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第8話 セラン、ストーカーになる

※タイトルはちょっと大げさだけど、犯罪ではないので安心してください。

セランの引きこもりは、相変わらず続いていたのよ。王城の中で何もかも完結してしまうから、外に出る必要がないんだもの。

でも、以前に比べれば、だいぶ女性に対しては落ち着いてきたみたい。

知らない女性に過剰に拒絶するようなことは、もうほとんどなくなったの。

ただ、わざわざ外に出てまで誰かと関わろうとは思っていないみたい。

紹介される形も、どうも苦手らしくて――「そういうのは違う」って、顔をしかめていたわ。


けれど、王と王妃はそろそろ焦り始めて…

「セランはもう二十歳だ、婚約者くらい立ててもいい頃だろう。レオも結婚するしな」と王。

「でも無理強いはだめですわ。あの子、思い込んだら激しいから」と王妃。

そして、いつものようにユリユリに話が振られて――

「また俺ですか?」と、少し呆れて返したけど、結局は「外に目を向けるように策を練ります」と引き受けたんですって。


でも、ユリユリは、珍しく頭を悩ませたのだとか。

セランと気が合う女子とは、どんなタイプか…

最低ラインは貴族、未亡人はパス、年齢は同世代が望ましい。夜会で婚活しているような女子は論外、同業者も過去のトラウマで却下。尊敬できる部分がないとだめだろうし、芯のある女性がいい。仕事をしている方が、きっと話も合うだろう――って。


条件を並べたはいいものの、結局、「わからん」と頭を抱えたらしいわ。


最近は働く女性が増えてきたらしい。ユリユリは最新の就職情報でも調べてみるかと思い立ったの。王立南図書館には情報誌が多いと、以前マチルダ夫人が話していたのを思い出して、彼は南図書館へ足を運んだ。


受付で尋ねると、司書の女性がすぐに、「職業関連でしたら、三番棚の左側にございます。分野別に整理してありますので、探しやすいかと存じます」と落ち着いた口調で答えてくれたとか。


その後も、「働く女性の職種を調べたい」というと、

司書さんはすぐに統計を出してくれて、「医療・教育・技術職から始まり、調査官や記録士なども人気です。研究職も女性の進出が進んでいます」と、的確に説明してくれたんですって。


調子に乗って「芯のある女性を探していて」と打ち明けると、司書さんは少し考えて、

「でしたら、情報誌だけでなく、職業体験記の棚もご覧になるとよろしいかと。実際の働き方や考え方がよくわかります。現場の声に触れることで、人物像も見えてくるかもしれません」と提案してくれたそうなの。


もっと調子に乗ったユリユリは、

「なるほど。あなたのような方が、もっと前に出てきてくれたらいいのに」と、素直に言ってしまったとか。


司書さんは微笑みながら「裏方が性に合っております。でも、必要とされる場があれば、役に立ちたいとは思っています」と。


このくだりはユリユリにお酒を飲ませたら、がっつり話してくれたけど、リゼさんのことを相当気に入ってたわね…

なんだか、ちょっと焼けるわ…

リゼさん、ユリユリが惚れてしまうのでやめてください。


この女性いいじゃないか。落ち着いていて話もしっかりしている。頭もよさそうだ。と、ユリユリはすぐに彼女のことを調査したの。


リゼ・アルトリーナ子爵令嬢。父は財務部課長補佐のエルマー殿。誠実で人徳のある方だそうで、父一人子一人の家族は二人きり。婚約者はいない。領地はなくとも、誠実な生活を送り、彼女は王立学園を上位成績で卒業。その実力が認められ、学園長の推薦で王立南図書館の司書として就職。仕事ぶりも評判で、彼女がまとめた棚は職員にも来館者にも見やすいと好評。特に、彼女が自由に作ったコーナーは、ハーブや薬草の図鑑が並び、効能や調合法まで網羅されていて――

方向性も合ってるじゃないか。ますますもっていい。


そして、ユリユリは思案したのよ。どうやって接点をつくるかと。ぐるりと館内を見回して、館長室へ出向いたの。

「こちらの図書館は薬草関係の書籍が豊富で、とても雰囲気もいいですね。実は、王政庁教育課より予算が分配されまして――薬草古文書の入手と、2階に個人スペースを設けていただきたい。高貴な方が気軽に王都の図書館を利用できる工夫をお願いしたいのです」

そう依頼したのよ。


そして、1月後。

2階から1階が一望できる静かな閲覧スペースが完成。そこからは、受付に立つ司書たちの姿も、リゼさんが整理した棚もよく見えるようになっていた。薬草関連の棚は拡張され、王国一の情報量を誇るコーナーに。


あとは、ここに彼が偶然くるように仕向けるだけ…


ユリユリの思惑通り、セランは南図書館へ足を運ぶようになったの。薬草文献の充実と、整った環境に心を惹かれたのですわ。それに、静かな司書の姿に、言葉ではない安らぎを感じながら――研究の合間に通ううち、彼の視線は自然と彼女を追っていて。気づけば一年が過ぎていたらしいわ。


そうそう、この年はビッグイベントがあったのよね。

王太子レオと隣国の王女エリザベス様の結婚式。

それはもう盛大だったわ。王都の通りという通りが人で埋め尽くされて、パレードを一目見ようと国中から人が押し寄せて――まるで祝福の光が王都を包み込んでいるみたいだった。あんなに華やかで、あんなに幸せそうなレオを見たのは初めてだったわ。


でも、そこに至るまでが、まあ、ひと騒動もふた騒動もあったのよ。特に、あの“エリザベス様単身突撃事件”。あれは忘れられないわ。エリザベス王女が、なんとお忍びで我国に来ちゃったのよ。理由?「レオ様に会いたくて、いてもたってもいられませんでした!」ですって。いや、気持ちはわかるけど、王女が単身で国境越えって、普通に外交問題よ?


案の定、隣国では大騒ぎ。

「失踪か⁉」「誘拐か⁉」って。で、ここで登場するのが、我らがユリユリ。正規ルートじゃ遅すぎるからって、お姉さま経由で隣国に連絡を入れたの。(どんな手段かはわからないけど)

結局、王女の滞在は“文化交流の一環”ということで落ち着いて、隣国も「まあ、王女が元気ならよし」と納得。


もちろん、王女にはこんこんと説教したそうよ。

「王女殿下、次回からはせめて事前に連絡を。護衛は必ず最低でも5人は付けてください。我々は歓迎しますが、国際秩序も大切です」って。

王女は「はいっ!」って、まるで訓練後の返事みたいだったらしいわ。かわいい。

「筋肉愛は外交を超える」とか、誰かが言ってたけど、ほんとそれ。


そんなこんなで、ようやく結婚式。

レオは晴れやかに、ベスは凛々しく、ふたりは本当に幸せそうだった。王妃も王も、セランも、国民もみんなが笑顔だったわ。


ユリユリだけが、グラスを傾けながらぽつりと。

「……やれやれ。結婚したら、少しは落ち着くだろう」

うん、たぶん。

でも、あのふたりだもの。次は何をしでかすか、ちょっと楽しみでもあるわよね。

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