第3話 パッとしないパットはパッタリと入らなくなる
鳩賀 通さんが放った2mほどのパットは、カップの縁をなめるようにして通過していき、そのままグリーンを出て草むらまで転がって行った。
「うーん、もうちょっとだったのになぁ、惜しい!」
「2mのパット外して10m以上向こうまで行って、言う事はそれですか」
キャディの私、孟子 蘭が額に指を置いて悩んでいるのに、当の鳩賀さんは全然残念そうじゃない、むしろ堂々とした笑顔だ。
ちなみに他の二人はお腹を抱えて大笑い……うん、楽しそうで何より。
この鳩賀さん、なんでも初めてコースを回った時の最初のホールで、20m以上のロングパットを見事に決めた(無論大まぐれ)せいで、それからの彼にとってパットとは『正々堂々と正面からぶち込む事』になってしまった。
パッティングというのは、ゴルフで最も奥の深い世界と言われている。
ほんの数mほどの一打に『入れたい』と『大きく外したくない』の狭間で揺れる人間の欲と恐怖が明らかにされるからだ。
そういう意味でこの鳩賀さんはある意味無敵のヒトと言えるだろう。大きく外せば、次にまたやり甲斐のある長いパットを残せるのだから。
開き直っているんじゃなくて、こういうヒトなのだ。
アプローチをきっちり決め、1m50cmほど残ったパットに、彼はまた真剣そのものの表情で構えを取る。
「ちょ、ちょっと鳩賀さん、下りラインなんですから、ここはソフトに……」
「入れれば問題ない」
私の意見に聞く耳持たず、かっこーんと強打された球はスルスルスルとカップに向かって行き……そしてカップまで見事にスルーした。
「あああああ……今度はバンカーですよ」
「なぁに出せばいいだけさ」
その自信通り、見事なショットで呆気なくバンカーの壁をふわりと超えてちゃっかりオンする。このヒト、技術なら3人の中で一番なんだけど、ショットもアプローチもパットをぶち込むための伏線としか考えてないんだよなぁ。
結局、3オンからのパットでグリーンオーバー、再度5オンからまたパットでオーバー、改めて7オンからの4パット11でこのホールを終える。
「何で最初にOBした大尾さんが一番成績がいいんですかあぁぁぁっ!」
思わず絶叫する私に対して、おっさんゴルファー3人はそれぞれの笑顔を浮かべるだけだった。
大尾さんは「次こそは」と言わんばかりに。
徳富さんは、ちょっとしょげつつバツ悪そうに眼を反らして。
そして鳩賀通さんは、まぁなんとかなるさと屈託のない笑いを浮かべて。
本気で言いたい。
真 面 目 に ゴ ル フ せ ん か あ ぁ ぁ い っ ! !




