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16、侑ちゃんと私


「ねえ、侑ちゃん。ちゃんと言うね。侑ちゃんが好きなのもし良ければ私と…。ちょっと。」


告白しようとしたタイミングでまた口付けられる。


「僕から言いたいし、伊織ちゃんに告白されたら死んでしまうかも。やからちょっと落ち着く為に。」


「落ち着く為にする事じゃないでしょ。」


「ごめんね。嬉しくて、なんかもう。」


侑ちゃんがまた私のおでこに張り付く髪を分けてくれる。ずっと目尻が下がっていて口元が緩んでいる。身体中から幸せが溢れ出してるみたいにソワソワしていて可愛い。普段から甘い声なのにより一層甘い声で言う。


「伊織ちゃん僕と付き合ってください。」


「はい、お願いします。」


「うわぁーー!すごーーい夢みたい!」


子供みたいに大きな声をあげて私を抱きしめそのまま抱っこする。足が宙に浮くのを感じて侑ちゃんの腕を掴む。


「うわぁ。大袈裟だなぁ。」


「ふふふ、何言っても可愛いよ。」


「はいはい。」


「ねえ、伊織ちゃん明日、暇?初デートに行かへん?」


「うん、行こう!」


「ごめん、またデートのコラムの取材で映画館行くのついてきてくれる?でも映画館だけ!後は本物のデートやから!」


「ふふっ良いよそんなに気にしなくても。ついて行くし楽しみにしてる。」


「ありがとう。」


「あ、ねえ侑ちゃんってどんな服装が好み?折角だから初デートは気合いを入れて行こうかなって。」


「えーー!可愛い!でも僕は自分の好きな服を自信もって着てる子が好きやなぁ。道歩いてて女の子が目に入ったとして個性的でもシンプルでもこれが私ですって歩いてる子がいい。って男でも服装は目に入るからもしかしたら答えになってないかな……。うーん。」


「難しいね。でもなんとなく理解したかな。」


「でもあんまり肌が見える服はやめてね。嫉妬しちゃうし心配やから。」


「はいはい。ていうか自然と侑ちゃんと服被るけどあれってなんか仕組んでる?」


「そんなわけないやん!やめてびっくりしたほんまに!」


「あはは。そうだよね。じゃあ服の趣味が合うんだね。」


「そうやね。あの銭湯でくれた服も好きやったもん。」


「良かった。」


「じゃあ明日も揃うか試してみよ!」


「いいけど、流石にねぇ。」


「ええから、試しに!」


「はいはい。」




「揃った。」


「僕、ほんまに法律に触れる様な事はしてないで!」


「本当に?なんか疑わしくなってきた。カメラとか隠してない?」


「ないよ!ほんまに!」


私はパリッとした水色のシャツワンピースにくるぶしのところにスリットが入っている黒のストレートパンツ。できるだけシンプルな感じにしてみたら、侑ちゃんは水色のシャツ、中に白のTシャツ下はシンプルな黒のスキニーパンツ。


「絶対におかしい。被ったの何度目よ。」


「まあ出かける時は毎回、被ってる。」


「怖い。」


「と、とにかく行こうか!」


「う、うん。」


「じゃあ車とってくる!」


「すみません、ずっと運転させて。よろしくお願いします。」


「ふふっ良いんよ。伊織ちゃんの為なら何でも全部してあげたいの!」


「重。」


「酷い。」


「うそうそ嬉しいよ!」


「ほんまに?思ってる?」


「思ってる、思ってる!運転お願いします。」


「はーい!」


ちょろ。


「なんか言った?」


「言ってません。」


「よし。」



「伊織ちゃん。」


「はい。」


「怖い。」


「はい?」


「ホラー映画見られへん。」


「いや、選んだのはおたくですよね。」


「だって、そういう内容で書くから。」


「見て、もうカップルシートに座ってて始まる5分前です。どうするの?出る?それでも良いよ?」


そういえば侑ちゃんは苦手だったな、盲点だった。それにしてもペアシートって初めて座ったなぁ。価格はお高めだけど1番後ろで区切られてて個室っぽくてゆったりソファで飲み物もついてて凄い。侑ちゃんはこのシートについて書くみたいだけど。


