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第5話 つかの間の平和

セランは1年で学園を無事卒業し、念願かなって医学校に入学したの。


医学校1年目は、医療と薬草の基礎、疫病の歴史、医療制度など座学が中心。セランはぐんぐん吸収し、診断や応急処置の初歩を習得すると、けが人がいないか王庭を練り歩いていたらしいわ。みんな恐れ多くて、うっかり怪我をすることがないよう、この年は極端に怪我人が少なかったみたい。

…まあ、順調に自分の夢に向かって歩き出したわね。


ユリユリも王政庁の再編プレゼン案を引っ提げて、いざ議会へ。


「現在の王政庁は、政務・軍務・財務・外務の四庁体制で運営されています。


政務庁には民政・法務・教育・医療などが含まれ、業務が過密化しています。中でも医療分野は、兵士の治療、疫病対策、王宮内の衛生管理に加え、病院の運営や医師の育成など、国家の安定に直結する重要領域であるにもかかわらず、責任の所在が曖昧で、予算も後回しにされがちです。


そこで政務庁を民政・法務・教育・医療の4局に分割することを提案します。

それぞれに局長を置き、外務卿や軍務卿と同格の役職とすることで、専門性と責任を明確にします。


制度として確立することで、民の命を守る力が国家の信頼につながります。時代に即した体制を整えることで、王政庁の機能はより強固になります。


どうか、冷静なご検討をお願い申し上げます」


この記録は、議会の議事録にちゃんと残ってたの。

記録係は女性で、詳細までしっかり記録してたみたい。記録係さん、グッジョブ!!


ユリユリ案は大した反対もなく、議会の承認を無事得られたそう。


そして、法務局長にケハク伯爵(偽聖女の時の裁判長)、教育局長にローレン侯爵夫人(セランの教養教師)、そして医務局長に「家庭でできる病気の治し方」や「薬草を育てて健康になろう」の著者のパウル伯爵を陛下に推薦。


パウル伯爵って誰?って思うわよね。病飛族会の創設メンバーだって。ほら、セランがハマった、「病気なんて吹き飛ばせ、俺たち元気族」の会よ。

思いだした?


見事なまでの身内采配。もちろん、任せられない人を選ぶはずはないんだけどね。

セランの将来にむかって順調に滑り出した。


北辺境伯領の氷狼討伐も、3年目の年で、住民の安全確保、群れの弱体化も予定どおり進み、大詰めのボス戦を残すのみ。


アシュレイ王弟殿下の指揮はネチネチ……じゃなくて、綿密で死角がない。また、やらかし組のレイニードやカシウスがかなり功績をあげ、討伐隊の被害も最小限に抑えたという。彼らは地域の住民ともうまくやっていると報告が来ていたわ。


レオも騎士団が忙しいらしく、また性に合っているみたいで、楽しくやっているみたい。騎士団側は迷惑かもしれないけどね。


ユリユリは久しぶりにのんびり過ごしたんだって。

あまりにも暇だったから、王都の図書館巡りをし、かなりの蔵書を読破。めったにいかない観劇も1日に3本梯子したって言ってたわね。

演目は「うそつき聖女」「狼だらけ」「王の耳は側近のもの」

内容は聞かない方がよさそうね…


わたくしは学園2年目の年。ユリウスがときどき学園に来てたのは、暇だったからなのね。いつもドヤ顔でセランの報告をきかされたわ。

「セラン殿下は順調だ。彼はやるべきことを見失わない」

セランの話だから、そんなユリユリの態度を許してあげてたのだけれど――

今考えるとちょっと腹が立ってきたわ。


でも、彼が言ってくれたの。

「君の語学力は、王宮でも群を抜いている。それをこの国の中だけで使い潰すつもりなら――正直、もったいないどころか無駄だ」

「本気で語学を極める気があるなら、外に出るべきだ。君ほどの才を、王宮の茶会で披露するだけなら、それこそ贅沢な無駄遣いだ。まさか、そんな器に甘んじるつもりじゃないだろう?」


言い方はきついけれど、嬉しかったの。

わたくしの努力を見てくれてる人がいるんだって。

……まあ、セランの邪魔にならないように海外に追いやりたいだけだったのかもしれないけどね。


でも、ユリユリの言葉に刺激されて、次の年から2年間の留学を決めたの。

あら、わたくしもある意味派遣されたのね。


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