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ある女軍医のお話  作者: ハル
12/12

厚いコートを着込み長いマフラーを何重にも巻いていたが冷たい空気はどんどん身体を冷やしていく。が、今の男にはそのくらいが心地よかった。


何故なら目の前の人混みを駆け抜け、ある場所へ急いで向かわなければならなかったからだ。(はや)る気持ちが身体を火照らせる。


「悪い、通してくれ。忙いでるんだ」


半ば突き飛ばすように人を掻き分けていく。男に押されたスーツの男は眉間に皺を寄せ睨むがその視線に気付きもしないままひたすら前へ走り続けた。



着いたのは2階建ての四角いビル。クリーム色の壁で囲われ真ん中に木の温もりを感じる茶色のドアは早く中へ入る様に優しく男を急かした。


«ガチャ…»中へ入ると受付は真っ暗で誰もいなかった。


階段を昇り花奈(かな)のいる病室へと向かった。廊下の途中で手術着姿の担当医と出会った。その女医はにこやかな笑顔を向けながら言った。


「女の子でしたよ。顔はお母さん似で髪の色はお父さんと同じ綺麗な金髪です」





「……入るぞ」


静かにドアを開けると花奈はベッドで疲れ切った様に目を閉じていた。その横には毛布でくるまれた赤ちゃんが一緒に眠っている。


起こさないようゆっくりとベッドに近づき花奈の頭を撫でた。


「……ん…お帰りなさい」


起きた花奈は自分の頭に置かれたの手を優しく握り締めた。


「遅くなって済まなかった。よく頑張ったな」

「ふふふ…疲れたし痛かった〜。……可愛いでしょ?女の子だって」


隣の小さな頭を触ってみた。奏の掌にスッポリと収まってしまう程本当に小さな顔だ。触った途端赤ちゃんはぐずり出した。すぐに顔から手を離した。


花奈が身体をポンポンとしてやると赤ちゃんはすぐに静かになった。


「流石だな。俺には無理そうだよ」


そう言うと花奈は笑った。


「何言ってるの。今日からお父さんなのよ。しっかりしてよね」


花奈に微笑みながら奏は頷いた。


「そう言えば発駕隊長から連絡があったよ。明日見に来るって」

「そうなの、隊長に会うの久しぶりだな。奏は?」

「悪いけど明日は大事な手術(オペ)がある。予定通り終われば昼過ぎには来てやれるよ」

「それって佐久間さんの?」


佐久間とは奏の左手を撃ったあの兵士の事だ。戦争が終わり兵士を辞めた途端癌が見つかり、それ以来手術を繰り返していた。担当医は最初から奏だった。佐久間がそう希望したからだ。


奏がY国の軍医として入隊した頃、最初に友になった兵士は佐久間だった。周りが敬遠する中、佐久間だけはいつも奏と一緒だった。何人かの兵士は皮肉の様にそんな佐久間をからかった。


「お前が最初に虐めて一番楽しそうだったよなぁ」


そんな嘲笑を佐久間は涼やかに言い返した。


「ええ、そうでしたねぇ。ですがあなた方も私と一緒に居ました。傍で傍観している貴方達も私と一緒で楽しそうでしたよ」


そう言うと兵士達は決まりが悪い顔になりそそくさと去っていった。気にせず酒を飲み続ける佐久間に

聞いてみる。


「よく自分が撃った男と酒飲めるよな」

「貴方も自分を撃った男とよく飲めますね」


変わった男だと思ったがそれでも一番気が合う仲だった。Y国へ入国すると(しばら)くは佐久間の世話になった。「そうしろ」と佐久間が強く勧めたからだ。


佐久間に対する遺恨などとうに消えていたが奏への懺悔の気持ちは全く薄れていないようだった。


生活に慣れてきた頃、佐久間から突然呼び出された。


「癌が見つかりました。かなり転移が広がっていてあまり長くは生きられないそうです」


まるで他人の話をしている様だった。


「元の場所は?」

「膵臓です」


癌の発生場所としては一番最悪だ。生存率も低い。

転移が見られるなら尚更だ。


「担当医を探していましてね。助からないと分かっている患者でも親身に接してくれる医者をね」


佐久間はチラリと隣の奏を見る。失笑しつつ黙って頷いた。


「来週あたりにうちの患者が1人退院する。日当たり最高の病室だ」

「それは楽しみ」


ビルの屋上、欄干にもたれる二人の男は青空にこだまするかの如く笑った。




赤ちゃんが急に泣き出した。ムクッと起き上がると花奈はそっと抱き上げた。


「ごめんねー。母さんと父さんがうるさかったねー。よしよし、いい子いい子…奏もやってみる?」

「いや俺は…」


いい、と言う前に花奈にポンと渡された。慣れない手つきは赤ちゃんを一層不安がらせる。


泣き止まない赤ちゃんを抱えたまましどろもどろしていると…


「頭をちゃんと支えてあげて、少し身体を揺らしてやるの」


花奈の助言を頼りに一生懸命あやしてみると次第に赤ちゃんも心地よくなってきたのか欠伸をし始め遂に静かになった。


「ふぅー…手術(おぺ)より神経使うな」

「アハハッ、可笑しな人」


奏の手から赤ちゃんを受け取るとゆっくりベッドに横たえた。その寝顔は吸い込まれそうなほど可愛らしかった。



「花奈」


「ん?」


「ありがとう」


「どういたしまして」























連載初終了となります。読んでくださった皆様に厚くお礼します。


なにぶんど素人の作品です。

良ければ読んだ感想、コメント、アドバイス頂ければ嬉しいですね(笑)

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