「し、仕事やから…。見る。」


「頑張れ侑ちゃん。」


侑ちゃんは何を思ったのか私の太ももに頭を置いてお腹を抱き顔を埋める体勢になった。


「これでいく。」


「いや、これでいくちゃうぞ、コラ。映画の意味。」


「だって怖いんやもん。怖すぎて死にそう。この体勢やと少し和らぐ。」


「和らぐっていうか見えてなくない?」


「音は聞こえるもん。怖い。」


「えーって始まった。」


「じゃあよろしく。」


侑ちゃんは本当に映画の上映中ずっとこの体勢のままで足が痺れそうだった。


「終わったよって寝てる?」


映画の上映中は気が付かなかったがスーッと寝息を立てている。こいつ。

人が居ない事を見計らって、わあっと脅かすと声も出さずに侑ちゃんが飛び起きた。


「し、心臓止まるかと思った。」


「映画中に寝てた人へのお仕置ね。」


私は侑ちゃん手を出して立たせてあげてそのまま手を繋いで歩き出す。館内は涼しいし手汗は大丈夫だろう。


「伊織ちゃんは酷いなぁ。」


とニヤニヤしながら侑ちゃんがこっちを見る。私から手を繋ぎたいと意識表示した事が嬉しかったらしい。


「水野さん?」


映画館を出た所で声をかけられた、この声は。


「藤間さん…。」


無意識に手をパッと離してしまった。侑ちゃんは一瞬悲しい顔をして口パクで大丈夫と言ってくれた。優しい人。こういう所に安心するのだろう。


「水野さんデートですか?」


藤間さんが微笑み言う。少し痩せてしまった気がする。心配だけどこの感情は後輩としてだけ、前みたいな恋愛感情薄く殆ど消えている。


「そう…です。デートです。」


私はちゃんと自分の言葉で嘘なく答えた。そうするといつもの微笑みではなく少し子供っぽい悪戯な笑みに変わる。私はその変化に少し身構えてしまう。


「一昨日は慰めてくれてありがとうございました。久しぶりに人の温もりに触れて少し心が軽くなりました。水野さんは温かいですね。」


と侑ちゃんに話しかける。私はびっくりして何も言えない。急に何を言い出すのだろう。


「一昨日って残業の。」


侑ちゃんの声がやけに耳に入った。動揺しているのか少し震えている。対称的に藤間さんは余裕があり元気よく話し続ける。


「あの時、腕の中でうっとりした水野さん綺麗だったなぁ。あの時の質問の答え頂けませんか?今からでも僕は構いません。私が居ますって言ってくれたでしょう。」


「えっ、腕の中?」


「それは。」


自分の声が侑ちゃん以上に震えているのが分かる。藤間さんが近付いてくる。侑ちゃんの方は怖くて見る事ができない。


「だから今から一緒に行きましょう。あの前に行ったお店にしますか?嬉しそうに食事をしていたでしょう。あの時、僕に期待した事、今なら叶えてあげられますよ。」


バレていたの?今まで隠していた筈の私の気持ちを分かっていてこんな事。


「いや、でも。私は。」


「僕を好きなんでしょう?ずっと好きでいてくれた。」


「いえ、でも今は。」


「僕の腕の中にいたのは一昨日ですよ。そんな簡単に気持ちが変わるはずがない。」


「でも、私は侑ちゃんが。」


「……。」


さっきから侑ちゃんはずっと黙ったままで何も言わずにただ立っている。


「さあ、僕の腕の中へおいで。」


藤間さんに腕を引っ張られた瞬間だった。侑ちゃんが藤間さんの腕を解き私を抱き寄せ真っ直ぐに私を見た。


「伊織ちゃん、大丈夫やから。そんな顔せんとって。僕も決心がついた。」


「侑ちゃん、私は。」


「伊織ちゃん、結婚しよ。」


侑ちゃんが力強く言う。


「侑ちゃん?」


「大丈夫よ、伊織ちゃん。過去は過去。今僕を好きでいてくれるんやったらそれでいいよ。」


私はこういう言葉に救われている。だから侑ちゃんを好きになったんだ。


「……。」


今度は藤間さんが黙っている。


「伊織ちゃん、僕が一生幸せにする。何があっても悲しませないし、そんな顔にはさせない。」


「侑ちゃん。」


今の一瞬で侑ちゃんと別れる所まで考えたのに。


「どう?結婚してくれる?」


「はい。お願いします。」


私は震える声で答えた。侑ちゃんが力強く抱きしめてくれる。藤間さんはいつの間にか姿を消していた。




「侑ちゃん私の事、離さないでね。」


「もちろん、誰にお願いされても隣を譲るつもりはないよ。」


「ありがとう。」


「じゃあ行こか。」


「うん。」


「あっその前に、ウェディングドレス姿とっても綺麗よ。似合ってる。」


「ありがとう、侑ちゃんもタキシード姿素敵。」


「ありがとう、じゃあほんまに行こか。」


「はい。」


「伊織ちゃん、愛してるよ、これまでもこれからも。」


「侑ちゃん私も同じ気持ち。」


私と侑ちゃんは扉の前で抱き合ってから教会の中に入った。

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