第一章最終話 3馬鹿ゴルファーは、次回もきっと大叩き
「えー、では、只今より結果発表、および表彰式を行います」
「「「イェーイ、ヒューヒュー」」」
――パチパチパチパチ――
ラウンド終了後のクラブハウスの飲食スペースにて。私、孟子 蘭は、既に缶ビールを空けまくって出来上がっている三馬鹿中年ゴルファーに向かい、本日最後のキャディの仕事に取り掛かる。
っていうかさっきまであれだけ醜く争っていた三人が、ここに来てビールとおつまみで真っ赤になって仲良く笑ってるのを見ると、勝負だからと必死になっていた私がなんか馬鹿みたいに思えてくるんですけど……。
「本日の優勝は……徳富 千代郎さん。スコア185!」
「よっしゃあぁぁぁぁ!!」
カウンターに置いてある優勝トロフィーを手に取り、それを徳富さんに渡す。ちなみにこれ、この人たちがコンペの為にわざわざ特注したものらしく、ちゃんと準優勝トロフィーに最下位トロフィーもある。
毎回持ち寄っては成績順に持ち帰り、次のコンペでまた持ち寄っているというわけだ。
ちなみに優勝トロフィーはちゃんと上段の台座の上に、ガッツポーズしてクラブを両手で掲げるゴルファーの像がある……んだけど。
「準優勝、大尾 不破さん、スコア187。」
「くっそ、次回こそは……」
大尾さんに準優勝トロフィーを手渡す……ちなみにてっぺんの人形のデザインは優勝トロフィーのとおんなじなんだけど……上半身しかないのよねぇコレ。
つまり下半身はトロフィー上段の台座にめり込んでいるように見える訳で、なんかガッツポーズというより、底なし沼にハマって「助けて」ともがいてるようにしか見えないんですけど……。
「最下位は鳩賀 通さん、スコア191でした」
「ぐぬぬぬぬ……パターさえ健在ならッ! 無念!!」
鳩賀さんに最下位トロフィーを渡す。お察しの通りこのトロフィーのてっぺんの人形も、クラブを持った両手を天に掲げている。
ヒ ジ か ら 下 は 埋 ま っ て ま す け ど ね !
完全に埋められた死体じゃないこれ……ニセア〇ギかよ!
最終ホール。あの鳩賀さんの蛮行ビリヤードパットのせいで全員グリーンから転落したわけだが、本来のルールなら被害者の二人は元に戻せる。
でも二人とも露骨に元の位置より近い場所に置こうとするもんだから、結局モメちゃって「んじゃやっぱ落ちた場所から行こう」ってなった、なにゆえ?
で、アプローチが大の苦手の徳富さん。ここからグリーンに乗せるのは至難の業かと思われたが……彼が放ったバンカーショットは、見事なまでのどトップ(無論ミスショット)だった。
だがその地を這う打球が、なんとバンカーの壁をまるでループコースターのように駆け上がり、登り切った球は見事にピンそばに落下したのだ。
13番Hでの奇跡のショットを不運で逃した代わりのような、見事な帳尻の合い方だった。
得意満面のドヤ顔の徳富さんに、次は負けんぞと意気上がる大尾さん。鳩賀さんは「ま、しゃーないなぁ」と言った感じで自分のがま口から小銭を取り出す。
「ほら、6ストローク差で600円」
「まいど~♪」
賭けゴルフ、100円単位なんだよなぁ。まぁあんまり大金賭けられても問題になるんだけど……よくその額であんだけガチになれるなぁこの人たち。
ちなみに私のキャディ代金は8千円……お金使う所、間違ってないですか?
とりあえずこの表彰式の司会で私の役目はおしまいだ。ただ、ここで終わったら来月にはまた今日と同じシンドい思いをする羽目になるだろう……さて、残業タイムと行きますか。
「それではこれより、本日の反省会を行いますッ!!!!」
「うぉ! 来たか……」
「えー今回もやんの~?」
「それよりさぁ、蘭ちゃんも一緒に飲もうよ~」
「黙らっしゃいッ!!!!」
バン! とスコアカードを机に叩きつけ、鬼の形相で三人を睨む。ホントにちょっとはマシになってもらわないと、また次のコンペで私が苦労する羽目になるんだから!!
「まずは大尾さん! 毎回毎回どんだけロストボール生み出すんですか! 整備員さんの苦労を無駄に増やさないの!!」
「は、はひいぃぃぃ」
「徳富さん! 優勝したからっていい気になってんじゃないですよ! そもそも優勝スコアが185って何なんですか、+119ですよつまり119オーバー!」
「しゅ、しゅいましぇん」
「鳩賀さんはとにかく最後のアレが最悪でした、次回までに反省文を400字詰め原稿用紙1枚提出の事!」
「ふ、私のパターへの愛を持ってすれば、100枚でも軽いね」
「反省せんかっつってるんじゃあぁぁぁっ!!」
こうして恒例の『大会終了後の大反省会』が、今回も執り行われるのであった。
◇ ◇ ◇
表の駐車場に黒塗りの高級車が止まり、中からいかにもお金持ちな人物が降りて、そのままクラブハウスに向かう。
彼こそ誰あろう、この八百万ゴルフコースのオーナー、太田 瀧その人だ。
ドアを開けて中に入るや否や、ウチの名物従業員の怒声が食堂から聞こえてくる。
「お、今日も来てるのかあのお三方」
「はい……相変わらずウデは上がってませんけど」
彼は受付の従業員とそう言葉を交わし、しばし食堂で行われている反省会を遠目で眺める。
相変わらず散々なラウンドだったみたいで、ウチの蘭ちゃんも相当おかんむりのようだ。
(まぁ、いくら言っても無駄だろうけどね。だって3人の目的はゴルフでも賭けでも無い、『君』なんだからな、蘭ちゃん)
そう心の中で呟く瀧。まぁ端から見ているとバレバレというか、あの3人は明らかに蘭ちゃんのファンで、毎回彼女に付き添ってもらってラウンドし、呆れられ、怒られて、指導を受け、見本を見せてくれて、そしてトロフィーを手渡されてお説教を食らうのが楽しみでここに毎月通っているんだから。
「……気付かぬは本人ばかりなり、か」
「ですよねー」
来月もまた、あの3人はここに来て彼女をキャディに指名し……いつものゴルフを披露する事だろう。
――またのご来場を、お待ちしておりますよ――
第一章 終
次回より第二章開幕!
オーナー、太田瀧氏が若い頃に出会った「ゴルフの妖精」とは――?




