表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとり達のanthology≪アンソロジー≫  作者: 七海 みな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/12

第十二話 居場所

走ると、いつも後ろから二番目だった。

十二支の物語で、犬が寄り道をして、最後から二番目だったと知った時、戌年の私は、妙に納得したのを覚えている。


大学の授業は必要最低限に絞り、奨学金で学費を払い、バイトで生活費を稼いだ。クリスマスもお正月も働いた。遊びの誘いを断り続け、気づけば誰からも声をかけられなくなっていた。構わない。就職するまでの我慢だ。


そう思って頑張ったのに、就活は全滅。「就職できるならどこでも良い」と焦って、余裕をなくしていたのかもしれない。

卒業式で学長が「これからは皆さん社会人として立派に歩んで行って下さい」と言った時、胸がずきんと痛んだ。私はまた、置いて行かれたのだ。


大学入学直後から、近所のスーパーで商品補充のバイトを始め、ずっと続けている。

大学を卒業する直前、「まだ就職先は決まっていない」と伝えると、店長は言った。

「このバイトを続けてもらえると助かるんだけど。もちろん、就職活動を優先してかまわないから」

たとえ同情でも、奨学金を返済するため、ありがたかった。それなのに、「就職活動を優先してかまわない」という言葉が、胸の奥に深く淀む。ここでも必要とされていない。そう思ってしまった。


それから数年、就活をしているふりをしながら、バイトを続けている。ここを辞めたら、次のバイトは見つからないかもしれない。それが怖い。


私が大学三年の冬、店長の、遠方に住んでいる弟さんが倒れた。

「急で悪いけど、諸々頼むね」

一番バイト歴が長かった私も、いろいろ託された。


弟さんはこちらに戻って地元の病院でリハビリをした。私はさらにいくつかの仕事を任された。追加された職務手当と残業手当に喜び、同時に少しの罪悪感を覚えた。


一年後、弟さんは、店長の叔父さんが経営するコンビニで働き始めた。将来的には弟さんがそのコンビニを引き継ぐらしい。


うらやましかった。

親身になってくれる家族。

約束された将来。


私には手に入らないもの。

私よりも、ずっと良い人生に思えた。


三年後、弟さんはコンビニの店長になった。それを聞いて、胸がちくりとした。まただ。皆、私を通り越して行く。



今日は、一月五日。正月特需が収束し、お客様の購買行動も平常に戻る。

いつものように、売れ残りのケーキやお惣菜に値引きシールを貼る。皆と同じスタートラインに立ったのに、残ってしまった子達。ギリギリでも良いから、誰かに買ってもらえますように。


休憩室に行くと、店長がいた。手には、いつものお気に入りの缶コーヒー。

「就職活動の方は、どう?」

ずっと恐れていた質問だ。もうここまでかもしれない。


「……実は、ずいぶん前に、やめました」

自分の声が、驚くほど乾いて聞こえた。

店長は、怒らなかった。


「必要な時間って、人それぞれだと思うんだよね」

店長はそう言って、両手で包んだ缶コーヒーを見つめる。


「うちの弟もいろいろ寄り道はしたけど、先日、『ここが自分の居場所だ』って言ってたよ」

「……うらやましいです」

店長は、「そっか」と言って小さく笑ったようだった。


「自分の居場所は、自分で決めて良いと思うんだ」

「え?」

「たとえ自分が居たいと願った場所じゃなくても、自分が居られる場所なら、そこで良いんじゃないかな」

「自分が、居られる場所」

それは、何だかしっくり来る言葉だった。

『居るべき場所』ではなく。私が『居られる場所』は……。


「君はあまり自覚がないかもしれないけど、うちの戦力なんだよ」

思わず店長の顔を見る。


「弟が倒れた時も、改装の時も、いつも大変な時に支えてくれて。急な対応も頼りになるし。何より、お客様のために仕事をしている」

「そう、でしょうか……」

「値引きシールひとつでも、丁寧に貼ってくれる。それだけで、やっぱりお客様に伝わるものがあるんだよ。君がシールを貼ると、完売する確率が高い」

店長は、少しずつ飲んでいた缶コーヒーの残りを飲みほした。


「僕も、時間がかかる方だから。遅くなっちゃったけど」

そう言って、店長は照れたような笑顔を見せる。

「良かったら、うちの社員にならない?」

心臓がどくんと音を立てた。


置いて行かれるばかりだと、思っていた。

自分の居場所を探して、迷子になって。

ずいぶん遠回りをして、遅くなってしまったけど。

今からでも、追いつけるだろうか。

最後から二番目くらいには。


「はい、よろしくお願いします」

これで完結です。

読んで下さっている皆様、ありがとうございます。

また時々立ち寄って下さると、嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