戦いの規則
ウラエルに指定された時間、指定された場所へとやって来た深見宗次。
そこは戦いに備えるための控室。
そこでウラエルは今回の戦いについて説明するのであった。
土曜日10時。
サイバーワールド内の指定されたアドレスへとやって来た。
「あ、宗次さん!」
小さな部屋のような空間。
そこにはすでにウラエルが待機していた。
「控室にようこそ!」
「控室?」
「はい!ここでは様々な準備が出来ます!」
そういう場所らしい。
「あと試合に出る際にはこちらを着用してください!」
渡されたのは赤いコート。
「これは?」
「アカウント擬装用のコートです。」
「・・・これって利用規約違反では?」
おそらく前にウラエルが着ていたコートの同種。
サイバーワールドではアバターの見た目はリアルワールドに準じている。
それを勝手に変更する事は規約違反となるのだ。
「アバターをいじるわけではありません。あくまでも服です!」
「抜け道!」
仮面や覆面、目出し帽・・・
その一種という事だろう。
「あとAIモンは連れてきてますよね?」
「ああ・・・ブラッド。」
名前を呼ぶと足元にデフォルメ化されたティラノサウルスのようなものが現れた。
これがAIモンスター・・・AIモンの連れ歩き形態である。
ブラッドは個体名で見た目はティラノサウルスに似ているが、少し細めだ。
「OKです!よろしくね、ブラッドちゃん!」
ウラエルが手を出すと、ブラッドがその手をがぶっと噛んだ。
「痛い!」
サイバーワールドのアバターに痛覚はない。
「痛くはねえだろ・・・ブラッド。」
注意するとブラッドは手を離した。
「つい言っちゃうんですよね・・・」
「わからんでもないが・・・」
火に触った時に熱くなくても熱いと言ってしまう現象だろう。
それはサイバーワールドでも変わらない。
「じゃあ今回のゲームを説明しますね!」
「ここで説明なんだな。」
「はい!大役なので緊張してます!」
「せんでええから正確にルールを教えてくれ。」
ただそれだけでいい。
「今回のゲームは蟲毒です!」
「タイトルが怖え!」
ホラーゲームのタイトルでありそうだ。
「参加人数は2名、レバニラさんと対戦相手になります!」
「シングルマッチって事か?」
「はい!ですが特殊ルールです!」
その特殊部分を教えて欲しい。
「今回のルールは蟲毒です!」
「さっき聞いた。」
「・・・」
ウラエルが下を向いた。
「悪かったよ。説明してくれ、ウラエルだけが頼りなんだ。」
「えー・・・口説いてますぅ・・・」
「すまん、可愛いとは思うが好みではない。」
「酷い!」
どちらかと言えば大人っぽい女性が好みである。
「蟲毒は対戦相手の他にダミーAIモンが98体放たれています。」
対戦するAIモンと合わせて100体か。
「以上です!」
「・・・え?」
「なにか質問はありますか!」
「いっぱいあるわ!」
これはルール説明ではない。
ゲーム概要だ。
「まず!勝利条件は?」
「え?対戦相手を倒す事に決まってるじゃないですか?シングルマッチって言いましたよね?」
「シングルマッチに100体のダミーはいないんだよ!」
「だから特殊ルールです!」
ダメだ。会話にならない。
「100体のダミーを無視して、対戦相手を倒せば良いんだな?」
「それでも大丈夫です。ですがダミーは襲ってくるので難しいと思います。」
「そういう事を説明してくれよ!」
「でもそれはダミーの思考ルーチンであって、ルールじゃないと思います!」
「そういう事じゃねえんだよ!プレイヤーが知っておくべき情報を教えてくれよ!」
「えっと、敵を倒せば勝利出来て、ダミーは襲ってきます。」
「じゃあプレイヤー・AIモン2対ダミー98で、対戦相手を倒せばクリアって事か?」
ダミーの強さにもよるが、2対98がまず厳しい。
範囲系のスキルを使えば倒せるだろうが・・・
「ダミーは共食いしますので、1対×99+1です。」
「言い方がややこしい!」
おそらく最後は『対』が不要だからそういう式になったのだろう。
「共食い?」
「はい!」
「じゃあダミーが共食いしたら強くなったりするのか?」
「はい!・・・あ」
「あ?」
「えっと・・・それは秘密です。」
「ダミーは共食いすると強くなるんだな?」
「それは!秘密です!」
「はいはい。」
どうやら隠しベントだったようだ。
おそらくはダミーを無視して戦うと、強いダミーになって手が付けられなくなる。
そんなイレギュラーを生み出すための措置なのだろう。
それでこのゲームの名前は蟲毒という事か。
「対戦相手は?」
「それは対戦が始まるまで内緒です。」
「ダミーの能力は?」
「内緒です。」
そうなると戦略は立てにくい。
このゲームで大事なのは相手の動きと、ダミーの能力。
それが一切わからないとなるとやりにくい。
「スキルの調整はしても良いんだよな?」
「開始時間までは問題ないです。」
「開始時間は?」
「あと10分です。」
あまりない。
AIモンはステータスの調整は時間がかかるが、スキルと技の調整はすぐに行える。
必要なスキルと技を選択するだけだ。
相手は共食い強化の情報を持っていないだろう。
だが、蟲毒という名前から想像は出来る。
「こんな所か。」
調整を完了させる。
ブラッドの強みを活かしながら、汎用的なスキルも選択。
「そろそろ準備お願いします!」
「はいよ。」
ウラエルからもらったコートを着る。
これで準備完了。
「行くぞブラッド!」
『ギャウ』
ブラッドが同意するように鳴いた。