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5/12

山が私を呼んでいるっ!

登場する一部の地名は架空のものです。

  【お盆の予定】


「お盆はどこか行きたいところあるか?」


晩御飯を食べてるとき、お父さんが聞いてきた。

そっか・・・明日からお盆なんだ。


お母さんもあの世から帰ってくるのかな・・・


「お盆って、どこも混んでそうだよね。

 楽しめるところより、落ち着けるところがいいな。

 でも、お父さんは実家とかには帰らないの?」


「ここ数年は帰ったり帰らなかったりだな。

 今年は帰らないつもりだったけど、見てみたいか?」


お父さんの実家は新形県なのだそうだ。

新形と言えば、お米とお酒。

のんびりしてそうと言えばそうなのだけど、

ちょっと気疲れしそうな気はするなぁ・・・

なんて考えていると・・・


「いきなり娘ができたとか言って、連れて帰ったら、

 おもちゃにされるのが目に見えてるからな、(笑)」


「だよね・・・(笑)」


「特に希望がなきゃ、山行くか?」


「あっ!、山っ!、行きたい!」


「おーっし!、じゃぁ、お盆終わりの15日から3日間な。

 ちなみに、行先は内緒だ。(笑)」


「あははっ、でたよ~~(笑)、目隠しでもしてく?」


「まぁ、楽しみにしてなさい。

 ところで、お前運動とかは得意か?」


「うん。まぁまぁかな、短距離は普通くらいだけど、マラソンは結構頑

 張るほうだよ。

 なになに~~、すっごい険しい山なの~?」


「それは秘密だ。よしよし、じゃぁオッケーだろう。

 当日は、いつも履いてるスニーカーと、インナーは綿はやめて化繊ね。

 明日、上に羽織る薄いジャンパーか、ヤッケを買いに行こう。

 それ以外の道具は、レンタルで借りられるから。」


やばい、すっごい楽しみになってきた!

こないだの海も結構な秘境だったし?

今度はどんな所へ連れてってくれるんだろう。



  【伸朋】


 昨日あれから考えた。

心に深い傷を負った梨桜を何とか回復できないか・・・と。


思いついたのは、山、森林浴、高原、自然、動物、そういったところだ

った。これからお盆の時期はどこも混む。飛び込みでの予約は容易では

なさそうだが、どこでもキャンセルはあるものだし、宿もブッキングを

考えての『押さえ』は取っておくものだ。


 昼休みに検索をかけてみる。

やはりどこもいっぱいだ。

私は直接電話して確かめてみる事にする。


そうしたところ、3件目で予想通りツアーの中にキャンセルがあり、も

ぐりこめるとのことだ。行先は、おそらく心をいやすには絶好と思われ

たが、問題が一つあった。かなり体力を使うだろう・・・と言う事だっ

た。


だがそれも概ねクリアーしたと思っていいだろう。

中学生が長距離に自信があるとなれば、そこらのにわかスポーツマンよ

り遥かに体力があるのだから。


 お盆当日の13日、14日は唯の新盆になるから、静かに二人で過ごそ

うと考えている。ここら辺では地元のように『迎え火』やら『送り火』

などといった風習はないのだが、きっと近くに帰ってきていて見守って

いるに違いない。



  【静かなお盆はお家にて】


13日。


お父さんの地元では彼方からみんなをお迎えするための『迎え火』と

お送りする『送り火』という風習があるのだそうだ。

稲わらに火をつけて『ここへ帰ってきてね』という願いを込めて海に流

すのだとか。


それを聞いた私は、お母さんがあっちのアパートに行かないようにお迎

えしようとお父さんに言った。


 「 「この火にござりませ。」 」


私とお父さんは、マンションのベランダに出て線香花火に火をつけて空

にお願いする。


 (お母さん、ここへ帰ってきてね。

  私はお父さんと幸せに暮らしています。)


