二の鍵のようでもあった。
それは瞬時にして、その少女が自己防衛のためにまとっていた鋭い氷の層を打ち砕いた。
彼女の警戒態勢は、暖かい日差しに溶かされる氷の鎧のように、轟音を立てて崩れ去った。
元々敵意に満ちていた彼女の瞳が大きく見開かれ、すべての警戒と疎遠さが、この瞬間に急速に溶けていった。
代わりに現れたのは、完全なる驚愕と、自分の耳を疑うほどの狂喜だった。
彼女の声は、秋風の中で今にも散りそうな枯れ葉のように震えていた。
ささやき声に近い、恐る恐る期待を込めた音量で、小さく尋ねた。
「あなた……あなたが今言った……『魔力粒子』って……どこで聞いたの?」
怯えた小鹿のようなその瞳には、現在、三つの全く異なる感情が入り交じっていた。
完全なる驚愕、再び傷つくことを恐れる疑念、そして彼女自身でさえ望むことを恐れるほどの、微弱な期待だ。
彼女はまるで砂漠を数十年一人で歩き続けた旅人が、突然遠くに蜃気楼を見た時のようだった。
それが本物のオアシスであることを渇望しながらも、またしても残酷な幻覚に過ぎないのではないかと恐れていた。
アーガスは彼女を見た。
彼の内にある、エンジニアとしての警報器が瞬時に鳴り響いた。
(……過剰反応だ。この言葉は、彼女にとって単なる知識のデータではなく、一種のアイデンティティの暗号、あるいは苦痛の烙印のようなものだ)
彼の冷たい理性の脳は、一瞬にして評価を完了させた。
目の前のこの少女は、鍵をかけられた、内部構造が未知のブラックボックスだ。
「魔力粒子」という鍵は正しい鍵穴に挿入されたが、ボックスの内部にはさらに複雑な防衛メカニズム(ファイアウォール)が存在するらしい。
不用意に回せば、シリンダーが完全にロックされてしまうだろう。
彼は……小規模な「探測」を行う必要があった。
彼は彼女の質問に直接答えることはせず、より遠回しな、技術的なテストに満ちた語気で問い返した。
「……俺はただ、もし魔力の本質が連続した『流体』ではなく、不連続な『粒子』であるなら……と考えただけだ」
彼は少し言葉を区切り、再びあの災難に近いほど複雑な魔法陣の図面に視線を落とした。
本物の「同類」にしか理解できない言語を用いて、彼の探測針を投げ込んだ。
「……ならば魔法の成否を決定づける鍵は、もはや虚無的な『意志』や『才能』ではなく、回路を載せる『経路』そのものの……寸法と形状になるのではないか?」
【あとがき】
応援や★★★★★評価、ブックマークが、この物語の火力になります。
次の章も、全力で鍛えます。




