突然ですが、告白されました。
1話目に『マリコ』さんから描いていただいた、梨桜のイラストを掲載しています。
可愛いです。
《新学期編》
【突然ですが、告白されちゃった】
「俺と付き合ってください。」
私は放課後の体育館裏で告白を受けてしまった。
まさか、本当にこんな場所で告白されるなんて。
・・・
私は真新しいセーラー服で新学期を迎えた。
ちょっとだけ長い校長先生のお話を聞き、
ちょっとだけおちゃらけた担任の先生のお話を聞き、
HRで突然行われた席替えで見事紗奏の隣になり、
そして、1学期までほとんど話したこともない男子に、
『話がある』と呼び出されたのだ。
・・・放課後の体育館裏に。
『そんな人気のない場所に誘って、私をどうするつもり?』
・・・とは、さすがに思わなかったけど、
それでも一人で会う勇気はなく、
申し訳なく思いつつも、紗奏に同伴してもらったのだった。
二人でそこへ行くと、既に彼は来ており、怪訝な顔をされた。
・・・そりゃ気持ちは解りますよ?
でも・・・
・・・呼び出しなんて普通に怖いのです。
(告白かもしれないとは分かっていても)
彼は、相手が二人であっても、堂々と私に告白してきた。
正直、好きだと言われてもピンとこない。
・・・なので・・・
「ごめんなさい。」
私はそういって彼に頭を下げる。
(付き合うのは無理です。)
(杉田君のことは何も知らないので。)
(ほとんど話したこともないので。)
目線だけはなるべくそらさず、彼のあご下あたりを見つめている。
目を見つめるのはちょっと抵抗があるし。
「ごめん、突然でびっくりしたのは分かってる。
でも、ずっと好きだったんだ。何だったら、友達からでもお願い!」
「・・・え~と・・・クラスメイトって友達じゃないの?」
「一緒に遊んだりとか、話したりとか、今までより仲良く!」
「ごめん、私、この夏にお母さんが死んじゃって・・・
遊ぶ時間とかないんだ・・・。」
「えっ???」
(杉田君は知らなかったようだ。)
「あ、でも学校でなら大丈夫だろ?休み時間とか。」
「ハイ、ストーーーっプ。杉田、しつこいよ?
梨桜の身になって考えてみなよ、お母さん死んだばっかなんだよ、
付き合うとかないでしょ。」
「役不足かもしれないけど、俺が支えるから。」
え?・・・
ささえる・・・?
あなたが・・・?
わたしを・・・?
なんで・・・?
それまでごく普通だった杉田君に強い嫌悪感を抱いてしまった。
「ごめん、お父さんと、紗奏が支えてくれるからそれは必要ないかな。
それに、杉田君と話したことほとんどないし、付き合えません。」
「はい、これで終わりね、
あとさ、もうちょっと引き際をわきまえたほうがいいよ。」
「俺、ずっと八月朔日のこと好きだから。」
そこまで言うと彼は走って去っていった。
「・・・・・・・・・・。」
私は少し呆然として、彼を見送る。
「なんだろ、あれ?」
「なぜかわかんないけど、『私を支えてくれる』つもりなのは凄くむ
かついた。」
(なぜ私は、彼のあの言葉にこれほど反応してしまったのだろう。)
「私も!、何も知らないやつが支えられるかっての!
て、いうかさ、そういうのは付き合ってる間柄で言う言葉じゃない?」
(そうか!、距離感を無視して『支える』なんて言ったものだから
こんなに嫌悪感を持ってしまったんだ。
・・・私は何となく納得した。)
「うん、今言う言葉じゃないよね。」
(それから、役不足の使い方も間違ってるし・・・)
「あ!、気晴らしにあそこ寄ってこ?」
「いいねっ、あれ以来だねっ。(笑)」
「だね。(笑)」
そう、新学期そうそう明美はまっすぐ紗奏と私のところに来ると謝っ
てきた。
『ん。わかった。でもああいうのはもうなしだよ。』
そう紗奏は言い、私も頷いた。
あの子は基本的には臆病なんだと思う。だから相手の弱い部分を弄って、
自分がちょっと上になっていないと不安なんだ・・・
私は何となくそう感じている。
学校から電車で一駅・・・
二人でお店まで歩く・・・。
私は夏の間、お昼代と言う事でお小遣いとは別に毎日千円貰っていた。
でも貧乏性の私はほとんど自炊で済ませたので、まるまる余っていてお
父さんに返そうとすると、
『それはお前が頑張った分だから、とっておきなさい』
と言って受け取らなかった。
お小遣いは毎月5千円と言う事になって、なんだかとってもリッチに。
ただ、貯めてあるお金はちゃんと使い道を考えているので、無駄遣いし
ないようにしようと思う。
一週間ぶりに二人で『シャトー・レーヌ』に来た。
もうおすすめは秋のものになっている。
窓側の席に並んで座り、ケーキを食べながらチラッと紗奏の横顔を見る。
そういえば、好きな子はいるのかな?