14日。


今日は、当日の買い物にちょっとだけ出かけた。

薄い雨具と、折り畳みの傘、あとは非常食のチョコレート。

お父さんとなら遭難しても平気で暮らしていけそうだな。



  【山が私を呼んでいるっ!】


そして、待ちに待った『山』へ行く日がやってきた。


昨日お父さんと荷造りをして準備は万端。

着替えは多め、帽子、タオル、折り畳みの小さい傘。


・・・そう、こんなに晴れているのに、週間予報でも日本晴れが続くと

されているのに、「一応な。」だって。


確かに、山の天気は変わりやすいといいますよね?(笑)

とってもドキドキハラハラしそうです。


そして、車に乗って1時間ほど。

・・・山どころかどんどん海のほうへ走ってきましたよ?

あれあれ~~・・・(笑)


着いたところは何と空港。

(おおおお!、飛行機で行くのかしら?)


空港内はとても混雑していて、離れたら迷子になりそう。


『お客様にお尋ねいたします。

 迷子の中学生を保護しております。

 お心当たりのお客様は係員にお申し出ください。』


そして、泣きながら走ってくるお父さん!

・・・ぷぷっ(笑)


私がそんな妄想で遊んでいるとはつゆ知らないお父さんはカウンターで

チケットを受け取り、

「出発まで時間があるから、ご飯でも食べよう。」って。


食堂はどこも激混みなので、パンとジュースを買ってベンチで食事。


私は、どこ行きに乗るのだろうかとワクワク。


まぁ?

あれですよね?


暑い時期でもありますし?


飛行機で行って、山へ登ると言えば、あそこしかありませんよね?

お父様・・・


残念ですが、答えは見えてます!

見えちゃってますからね!!(笑)



・・・ところが、てっきり北へ行くものと思っていた行先は、なんと南。

福岡行きでありました。

・・・う~~ん・・・暑い時に熱いところへ行って、山へ登って涼む?

この落差を楽しむのですねっ!



・・・ところが、その福岡でまたまた飛行機に乗るのでありました。


そこか~~~~~~!!!!



     ――――― 屋久島 ―――――



そう!!

何と行き先はなんと屋久島でした。


えっと~

杉が有名な島だよね?

島なのに山があるのかなぁ・・・?


等と思いつつ、お父さんと搭乗口へ・・・


おおおぉぉ!! プロペラ機!

なんだかレトロなにおいがイタシマス。


・・・ところが!、走り出すとなんて強い加速!

ソフトな(?)ジェットコースター並みの加速であります。


ごめんなさい!

私なめてました!

プロペラ機凄い!!


そうして飛ぶこと40分程・・・

・・・そろそろ屋久島上空、という頃、

あたりは霧っぽくなってきました。


今日は全国、日本晴れ!・・・のはずが、ここは霧のようです。



そして、視界不良をものともせず、無事飛行機は屋久島に着き、集札口

を出ると添乗員さんが待っていてバッジをくれた。

二人で旅行だと思っていたら、ツアーのよう。

人数は30人くらいかな。


私たちはバスに揺られながら、ガイドさんの話に耳を傾ける。


小さい島だけど、1900メートルを超える山があり、それゆえに北は北海

道から、南は亜熱帯までの植物が見られるそうで、それが世界遺産に登

録される所以となったのだとか。


・・・と話を聞いている時、バスの窓から猿たちを発見した。

丁度ガイドさんもそれを見つけて、この島は人よりサルやシカが多いん

ですよ。と話してくれた。


また、ここは雨がとても多いらしく、来るときに傘を持ってこない人は

必ず降られて痛い目を見るという。


・・・さすがはお父さん。下調べも完璧ですね!

