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祖父の遺言で崖っぷちの私。クールな年下後輩と契約結婚したら、実は彼の方が私にぞっこんでした。  作者: 久遠翠


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12/12

エピローグ「解約不可の終身契約」

 あの日から、一年。

 風にそよぐ緑が目にまぶしい、初夏の日。

『花月庵』の趣ある中庭で、私たちの本当の結婚式が、執り行われていた。

 白無垢に身を包んだ私の隣で、紋付袴姿の蓮くんが、少し照れくさそうに微笑んでいる。

 彼が立て直してくれた『花月庵』は、若い世代にも人気の新しい和スイーツが評判を呼び、今では連日大盛況だ。私も会社での仕事を続けながら、週末は店の手伝いをしている。

 親族や親しい友人たちからの温かい祝福を受け、私たちは三三九度の杯を交わした。


「綺麗だよ、美桜」


 耳元で囁かれた彼の声に、胸がいっぱいになる。

 式の最後、蓮くんからのサプライズが待っていた。

 中庭に用意されたのは、一台のグランドピアノ。彼が静かに鍵盤に指を置くと、あの夜、私が初めて聴いた、切なくて優しいメロディーが流れ出した。

 あの時よりも、ずっと温かく、希望に満ちた音色。

 彼の想いが、音に乗ってまっすぐに伝わってくる。私は溢れる涙を止めることができなかった。

 演奏を終えた彼が、マイクを手に取った。


「この曲は、僕が初めて誰かを本気で愛しいと思った時に作った曲です。今日、この場で、僕の生涯のパートナーになってくれた美桜に、改めてこの曲を贈ります」


 会場が、大きな拍手に包まれる。

 彼は私の元へ歩み寄ると、涙で濡れた私の頬を、優しい指先で拭ってくれた。


「最初は、一年の契約だったけど」


 彼が、悪戯っぽく笑う。


「これからは、永遠の契約かな」


 私も、涙で濡れた笑顔で答えた。


「そうね。解約不可の、終身契約」


 私たちは見つめ合い、幸せを噛みしめるように笑い合った。

 かつて社内で『氷の王子』と呼ばれていた彼は、もういない。私の前では、誰よりも優しく笑い、時には拗ねたり、嫉妬したりもする、ごく普通の愛情深い男性だ。

 氷のように冷たい、偽りの契約から始まった私たちの恋。

 遠回りもしたし、すれ違いもした。でも、その全てがあったからこそ、私たちは今、ここにいる。

 これから先、どんなことがあっても、この人の手を取って一緒に歩いていきたい。

 心と心で結ばれた、永遠の契約。

 その温もりを胸に、私は彼の手を強く握りしめた。

 空はどこまでも青く澄み渡り、私たちの未来を祝福してくれているようだった。

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