第9話 セラン、婚約者を決める
相変わらず、セランは南図書館へ通ってストーカの日々。ただ静かに、リゼさんを目で追うだけ。進展は…皆無。陛下も「セランに恋人はまだか?」と、ユリユリをつっつく始末。
そして、謁見の間にて。薬学修了の報告を終えたセランは、陛下よりお言葉を賜った。
「医学に続き、薬学までよく修めた。王家の名にふさわしい、立派な努力である」
セランは一礼し、厳かに応じ。
「ありがとうございます。今後は民のために活かしてまいります」
「お前は、まだ医者になりたいのか」
陛下の問いに、セランは一拍置いてから、静かに答えた。
「人を癒す手は尊く、必要なものです。けれど私は、薬草の可能性を探り、病の根を断つ術を見つけたい。目の前の一人だけでなく、もっと多くの人を救える道があると信じています。私は、治療よりも研究に身を置きたいと考えています」
「わかった。引き続き医務局に所属し、研究を続けるがよい。王家の知を支える役目を果たせ」
セランは、深く頭を下げて「御意」と。
けれど、陛下の声はそこで終わらなかったのよ。
「では、婚約者はこちらで選定させてもらう。王族として、責務を果たすべき時だ」
セランの背筋がわずかに強張ったのわかったそうよ。背後に控えていたユリユリは、何も言わず、ただ静かに陛下の言葉を聞いていて――
数日前、陛下に耳打ちした彼の筋書き通りの展開でしたのよ。
セランは、ゆっくりと顔を上げて言った。
「少し、猶予をいただけますか。私自身で選びたいのです。あと一年、時間をください。それで決まらなければ、王命に従います」
しばらくの沈黙のあと、陛下は「半年で片を付けよ」とだけ。
ユリユリの目論見通りね。
でも、セランも、かなりの策士家で…
図書館で出会いを演出するのかと思いきや――
突然、婚約の打診をリゼさんに出したのよ。
リゼさんに手紙で断られたものの、強引にご自宅へ赴き「互いを知る時間が欲しい」と。そして、強引にお茶へ誘い、なぜ彼女を選んだのかをとつとつと真摯に語ったんですって。
いつのまにかリゼさんはそんなセランにほだされて、ついぞ婚約を承諾することに。その間、3カ月。かなりの短期決戦でしたわね。
王家とアルトリーナ家の顔合わせも滞りなく進み、半年後には、婚約披露の舞踏会が開かれましたの。王城の大広間は、光と音楽に包まれて、それはそれは華やかだったわ。リゼさんは、お約束の意地悪令嬢たちに囲まれましたけれど――見事なかわし方で、拍手したくなるほどでしたわ。ええ、あれは本当に鮮やかでした。
でも、いい気にさせてはいけませんの。そこで、ラスボスのわたくしの出番ですわね。
圧倒的な権力の差を見せつけ、連れ出してやったわ。あら、これも演出の一つですのよ。
彼女を別室に連れ出し、わたくしが聞きたかったのは彼女の本音。セランを本当に想っているのか、彼を支える覚悟があるのか――それを確かめたかったの。少し感傷的になってしまったけれど、わたくしなりの卒業の儀式ね。
彼女は、飾らずに話してくれたわ。どんな気持ちになるか想像もつかなかったけれど、彼女になら任せられるって、素直に思えたの。しっかり二人で話せてよかった。リゼさんとなら仲良くなれる気がするわ。
この別室もいつも使っているところでは、万が一セランに邪魔されるかもと、違うところを準備しておいたのよね。案の定、セランが探しに来ていたみたい。でも入れ違いに…
会場にセランがリゼさんを探しに飛び込んできたときは、ちょっと笑っちゃったわ。セランを振りまわせたことに優越感…走り回ったユリユリもハァハァ息を切らしていたわね。
そして、わたくしからの最後の贈り物をセランはちゃんと理解して、みんなの前で公開大プロポーズ…ほんと、すっきりしたわ。
二人はもう、周りが見えないくらいに自分たちの世界に入っていて。
その場の空気が少しざわついたけれど、レオがうまくおさめてくれたのよね。
結婚して、ますます頼もしくなったものね。エリザベス様の影響かしら。
祝宴の熱も少しずつ落ち着いて、わたくしも帰路へ。
馬車乗り場に向かっていたらユリユリが来てくれて…
この日の彼は珍しく優しかったわね。
「今夜のあなたは、誰よりも美しかった」
って言ってくれたのよね。
私、うれしかったの。はずかしながら、馬車の中で泣いてしまったわ…誰かがみてくれていた。それだけで、私は救われたわ。
ユリウス、ありがとう。