ちらりと横顔を除くと、にっこり微笑んでいる。


その後、今日は滝を一カ所見て回ったのだけど、立ち並ぶ木々に比べて

地面には土があまり見られず、岩肌に苔が生えていて下草もそんなに多

くなかった。


この島は火山島ではなく岩が隆起してできた島なのだそうだ。

また、標高がとても高いため、雨も多く川も滝もとても多い。

それゆえ、落ち葉が土になっても海へ流されてしまうのかなぁ・・・


その後、植物園を見学してホテルに入った。


添乗員さんの話だと、縄文杉コースは朝4時起きでそこから5時間かけ

て登り、5時間かけて降りてくるのだそうだ。


なので、今日はアルコールは控えて早めに休んでください、って。


これはなかなかハードな山登りになりそうです。




  【20.夏休みもあとわずか】


 私の誕生以来、良いことも悪いことも、これほどたくさんの出来事が

詰まった一年は今後訪れないだろうというような慌ただしい夏も終わり

を告げようとしている。


 とりわけ、お盆の終わりに行った屋久島はとっても素晴らしいところ

だった。


しばらくは平たんなトロッコ道を進み、そこから結構急な山道に入った

のだけど、その森の中のなんて心地の良い事。


 あたり一面、水気を含んだ真夏とは思えないような涼しい空気の中を、

本当にアニメの世界のような中を歩いた。


 その空気故か、木々の幹も岩肌もいたる所が苔むしていた。


途中、切り株から上を見上げると『ハート形』に見えるという中で記

念撮影をし、4時間ほどかけて辿り着いたその縄文杉は言葉にできない

くらいの存在感を持っていた。


 ただ静かにそこにたたずむ、古い古い巨木。

いまだ樹齢がわからないこの古木は、一時期樹齢7,000年ともいわれ

ていたのだとか。ただ、地学的にそれはありえないだろうと言う事に

なり、現在考えられている最高樹齢は4,000年ほどだという。


 4,000年を見続けてきたこの木は、今何を思うのだろう。


そんな夏の思い出に浸りながら、いつものようにお父さんを送り出し、

軽く身支度を整える。


今週は夏休み最後の週末なので、紗奏とお茶しに行くのだ。


風はすでに秋の気配を運んできているので、ワンピースも秋っぽいほう

にした。

(出会った時に買ってもらったもう一着の方だ。)


家を出て、塀の上にいるたまちゃんを撫で、すっかり慣れた駅までの道

を歩く。


(空が高いな~~・・・)



 前に偶然会ったおしゃれなカフェで待ち合わせてあれこれとたわいも

ない話をしていると・・・


「あれ?珍しい組み合わせじゃん。」


と、後ろから声をかけられた。

振り替えると、明美と美帆と紗理奈だ。


「 「おひさー。」 」


私たちは軽く返す。


「せっかくだから、一緒していい?」

「いーよ、どーぞ。」

私は紗奏に倣って軽くうなずいておく。


 しばらくは普通に夏休みの出来事を報告しあったり、課題の進み具合

について話をしたり、いたって普通の会話をしていた。私は幾分警戒を

していたけど、杞憂に終わりそうだなって思っていた。


ところが・・・

「そういえば、二人はよくここ来るの?」

そんな風に明美が聞いてきた。


「んーん、これで二回目。頻繁に来るほど贅沢できないって。」

と紗奏が返すと、

「だよね、うちらにとっちゃ敷居が高いよね。」

 (いや、明美、その使い方は間違ってるから)

・・・私は心の中で突っ込んだ。


「あとさー、あんたんちって大丈夫だったん?」

明美は訳知り顔で紗奏に尋ねる。

 (私はとても嫌な予感がした。)


「ん?なにが?」


「親の会社、潰れそうとか、潰れたとか聞いたけど。」

「はぁ?潰れたのはお父さんの会社の取引先。ウチはへーき。」


「へー、銀行に頭下げて泣きついてたって聞いたけど。」

 (明美は勝ち誇った顔でニヤニヤしている。)


