第五話-【第二幕:計算された親密さ】
リナは、一箱の贈り物と、一枚のハンカチと、いくつかの弱音めいた言葉だけで、遠い資本側の女王から、アイアンソーン家と苦労を共にする古くからの知り合いの後輩へと、自分の立ち位置を変えてみせた。
その手際は自然で、滑らかだった。
リナが笑顔でこちらを見た時、アーガスは深く息を吸うしかなかった。
彼女は、証言を求めている。
この芝居を完成させる最後の一手として。
「……その通りです」
アーガスはぎこちない笑顔を作り、頷いた。
「リナ先輩は学校でも、俺をよく気にかけてくれています。先ほどの態度は、完全に……俺たちを守るためのものです」
リナは満足そうに目を細めた。
蜜のように甘い笑顔だったが、アーガスの背筋は冷えた。
「誤解が解けたなら、皆さんも立ち止まっていないでくださいな」
リナは軽く手を叩いた。
「第一班の検査結果はまだ出ていません。皆さんは、ご自身の作業に戻ってくださいね」
そう告げると、彼女はブレイクへ向き直る。
その瞳には、初めて菓子の家に招かれた子どものような、ほどよい憧れと好奇心が宿っていた。
「実は……私、小さい頃からドワーフ族の鍛冶工房にとても興味があったんです。飛び散る火花、大きな鉄床、赤く熱された金属。私には、どれも魔法のように見えていました」
彼女は少し残念そうに微笑む。
「けれど、昔はなかなか見学させてもらえませんでした。今日はせっかくアイアンソーン工房へ来られたので、ほんの少しだけ中を見せていただけないでしょうか」
リナの視線が、自然にアーガスへ流れる。
「できれば、アーガスに普段の作業場を案内してもらいたいのですが。よろしいでしょうか、ブレイク伯父様?」
工匠への敬意と好奇心に満ちた、完璧な頼み方だった。
鍛冶場に入ったことのない貴族の少女が、純粋に工房を見たがっている。
そう聞こえない者はいなかった。
ブレイクの顔に、誇らしげな光が戻った。
「もちろんだ! もちろん構わん!」
彼は豪快に笑う。
「うちの工房は、王都の大工場みたいに立派じゃないが、一寸一寸が本物だ。アーガス、早くリナちゃんを案内してやれ。特にお前のあのぼろい試験室だな。散らかってはいるが、あそこもこいつの心血の結晶なんだ」
誰も、リナの本当の狙いを疑わなかった。
ブレイクとトールは廃棄木材の処理へ戻り、サラは温かい茶を用意するために台所へ急いだ。
アーガスはリナの隙のない笑顔を見つめた。
少しの沈黙の後、最終的に頷く。
「……こっちだ」
彼は身を翻し、まだ熱気の残る大広間を抜けて、奥の薄暗い廊下へ歩き出した。
リナがその後に続く。
黒曜もまた、音もなく付き従っていた。
主人の足音に寄り添う影のようだった。