「紗奏って、好きな人とかいる?」
「エッッ・・・。」
(あ、一瞬間が開いた。)
「あぁ・・・うーーん、
・・・いる。内緒ね!」
「おぉ~・・・だれ?、学校の男子じゃないよね?」
「(こほん)なぜそう思われます?梨桜さん。」
「う~~ん、・・・感・・・?
なんか、もっと年上の人を好きになりそう・・・
な・・・感じ?(笑)」
紗奏はそっとスマホを操作し、私に差し出す。
「え?、この人?」
「うん。」
そこに写っていたのは、しっかりしていそうで、優しそうな人だった。
・・・大学生くらいかな?
「優しそうな人だね。付き合ってるの?」
「んーん、・・・
・・・ふぅ。
・・・言っちゃうか。
従兄なの。ちょっとやばい感じだよね。」
「やばい?、なにが?」
「んーー、ほら、近親何とか・・・みたいな?」
「それって、親とか兄妹とかじゃないの?
従兄もそうなんだっけ?」
「法的にはギリギリセーフらしいんだけど、世間的にどうなんだろ?」
「あは、調べたんだ。」
「うっ・・・そりゃまぁ・・・(笑)」
「法的に結婚出来れば大丈夫じゃない?、私は応援する!」
「ありがとう、勇気出た!」
そうだ、この流れで私の悩みも打ち明けてみよう。
「紗奏、私の悩みも聞いて。」
「うん。なに?」
「私病気かも?・・・依存症?」
「どうしたの?」
「あのね、一人で寝てると、涙が出てくるんだよね。
・・・悲しいとか全然ないんだけど。
・・・それと、眠れなくて・・・
・・・こないだまでお父さんと一緒に寝てた。
最近はわりと平気なんだけど、それでもたまに。」
(変な子に思われるかな?・・・)
紗奏は黙って静かに私を見つめてくる。
「それって、まだ心がいっぱい傷ついてるってことじゃない?
気にしないで、いつまででも甘えたらいいと思うよ。」
「う~ん、そうなのかな~・・・治るのかな、お父さん依存症」
(私は少し苦笑い)
「旅行の時、私と一緒の部屋で寝ても平気だったよね?」
「うん。平気だった。
・・・そっかぁ~、紗奏依存症もあるのか~(笑)」
「ぷっ(笑)、それはいくら依存してくれてもいいよ。
梨桜はかわいいから。」
「気にしないでいいのかな?」
「いいさー。」
「お父さんは変に思わないかな?」
「むしろ喜ぶでしょ。こんな可愛い娘を抱いて寝られて。」
「ちょっと、それはどういう意味かな?紗奏さん。」
「ああ、エッチな意味じゃなくてね。」
「むむ・・・私じゃエッチな気分にならないと?」
「ええー、そうじゃなくて・・・って、梨桜さん、
今日はSモードだ(笑)」
「あはは(笑)、もうちょっと女らしくなりたいな~」
「・・・女らしいよ。」
(紗奏は少しトーンを落としてそう言ってくれた。
うーん・・・私に女らしいところなんてあるんだろうか?)
「ありがと。
あ、で、話戻るけど、思い人さんとはどんな感じ?」
「うーん、
・・・大学生だからなー、私なんて女としては見てないかも。」
「そうかな?
このあいだもあかねさんたちに交じって、違和感なかったよ?」
「いやいやいや・・・あの色気にはとてもとても。(笑)」
「いえいえいえいえ、その方のお色気もなかなかどうして。(笑)」
「てか、ぶっちゃけ言うよ?
女らしさならクラスでもダントツで梨桜。君だ!」
(なんか突然すごい勢いで宣言されました!)
「ど~こ~が~!。」
(この私のどこが女らしいのか、ちょっと説明してもらいましょう!)
「梨桜?
女らしさって、思いやりとか気配りとかしぐさとか、内面から出るも
ののほうがずっと大きいんだよ。そういう意味で梨桜はもう大人の女
性の域だよ。」
「・・・褒めすぎだってば。」
(まさか、そんな風に思ってくれていたとは・・・。)
「それにさ、2学期になって男子の梨桜を見る目がちょっと変わったの
気づいてた?」
「え?」
「急に綺麗になったから、男子連中ちょっとざわざわしてたよ。
杉田が初日に告って来たのもおそらくそのせい。
前から好きだったんだろうね、
だから取られたくなかったんじゃない?」
「・・・変わったとしたら、お父さんのおかげかなぁ。
あ、服が新しくなった!(笑)
髪も切ったし~。」
「もう!(笑)そういうんじゃなくて、
前までちょっとバリアがあったんだよね、それがなくなって、
後は目立たないようにしてたと思うんだけど、それがなくなって、
本来の可愛い梨桜さんが姿を現しました。」
「バリアか~、それはあるかも・・・。
いろいろ警戒してたし。」
そんな中学生らしいコイバナのようなそうでないような話をしなが
ら、2学期初日は過ぎていきました。