「あのね。ドラマじゃあるまいし。銀行はお金を貸して利子を取って利

 益を上げるのが仕事。わかる?融資先はお客様なの。ただ、危ないと

 判断したら貸さない。そんだけ。で、ウチは全く問題なし。」


紗奏はこれでもかというほどバッサリと切って捨てた。

さすがだ。


そして、明美も二の矢が放てずに・・・

「ごめんって。何ともなければよかったじゃん。心配して損した。」


そんなことをのたまう。

何を言っているんだか。


場の空気はとても剣呑になってしまった。

夏休みの最後が台無し。


何か理由をつけて帰ろうかなーと、紗奏に目配せすると・・・


「あとさー、梨桜のお母さん死んじゃったんだって?ご愁傷様。」


今度は私のほうに振ってきた。

・・・嫌な予感がする。


「うん。ありがとう。」

とりあえず答えておく。


「で、聞いたんだけどあんた今、父親と暮らしてるんだって?」

「うん、そうだよ。」


「へー。確か母子家庭だって聞いたけど、父親に引き取ってもらえてよ

 かったじゃん。」


人の口に戸は立たないらしく、どこからか仕入れたネタを披露してきた。

夏休み前まで、明美がうちの家庭状況を知っていたとは思えないから、

おそらくおしゃべりな先生が話したんだろうと私は思った。


「うん。優しくしてもらってるよ。」

「でもさ、怪しいよねー、今までほっといて母親が亡くなったからって。

 なにか、別の目的があんじゃないのー?」


「なに?別の目的って?」

この子は何を言ってるんだろう?


「あんた、お風呂とか一緒に入ろうって言われてない?

 そういう目的よ。(クスクス)」


私は怒りを通り越して呆れてしまった。

呆れるもちょっと違う。

この子のことがどうでもよくなってしまったんだ。


だから、もう会話に付き合う気にはなれない。


関わり合いになりたくない。


顔も見たくない。


ちらっと紗奏に目をやると、顔を真っ赤にしてキレる寸前のようだ。


自分のことのために友達を切らしては女が廃るというもの。


「紗奏、時間だから行こ。」私は静かにそう言って席を立つ。

「・・・、うん。そうだね。」

  (紗奏は怒りを飲み込んでくれたみたいだ。

    ただ、目線だけで明美を射殺してしまいそう。)                  


「なに?無視?ムカつく!」


「もう話しかけないで? 気持ち悪いから。」

私は自分でも信じられないような冷たい言葉を投げていた。


「あー。明美、あたしにも話しかけないでくれる?

気持ち悪いから。」


真っ赤になっていた明美の顔がみるみる真っ青になっていく。

・・・・・・紗奏の視線にあてられて。


両隣の二人は、ただ気まずそうにしていた。



 二人で店を出て歩く。


 「飲みなおそ。」

 「そうしますか。」


私たちは特にどこへ行くともいわずに電車に乗った。

そして一駅、私の家がある駅だ。


駅中のお店で小さな箱入りのケーキを買って家路につく。


もくもくと・・・あるく・・・


 「うりゃ!」と、私は紗奏の脇腹をチョップ!

 「ひゃうっ!!!」(紗奏が変な声を上げる。)


 「とー!」反撃に両わき腹をギュッとされた!

 「ひゃぃっ!、あはっ!、紗奏、ケーキ、

       ケーキがどうなってもいいの?」


  ・・・とけん制しておき・・・


 「うりゃ!」と、ケーキを人質にとって、

 再度わき腹をチョップ!


 「アハハハハハ・・・卑怯な!」

 「 「アハハハハ。(笑)」 」


 「縁が切れてよかったかも。」

 「うん、すっきりした。」


そうそう。私たちが、あんな子のせいで気分悪くなる必要はないのだ。



と、前を見覚えのある後姿が歩いている。


私はちょっとだけ足を速める。


紗奏も早める。


前のご婦人は、猫ちゃんを連れているので、すぐに追いつく。


「こんにちは。」 私は声をかける。


杠さんはふりかえり、「あら。ごきげんよう。」


「ケーキ買ってきました。」

  私は箱をちょっと高く上げてニッてする。


「あらまぁ、それじゃお茶にしましょうね。」


やった! 勧誘成功~♪


「初めまして、私は友達のすずかと言います。」

「初めまして、お向かいのゆずりはです。


 夏休みも、もうすぐ終わりねぇ。


 どう?楽しい思い出はできたかしら?」


「 「 はいっ 」 」

お読みいただき、ありがとうございました。

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