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第7話 セランの引きこもりとレオ派遣

あんな事件があってから、セランはすっかり外に出なくなってしまったの。医学校は無事に卒業できたから、それだけでもよかったけれど――


本当は、次は薬学校に進もうと考えていたみたい。でも、外に出て女性と話すのも、見るのも嫌だって。知らない女性に対しては、特に強く拒絶するみたいなの。知っている人なら平気なのよ。わたくしとか、医学校の同期とか。

でも、初対面の女性となると……もう、顔をしかめて悪態をつくほどらしくて。


もちろん、あの事件は世間的には伏せられているわ。

だからこそ、事情を知らない人たちからは「変わり者」だとか「偏屈な男」だとか、そんな噂が立ち始めてしまったの。


そこで、ユリユリは動いたのよ。

かつて側室の居所だった王宮北塔――今では制度の廃止により、倉庫や予備客室として使われるだけになっていたその場所に、手を入れたの。

庭はすべて薬草園に作り変えられ、採取・栽培・乾燥までを一貫して行えるように整備。塔の内部には研究棟をはじめ、調合室、保管庫、診療室まで設けられて、薬学のすべてがここで完結できるようになったの。セランのために王宮の一角をまるっと作り変えてしまったのよ。


入所は「男子に限る」との方針で、薬師を志す若者や研究者――いずれも男性ばかりが集められたの。

彼らは思う存分、勉強と研究に打ち込んだそうよ。

……ええ、想像するとちょっと空気が濃そうだけど。

でも、セランにとっては、安心できる環境だったのよね。


転んでもただでは起きない、さすが王族。権力とお金にものを言わせたわね。ちょうど、ユリユリが医務局を作ったのも相まって、決裁が早く、とんとん拍子に進んだらしいわ。


留学から一時帰国するたびに、北の王宮庭園が薬草園になっていたり、白衣の男性が大勢増えていたり…

最初、他国の研究者が見学ツアーに来ているのかと思ったわ。他国じゃなく自国の人だったのね。


王城内に薬学の研究施設が整備されたことで、かつて難病指定されていた病のいくつかが、薬によって治療可能となったとか。調合技術の向上と、薬草の体系的な管理が進んだことで、医療の水準そのものが大きく引き上げられたんだって。


特に、セランが主導する研究所の成果は、医務局の制度改革にも反映され、王国の医療は今や過去にないほどの精度と柔軟性を持つようになったんだって。


もう、セランは立派に王政庁の一角を担う人物に成長していたのよね。王子としての肩書より、医務局の柱として名が通るようになっていたの。

ユリユリのねらい通りね。引きこもりだけど…


そのころ、隣国との合同軍事演習なる計画が持ち上がったのですって。遠方には、前衛的な政策を掲げる国が台頭し始めており、各国の間に微妙な摩擦が生じていたとか。


我が国も隣国も、しばらくは静観していたものの、ここで軍事演習という形で協力体制を見せることで、周辺国への影響力を保ちつつ、互いの信頼を深める狙いもありとか。なんか難しいわ。


そして何より、王太子のレオがこの演習に参加することが決まり、若き王位継承者としての責任と覚悟の表れと国民にとても関心のある話題になったのよ。


というのは表向きで、レオがユリユリにしつこく付きまとうから、しばらく王都から遠ざけようとこの案を考えたんだって。ちょうどその時、隣国にいるお姉さまとお話しする機会があり…


姉「隣国の王子、レオさまと気が合いそうよ。筋肉は友達だなんて言っていたから」

ユリウス「同類だな。よし、二人会わせて鍛えさせるか。合同訓練とか…」

姉「いいわね。そういえば、最近近郊海域で、調子に乗ってる海賊がいるのよ。それをあてる?」

ユリウス「海賊か。いい宣伝になりそうだな」


そんなこんなで、合同軍事演習が決まり、国境付近の隣国にて集合。レオと隣国の王太子は会うなり、握手どころか、がしっと抱き合ったそう。

筋肉に言葉はいらない。(なんのこっちゃ)


二人は夜な夜な語り明かし、訓練にも先頭を競って励んだ。その勢いのまま、隣国海域でのさばっていた海賊を叩きのめし、演習はいつの間にか実戦に変わっていたの。


「何年も一緒に戦っているかのように息がぴったりでした」

「二人は目と目で通じ合ってました」

と戦士たちは語ったそうよ。


こうして合同軍事演習は大成功を収め、両国ともに万々歳の結果となった。

その勢いのまま、隣国王女とレオの婚約が発表され――王女は演習見学の折、レオに一目惚れしたとか。


実はその裏にはお姉さまの采配があったの。お姉さまは隣国王太子から何度も求婚されていたんですって…そこで、王女とレオの縁談が整えれば、国同士の絆が強まり、自分が断っても問題ないかと…

――そう考えていたのよ。


ユリユリとお姉さま、やっぱり姉弟ね…国をも動かす采配をするのだもの。


でも、お姉さまは、隣国王太子の誠実さと熱意に、いつしか心を動かされて…

最終的には、プロポーズを受けて結婚なさったのよね。今は双子のママ。

双子ちゃんには、わたくしたちの結婚式の時に、初めて会ったんだけど、可愛かったわ~

あら、また脱線しちゃった…


ユリユリは、祝賀会の片隅で、冷めた声を漏らしていたわね。

「軍事演習の成果に婚約発表、筋肉と感情で国交が結ばれるとは、外交の新時代か」

誰もが笑顔を交わす中、彼は皮肉げに続ける。

「姉上の采配も見事だ。計算で始めて、情で落ちるとは――…まあ、あの王太子の方が一枚上だったということだな」

「これで国の絆は強まった? なら、俺の出番は減るな。結構なことだ」


そういえば、男3人でずっと話していたわね。一人はあのカシウスだったけど、もう一人は知らない人だったわ。フィルって呼ばれてたけど。誰かしら。ユリユリがあんな顔で話す相手なんて、そうそういないはずなのに。


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